第23話:あのさ……どうかな、私のこのコスプレ

 その夜。俺はモヤモヤを抱えたまま眠りについた。

 そして2週間ぶりに夢の中に姫騎士さまが出てきた。

 寝る前は、もう二度と岸野の夢を見ないんじゃないか、なんてちょい不安を持っていたからなんだか少しホッとした。


 夢の中の岸野は、今日していた魔法少女のコスプレ姿だった。


 艶々と光る黒い自毛をツインテールにして、そこに結ばれたバイオレットのリボン。

 腰できゅっと絞られた魔法少女の衣装が、岸野のスタイルの良さをさらに際立たせている。


 普段の姫騎士さまなら絶対にはかないであろうふんわりとしたミニスカート。そこから伸びる美しい脚。黒っぽいニーハイソックスとの間の絶対領域は透けるように白くてエロい。


 夢の中でまでこのコスプレ姿だなんて、俺はよっぽど岸野の魔法少女を気に入った……ってことか?

 それともこれは、岸野自身がこの格好でいたいと願っているのか?


 うーん、正直よくわからない。

 だけどもこの姿の岸野がめちゃくちゃ可愛いってことだけは間違いない。


「あのさ……どうかな、私のこのコスプレ」


 目の前の岸野は真っ赤な顔でもじもじしながら、甘えた声を出している。

 ただでさえ可愛いこのコスチュームでのこのデレっとした態度。

  俺の目は自然と、ミニスカから伸びる白い絶対領域へと引きつけられる。絶対領域って磁石で俺の目は鉄かよってくらいだ。


 ──あ、いやヤバい。


 今さっき、絶対にスケベな目つきになってたよな俺。鬼頭のことを悪く言えないぞ、あはは。


 いや違う。

 ここは夢の中だ。だから許される。

 だけど鬼頭が岸野をジロジロ見てたのは現実世界だ。

 だから許されないんだよ。


 そうだ、そういうことにしとこう。


 ──なんて自分で自分に言い訳をする。


 でももしも実際に岸野と俺の夢が繋がってるなら、俺のこの目つきは現実の岸野にも気づかれてるってことだよな……?


 だったらマズいことは確かだ。

 岸野に『キモっ!』なんて思われたくはない。


 ちゃんとごまかさなきゃいけない。どうしたらいい?

 あ、そうだ。姫騎士さまに、『可愛いね』なんて言ってごまかすんだぞ、俺!


「岸野。あの……えっと……」


 現実の岸野と繋がってるかもと思うと、今までみたいに夢の中だからって気楽に可愛いとか言えないよ……

 でも目の前の姫騎士さまは、相変わらず夢の中バージョンでめっさ可愛い。眉尻を下げて、期待半分、不安半分って顔で俺を見つめてる。


「か……か……可愛いよ」


 出た。言葉がやっと出た。


「ホント?」


 岸野は整った顔をニヘラと崩して嬉しそうに笑った。


「あ、うん。めちゃくちゃ可愛い」

「やったぁー! ありがとう勇士くん」


 うっわ!

 姫騎士さまが、なんと俺にがばっと抱きついてきたぁ!

 ほっぺ同士をスリスリされてる。

 俺の胸に当たるこの柔らかな感触はおっぱい……


 柔らかい。とーっても柔らかい。

 夢の中なのにこんなリアルな触感なんて、ヤバいぞ。

 ヤバすぎる。


 どどど、どうしよう……

 いかん。頭がクラクラしてきた。

 ちなみに俺は、女の子に抱きつかれた経験などもちろん皆無だ。


 このままずっとこうしていたい。

 だけどあまりに気持ち良すぎて、このままでは俺は姫騎士さまに襲いかかりそうになる。

 このままでは……俺は間違いなくダークサイドに堕ちる。その前に、ちょっと落ち着こう。


 俺はそう考えて、とても残念な気持ちを押し殺しながら、岸野を優しく手で押して身体を離した。岸野は「あ、ごめん」と言いながら、恥ずかしそうな顔をしてる。


「あ、あのさ姫?」

「なに?」


 岸野はコテンと小首を傾げた。

 うーん、これも可愛い。


 でもこれ、マジで現実の岸野と繋がってるのか?

 この前の、バイオレットリボンの一件で、9割以上はそうだと思ってる。だけど100%ではない。


 岸野の説明したバイオレットを選んだ理由と、俺が夢の中で彼女にした説明が一致したことが、偶然という可能性もあるからだ。


 例えば──

 俺が適当に考えたと思ってる理由が、もしかしたら以前俺がネットか何か読んだもので、自分の記憶にないだけかもしれない。

 そしてたまたま岸野もそれを見たことがあって、答えが一致した。

 そんな可能性を否定はできない。


 俺は、岸野とホントに夢の中で繋がっているって信じたい気持ちは大いにある。

 だけどうかつにそんなことを信じて、もしも事実とは違った場合、俺はとんでもない勘違い男になっちまう。そんなのは嫌だから、ついつい慎重になる。


 だから俺は、念のためにもう一つ検証をしてみようと考えた。


 その方法は──


「あのさ、姫。ちょっと訊きたいんだけどいいかな?」

「うん、私の趣味でも好きな食べ物でもなんでも訊いて!」


 姫騎士さまはなぜか目を輝かせて、ワクワクな顔をしてる。自分のことを知って欲しいってことかな?

 でも俺が訊こうとしてるのは、そんなことじゃないんだよなぁ。


「コスプレイベントに鬼頭が来たたろ?」

「えっ? あ、いや、鬼頭くんとは、なな、なんでもないからっ!」


 岸野は急に慌ててる。

 俺が訊きたいのはそれじゃなかったんだけど……

 でも鬼頭とはなんでもないという言葉を聞いて、なぜか俺はホッとしている。

 やっぱ俺は、鬼頭に嫉妬してたのか?

 これは……もう自分でも認めざるを得ないかもしれない。


「あ、そうなんだ。わかったよ。でも姫、俺が訊きたいのはそうじゃなくてさ」

「へっ?」

「鬼頭と一緒に来たヤツ。あれ、剣道部の後輩?」

「あ、うん。そうだよ」

「彼の名前はなんて言うの?」


 姫騎士さまはきょとんとした。

 なんでそんなことを訊くんだろうって感じだ。


 しかしこれは、俺にとっては極めて重要な質問だ。

 そう。姫騎士さまと俺の夢が本当につながっているのか、完全に検証するために極めて重要な質問なのだった。

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