第22話:男子剣道部主将・イケメン鬼頭
「よっ!」
店に入ってきた鬼頭が、岸野と加納の姿を見つけて手を挙げた。鬼頭はなかなかのイケメンだし、爽やかな笑顔で手を挙げる姿も様になっている。
「二人とも、えらく可愛いカッコをしちゃって。特に岸野なんか、普段の姿からは考えられないくらい……可愛いじゃん」
「あれー? 鬼頭キャプテン、来たの?」
「おう、来たぜ。可愛い二人をどうしても見たかったからな」
「そうなんだ……」
加納はなぜかちょっと困ったような表情で、岸野をチラと見た。岸野の方は強ばった顔で口を開いた。
「鬼頭。来るなって言ったのに……」
「いいじゃん岸野。キミのそんな可愛い姿を拝めるなんて、めったにない機会なんだから」
「くっ……」
岸野は苦々しそうに顔を歪めている。
どうしたんだろ?
「いや、ホントに可愛いよ岸野。ますます好きに……」
「まあまあ鬼頭。そんなところに立ってないで、席に案内するよ」
「あ、ああ。頼むよ岸野」
岸野は鬼頭の言葉を遮ぎるようにして、彼を座席に案内した。
よく見ると鬼頭の後ろにはもう一人、見たことのない男が一緒にいる。
岸野と加納に「先輩ちわっす」なんて言ってるから、どうやら剣道部の後輩みたいだ。
ところで鬼頭のヤツ、今なんて言いかけた?
もしかしてアイツ、岸野のことが好きなのか?
しかも今の岸野の態度だと、岸野も元々そのことをわかってるかのようだ。
鬼頭って今までクラスが一緒になったことはないし、中学の時も剣道大会でたまに顔を見るだけだったんで、どんなヤツなのかあんまり知らない。
だけどイケメンだし男子剣道部主将でスポーツもできる。同じように女子剣道部主将で美少女の岸野とは、お似合いだとも言える……
部活で交流もあるだろうし。
席に移動しながら鬼頭は親しげに岸野に話しかけている。岸野の方は恥ずかしさからか、固い表情のままだ。
そっか。鬼頭は岸野のことが好きなのか。
岸野は鬼頭のことをどう思ってるんだろ……
鬼頭は男子剣道部主将だし、同じ剣道をして強い異性に岸野が惹かれるってことはあり得る話だろう。
俺も昔は剣道をやっていて中学2年では県大会で優勝もしたけどな。まあそんなことはもう遠い昔の栄光だ。
二人の姿を見てるとそんなことが頭に浮かんできて、ちょっとモヤモヤするものが胸に広がった。
これは──もしかして嫉妬というやつか?
いやいやいや。
俺は何を気にしてるんだよ。
岸野が俺に好意を持ってるなんて、本当のことなのかどうかわからないじゃないか。
それに岸野は俺の彼女でもなんでもない。
鬼頭が岸野を好きであろうが、岸野が鬼頭に好意を持っていようが、彼らの勝手なのに。
岸野が俺に好意を持ってる可能性があるってだけで、鬼頭の行動にモヤモヤするなんて、なんて俺は自分勝手な男なのか。ちょっと落ち着けよ俺。
──そう自分に言い聞かせた。
だけども鬼頭が店内にいる間、岸野の姿をじっと見て後輩と何やらヒソヒソ話しているのが何度も目に入る。
──くそっ、鬼頭の野郎。
あんなスケベな目つきで岸野を見やがって。
あ、いや。
鬼頭がホントにスケベな目で見ているのかはわからない。俺にそう見えただけかもしれない。
どうしちまったんだよ俺。何をそんなに気にしてんだ?
だけど、そんななんとも言いようのないモヤモヤは、俺の胸の中から消えることはなかった。
***
「姫ちゃん、澄香ちゃん、お疲れ様ぁ〜!」
「お疲れ様です」
「マスターお疲れ様ですぅ〜!」
ようやく今日の営業が終わって店を閉めた。
「あ、ついでに勇士もな」
「俺はついでかよっ!」
「勇士も忙しく働いてはくれたけど、まあ今日の大盛況は女の子二人のおかげだからな。許せ、あはは」
加納のヤツ、楽しそうにクスクスと笑ってやがる。
岸野はなんか……微笑ましそうに笑ってるな。
「二人は学校の同級生まで呼んでくれたんだね。ありがとう」
親父はきっと鬼頭のことを言ってるのだろう。
それを聞いて、加納がなぜかチラッと俺を見た。そして慌てて親父に言い返した。
「あ、違いますよマスター。彼らは私たちが呼んだんじゃなくて、勝手に来たんです。ねぇ、そうでしょ姫ちゃん!」
「あ、うん。そ、そうだ」
「私がついうっかり口を滑らして、鬼頭君にコスプレイベントのこと言っちゃったんだよね。姫ちゃんは鬼頭君には、来なくていいって何度も言ってたのに……ごめんね姫ちゃん」
加納は何度も俺と岸野をチラチラと見ながら、申し訳なさそうにしている。
「うん、いいよ澄香ちゃん。仕方ない」
加納の態度は俺に対して言い訳をしてるように見える。
岸野はやっぱりホントに俺に好意を持っていて、それをフォローするために加納はそんなことを言ってるのか?
そういうふうに取れる加納の態度だ。
──だが、真実ははっきりはしない。
そして岸野が鬼頭のことをどう思っているのかも、よくわからない。だから俺はモヤモヤしたものを抱えたまま、この日は解散となった。
それにしても──
嫉妬だかなんだかよくわからないけど、本来なら俺がそんなものを感じる必要がない。だけどモヤモヤしたものを感じるのは事実だ。
俺はそんな感情を自分が持つことに、戸惑わざるを得なかった。
***
その夜。俺はモヤモヤを抱えたまま眠りについた。
そして2週間ぶりに夢の中に姫騎士さまが出てきた。
寝る前は、もう二度と岸野の夢を見ないんじゃないか、なんてちょい不安を持っていたからなんだか少しホッとした。
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