第17話:可愛すぎて私には似合わない
◆◇◆◇◆
〈姫騎士side〉
カフェJKでのバイトの帰り道。
私は澄香ちゃんと歩きながら、コスプレイベントの話をしていた。
「ねぇ姫ちゃん。なんで魔法少女にするって決めなかったのよぉ」
「だって魔法少女なんて可愛すぎて、私には似合わないだろ」
「そんなことないって。国定だって、姫ちゃんがそのコスプレしたらめちゃくちゃ可愛いって言ってたじゃん!」
「あんなのお世辞に決まってる」
「そんなことないと思うけどなぁ」
「そんなこと、あるって」
私だって、国定くんに可愛い姿を見せたいに決まってる。だから何度も魔法少女の写真を見てため息をついてたんだから。
だけど私のイメージには合わない。
国定くんだって、本心ではそう思ってるに違いない。
もしも私が本当に魔法少女のコスプレなんかしたら、国定くんは心の中で苦笑いして、引いてしまうに決まってるんだから。
「でも姫ちゃん。国定って、可愛い系の女の子が好きでしょ」
──え?
澄香ちゃんは、なんでそれを知ってるんだろう?
「へぇ、そうなのかな?」
「なにとぼけてんのよ姫ちゃん。前に教室で国定がそんなこと言ってたじゃん。あんただって知ってるくせに」
「えっ? そうだったっけ?」
「こらこらとぼけるな。姫ちゃんなんて、その時の国定をじーっと見つめてたよね」
「あ……」
「あ、じゃないよ。親友の私に隠さなくたっていいじゃん。姫騎士ちゃんは、国定に可愛いとこを見せたいんでしょ?」
「えっと……」
「ほらほら。正直にゲロりなさい。ツンツン!」
澄香ちゃんが肘で私の脇腹を突いてくる。
澄香ちゃんが言うことは、まったくもって図星なんだけど。
「ん……そ、そうだね」
「やったね。とうとう姫ちゃんが本音を言ってくれたよ。私、全面的に応援するからねっ!」
澄香ちゃんは満面の笑顔でそう言ってくれた。
やっぱり持つべきは親友だ。
今まで自分の素直な気持ちを誰にも言えずに悶々することが多かったけど、澄香ちゃんに本音を言えて、ちょっと気持ちが楽になった気がする。
「頑張らないと、悪の巨乳女に負けちゃうよ」
「澄香ちゃん……応援してくれるのはものすごく嬉しいけど、蓮華寺さんのことを悪の巨乳女なんて言ったらダメだよ。失礼だ」
「あはは、姫ちゃんって、ホントに真面目だねぇ。ライバルのことをそうやってかばうなんて」
「かばうって言うか、何も悪いことをしていない人をディスるのは良くない」
「まあまあ、姫ちゃん。でもやっぱ、姫ちゃんのそういうとこって好きだなぁ。他人を悪く言わないとこ。姫ちゃんは優しいよ」
澄香ちゃんはニッと笑ってサムズアップしてる。
ホントに澄香ちゃんったら。
私のことを気遣ってくれているのがありありだ。
澄香ちゃんこそ、本当に優しい子。
「だからさ、姫ちゃんの可愛いところを、魔法少女のコスプレで国定に見せつけちゃおうよ」
「あ、うん。わかった」
そうは答えたものの。
そんな可愛いコスプレを私がして、本当に国定くんは私を可愛いと思ってくれるのかな?
そんな疑問がぬぐえなかった。
◆◇◆◇◆
〈勇士side〉
その夜。
3日ぶりにリアルな姫騎士さまの夢を見た。
岸野は学校のブレザー制服姿で、いつもの公園のような場所に立っている。
「勇士くん、痴漢男から助けてくれてありがとう」
いきなり姫騎士さまは、笑顔で礼を言ってきた。
「あ、いや、どういたしまして。でも俺が助けなくても、姫騎士さまならヤツに天誅をくだしたかもしんないな」
「ううん、そんなことない。すっごく腹は立ったけど、あれはかなりびっくりして恥ずかしかったから……どうしたらいいか困ってたんだ。そしたら勇士くんが助けに来てくれてすごく嬉しかった」
「そっか。そういってくれたら俺も嬉しいな」
「勇士くん、すっごくカッコよかったよ」
「えっ……?」
カッコいい……?
俺が……?
マジか……?
「きゃぁ、言っちゃった!」
ちょい待て。
あの凛々しくて、男勝りな話し方の姫騎士さまが……両手を頬に当てて『きゃあ、言っちゃった』とな?
そして凄く整った顔なのに、デレデレと緩んだ表情。
これは可愛い過ぎるっ!!
「あ……ありがとう。嬉しいよ……」
「ねぇ勇士くん。勇士くんは、私がコスプレするなら、魔法少女と姫騎士のどっちがいいと思う?」
コスプレの話。本当は俺は、可愛い岸野の姿を見てみたいから魔法少女がいい。
だけどそんな可愛い恰好は岸野が嫌がるだろうなと遠慮して、打ち合わせの時はあえて姫騎士の方が似合うと答えた。
でも今は夢の中だ。
なーんにも遠慮はいらない。
自己の欲望に忠実に本音を言えばいいだけだ。
しかもこの夢の中の姫騎士さまは、デレっとしててめっちゃ可愛い。こんだけ可愛い岸野なら、そりゃもう魔法少女一択だよな。
「姫が魔法少女のコスプレをしたら、すっごく可愛いと思う。ぜひ魔法少女でお願いします!」
「は、はいっ。すっごく可愛いなんて嬉しい。勇士くんがそう言ってくれるなら、私絶対に魔法少女のコスプレするよ!」
姫騎士さまは、頭の上から湯気がぽっぽと出そうなくらい顔が真っ赤だ。
俺の欲望ダダ洩れな言葉に喜んでくれてる。
こんなデレデレに照れた姫騎士さまの姿は、筆舌に尽くしがたいほど超絶可愛いぞ。
「魔法少女の衣装のリボンは何色がいいかな? なんと10色から選べるのですよ。やっぱり勇士くんは、前に選んでくれたみたいにピンクのリボンが好きかな?」
岸野はにっこり微笑んで、コテンと小首を傾げた。勢いで艶々した黒いロングヘアがふわりと揺れる。
こんな姿はリアルでは考えられない。
なんちゅう可愛い仕草なんだよ。
「そうだね。ピンクは姫に似合って可愛いと思って言ったんだ」
「だから私、学校にピンクのリボンをしていった。でも勇士くんが見てくれたかどうかわからなくて、ちょっと寂しかった……」
「あ、そうなの? いや、ちゃんと学校でも気づいてたよ。それにバイトの時も……」
──ん?
岸野の話を聞いて、俺はなにか引っかかるものを感じた。
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