第15話:いよいよ私も、レイヤーデビューですかっ!

「いよいよ私も、レイヤーデビューですかっ! 私、あの大ヒットアニメのキャラやりたいなぁ~!」


 加納はいきなりハイテンションで、大きくガッツポーズをしている。

 コイツ、なにか勘違いしてないか?


「いや待て加納。お前、過度な期待をしていない?」


 俺は両手で加納を制するようにして釘を刺す。

 すると加納はコテンと小首を傾げた。


「過度な期待って?」

「レイヤーとか言ってるけど、本格的なコスプレイヤーみたいにするわけじゃないよ。大ヒットアニメのキャラってなんだよ?」

「もちろんあれよ。鬼になっちゃった妹キャラ。着物着て竹を口に咥えてるやつ」

「口に竹を咥えて、カフェの接客ができるかぁー? 喋れんぞ?」

「あ……そう言われれば無理だね」


 加納はアハハと笑いながら頭を掻いている。

 あくまでお店の客寄せイベントなのに、コイツは何を考えてるんだよ。


「それにさ、加納。特定の有名キャラのコスプレは、それ専用の衣装や小道具がいるだろ? 毎回そんなものを買い揃えるなんて金がかかり過ぎる。だからこの店でやるのは、もっと簡易なコスプレだよ」

「ええーっっっ……そっかぁ。ざぁーんねん」


 やっぱコイツ、大きな勘違いをしてたな。


「じゃあさ国定。簡易なコスプレってどんなの?」

「それは、あれだよ。悪魔とか、動物の着ぐるみとか、季節によってはサンタさんとか」

「じゃあ、あれはどう? じょしこーせーの制服っ! ちょうど店の名前もJKだし。おじさんに大人気になるよ!」

「アホかおまえ。本物の女子高生なんだからそもそもコスプレじゃないだろ。それにおじさんに大人気って、それこそウチの店がいかがわしい店になっちまうよ!」


 加納のヤツ、いったい何を考えてんだ。

 制服着た本物の女子高生がバイトしているカフェJK。

 警察のがさ入れが入りそうだよ。


「じょーだんだよ、冗談! 国定、そんなに怒らない怒らないっ! もうっ、国定ったらくそ真面目なんだからぁ」


 加納め、ケラケラ笑ってやがる。

 からかわれたのかよ俺。


「ちょっと澄香ちゃん……仕事のことなんだから、そんな冗談は良くないぞ」

「あ、姫ちゃん、ごめん。生真面目な人がここにもお一人いましたぁ。それにしても姫ちゃんと国定って、なんだか似たタイプよねぇ」

「「えっ……?」


 俺と岸野は、思わず顔を見合わせた。

 俺と岸野が似たタイプ?

 いや、そんなことないでしょ。


 俺は岸野みたいにガチガチの真面目じゃないし。

 こんな威圧感のあるタイプでもない。


「なにを言い出すのだ澄香ちゃんは」


 岸野は加納をジト目で睨んでる。

 俺と似たタイプって言われて、よっぽど腹が立ったんだな。


「あははーごめんごめん姫ちゃん。良かれと思って言っちゃった」

「もうっ! 余計なことは言わなくていいから」


 何が良かれなんだ? 意味わからん。

 会話の流れもまったく意味不明だし。

 女子同士のトークって、そういうことが多いよな。

 男子が聞いたら、なんだかわからないことで女子同士だけが盛り上がってるってこと。


「ところでだ、みんな」


 いきなり親父が声を出したから、岸野も加納もわちゃわちゃするのをやめて、ハッとした顔で親父の方を向く。


「さっき勇士はああ言ったけど、今回はせっかく新しいメンバーになったんだ。今までのコスプレ衣裳のストックも古びてきたし。今回はちょっと予算を奮発して、通販で一人2~3万円までなら新しい衣装代をお店で出すぞ。好きな衣装を選んでくれたまえ」

「えっ? どんな衣装でもいいんですかあっ?」


 加納がいち早く反応して、顔がぱぁーっと明るくなった。

 なんだよ親父。やけに気前がいいな。

 一人2~3万円なんて、結構な予算だぞ。


「ああ。ただし今ヒットしてるアニメとか、あんまり流行りすたりのあるものはやめてくれな。さあこれで選んでくれ」


 親父はタブレット端末をテーブルに置いた。

 電源を入れて画面を開くと、コスプレ衣装専門の通販サイト画面が既に開かれていた。


 加納が早速タブレットを手元に引き寄せて、「ふーむ」とか言いながら画面をめくっている。興味津々なご様子だ。


 そのうち「うわー、コレ可愛い!」とか「うっそぉっ! これいいじゃん!」とか、きゃいきゃい言い始めた。

 岸野も横から画面をじっと覗き込んでいる。


 いや、そう言えば……

 姫騎士さまもやりますとは言ってくれたけど、ホントにコスプレなんてやってくれるのか?

 それこそくそ真面目な姫騎士さまが、喜んでコスプレなんてするとは思えない。やっぱり嫌だとか言い出さないか?


 あ、いや。

 逆にくそ真面目だからこそ、仕事だとなればやってくれるかも。店のメイド風制服だって、文句を言わずに着てくれてるわけだし。


 そう思いながら加納と岸野の様子を眺めていた。

 加納は相変わらずきゃいきゃいと嬉しそうにはしゃぎながら、衣装選びをしている。

 岸野も熱心に画面を見て、そのうち加納にこんなことを言い始めた。


「ちょっとまってくれ澄香ちゃん。その衣装、もうちょっとしっかりと見せて」


 そして写真を拡大して、「ふむふむ」とか言いながら、一生懸命に画面を見ている。


 マジか。

 姫騎士さまもコスプレに前向きみたいだ。

 しかもこんなに熱心に衣装選びをするなんて。


 あの真面目で正義感にあふれる姫騎士さまが、いったいどんな衣装を選ぶのか?

 めっちゃ興味が湧いてきて、ちょっとドキドキする。


 俺は、岸野が衣装を決めるのを固唾を飲んで待った。

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