第8話:彼女が欲しいって欲望が湧かない
買い物をした店から俺の家までは歩いて5分ほどだ。
あおいの家はそこからさらに10分ほど歩いたところだから、一緒に帰る時はいつも俺の家の前まで、あおいと一緒に歩いていく。
二人並んで歩きながら、俺はあおいに話しかけた。
「お前、マジでなんで彼氏作らねぇんだ? あおいは男子に人気があるし、その気になったらいつでも彼氏の一人や二人、作れるだろ?」
「彼氏は作るとしても一人でじゅーぶん! 二人も作るって、あたしどんだけ淫乱なのよ?」
「いや、なんで複数彼氏イコール淫乱なんだよ? アホかお前」
「うしし。ジョーダンだって! 純情なゆーじがキョドるのが面白いだけ」
「キョドってねぇし。俺が純情は間違ってないけど」
「まあ、マジレスするとね……」
あ、コイツ。俺の純情宣言をスルーしやがった。
「彼氏作りたいって気持ちがわかないんだよねぇ。なんか今でも充分楽しいし、彼氏作るって必要なん? ……って思っちゃう」
「そっか」
「ゆーじこそ、彼女作らないん?」
横を歩くあおいは、俺をちょっと見上げるようにしてマジな顔で訊いてきた。
「俺も、そうだな。別に彼女欲しいって欲望が湧かない。まあ俺の場合、彼女作りたいって思っても、そう簡単には相手ができないけどな」
「だねぇ」
「こらこら、そこ否定するとこっ!!」
「はい、わかりました。ゆーじ様の命令により、否定させていただきます! ゆーじ様なら、好きになってくれる女子はたくさんいると思いまぁーすっ!」
あおいは右手をななめにおでこに当てて、敬礼しながら棒読み口調で言いやがった。
完全にからかわれてるよな、俺。
「あっ、ゆーじのお父さん! お久しぶりですっ!」
突然あおいがそんな声を出したから、驚いて前を向いた。
もう俺ん
あおいは小学生の頃からの幼馴染だし、俺の親父とも面識がある。
それだけではなくて、今まで何度か親父のカフェでバイトが足りない時に、あおいにヘルプで入ってもらったこともあるのだ。
俺も土日とか学校が休みの日は、いつもバイトに入ってる。
他にも何人かフリーターの人や学生バイトがいるんだけど、バイトが急に足りなくなった時なんかに何度かあおいに助けてもらってる。
あおいは明るくて人懐っこい性格だから、お客さんの受けも良くて助かっている。
「おおっ、あおいちゃん! 久しぶりだねぇ~! 相変わらず可愛いね!!」
「わぁ、ありがとございますぅ~!」
あおいはニコニコして、ちょっと恥ずかしそうに礼を言った。
確かにさっき言ってたみたいに、これなら充分純情で通る。
げに恐ろしきは、女の演技力なり。
素の自分を隠してる女子って、大勢いるんだろうなぁ。
まあ今まで彼女ができたことがない俺には、よくはわからんけど。
「ゆーじのお父さん! またバイトが足りなくなったら、いつでも声かけてくださいねぇー お手伝いしますからっ!」
「ありがとな、あおいちゃん。でもしばらくは大丈夫だよ。新しいバイトの子が二人も見つかったし」
「そうなんですねぇー よかったです! じゃあまた!」
あおいはそう言って手を振ると、短いスカートをはためかせながら自分の家の方へと歩いて行った。
そう言えば明日の土曜日から新しいバイトが2人来るって、親父が言ってたな。
先週を最後に辞めてしまったバイトの代わりなんだが、すぐに見つかって良かったよ。
平日はバイトに来てくれるフリーターさんと主婦の人がいるんだけど、その人たちは土日は来れない。だからこのままだと、土日は俺と親父の二人しかいなくなるところだった。
しかも親父いわく、今回採用したバイトはすっごく可愛い女の子だってことだから楽しみだ。
俺はそんなことを考えながら、自宅の玄関ドアを開けて家の中に入っていった。
◆◇◆◇◆
〈姫騎士side〉
剣道部の部活を終えて下校の道すがら、私は今朝のできごとを思い出していた。
勇気を振り絞って、いつもと違う髪型にピンクのリボンを結んで登校した。
国定くんはこの髪型を見て、どう思うだろうか。
それだけが私の関心ごとだった。
登校してすぐに彼の方を見たら目が合った。
──よっしゃぁーーーっ!
って一瞬思ったものの。
よくよく考えたら、彼が私のリボンをちゃんと見てくれたかどうかわからない。
だから私は考えた。
何気ないフリをして国定くんの近くを通って、私の髪のリボンを見てもらおうと。
私はめちゃくちゃ緊張しながら、国定くんの席の方に向かって歩き始めた。
そうしたら途中で他のクラスの女子に追い抜かれて、なんとその子は国定くんと親しげに話し始めた。
隣のクラスの子で、国定くんの幼馴染だという女の子。
時々ウチの教室にやってきて、国定くんと親しげに話をしている。
でも聞くところによると付き合っているわけではないらしい。
国定くんが男子との話の中で、そう言っているのを聞いたことがある。
他の人のうわさ話によると、
だけど国定くんが蓮華寺さんとのお話に夢中になったら、私が近くを通りがかってもきっと髪のリボンに気づいてなんかもらえない。
しかも蓮華寺さんは、あんなに仲良さげに国定くんと話をしている。
彼女でもないのにっ!!
付き合ってもいないくせにっ!
──いやぁぁぁぁんんん!
なんてことぉぉぉっっっ!!
私はその場で、心の中で叫びまくってしまった。
もちろん心の中で叫んだだけで、表面上は冷静を装っていた。
だけどきっと私の顔は、引きつっていたに違いない。
私もあんなふうに、国定くんと仲良く楽しそうにおしゃべりをしたい。
蓮華寺さんが羨まし過ぎる!
そんな気持ちがあふれ出して止まらない。
他人を羨むなんて、私はなんて浅ましい気持ちの女なのだろう。
そんな自分がそこにいることが許せなかったのだ。
だから私はあれ以上、二人を見ていることに耐えられなかった。
あ~あ。
せっかく勇気を振り絞ってポニテにして、ピンクのリボンをつけてきたのに。
私って周りに見せている凛々しい姿とは裏腹に、ホントへたれな性格だなぁ……
そう思うと、ちょっと切なくなった。
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