第6話:あぁっ、最悪っ! 何をやってるの私!?
***
〈姫騎士side〉
昨晩そんな夢を見て、国定くんにちょっと甘えたようなことを言えたけど、さすがに今日学校で国定くんと話す時には、まったくいつもどおりの態度しかできなかった。
周りにはクラスメイトもいたし、それは当たり前と言えば当たり前なんだけど……
いつもどおりどころか、緊張して国定くんを睨んだりしてしまった。
あぁっ、最悪っ!
何をやってるの私!?
でも国定くんが私に向かって「姫」って呼んだ時には、一瞬心臓が止まるかと思った。
いや、あれはきっと、一瞬心臓が止まってたと思う。だってその瞬間、私の記憶はばぁーんと飛んでるのだから。
国定くんが急に私の名前を呼ぶなんて、もしかしたら昨日の夢は正夢だったの!?
──なんて思ったけど。
実際は、国定くんは『姫騎士』って言っただけだった。
ぐすん。
ぬか喜びってやつだ。
まあ現実はそんな甘くはない。
それはわかってる。
徐々に徐々に、一歩ずつ。
国定くんに気持ちを伝えられるように頑張ればいいのだ。
そう思っていたら、今日も鮮明な国定くんが夢に出てきた。だから私は、また自分の気持ちを素直に伝える訓練をすることにした。
話し方も普段よりもフレンドリーさを心がける。その方が距離が縮まるはずだし。
そうだ。以前から、たまには可愛くリボンでも付けようかと考えていたけど、国定くんは青とピンクどっちがいいと思うか訊いてみよう。
たったこれだけを訊くのでもとっても恥ずかしくて、ついついモジモジしてしまう。けれども勇気を振り絞って、なんとか訊いてみた。
ところでさすがは夢の中。さっきまで何もなかったのに、気がついたら両手にこの前買ったばかりの青とピンクのリボンが現れていた。
「姫がピンクのリボンを付けたら、きっと可愛いと思う」
──なんてことだ。
好みの色を教えてくれるだけでなくて、ピンクのリボンなら、私が可愛いと思うとまで言ってくれた。しかも私のことを「姫」呼び。
よし。じゃあ試しにピンクのリボンを付けてみよう。私は髪をポニテにしてリボンを結んだ。
そして後ろを向いて、ピンクのリボンを国定くんに見せる。すると後ろから、ため息をつくような国定くんの声が聞こえた。
「あっ、可愛い……」
熱い吐息混じりの国定くんの声。
可愛いって──?
よっしゃあー!
やったぁーっ!
思わず笑顔とガッツポーズが出た。
──あ、違う。
これは夢だ。
そんなに喜んでどうするのだ私。
でもこの夢、あまりに鮮明すぎて、まるで本物の国定くんに言われたように思える。だから私は、とても幸せな気分に包まれた。
「ホント? 嬉しいにゃん」
ああっ、私ったら!
あまりに嬉しすぎて思わず、にゃんなんて言っちゃったじゃないか。
私がそう言ったところでパチっと目が覚めた。
◆◇◆◇◆
〈勇士side〉
いやぁ、昨晩の夢の岸野は、ピンクリボンのポニテがホントにヤバ可愛かった。でもあれはあくまで俺の夢の中の妄想だ。
現実の姫騎士さまは、ほれ、あのとおり凛々しさを崩さない。
いつもどおり、とっても美人ではあるけれども。
そんなことを思いながら、朝登校して教室に入ってきた岸野を、俺は自席に座ったまま横目でチラリと見た。
相変わらず背筋はピンと伸びて、表情はキリッとしたまま、岸野は自分の席に向かって歩いていく。
「あっれぇ?
岸野と一番仲が良くて同じ剣道部員の
確かに姫騎士さまは珍しくポニーテールにしている。そしてなんと──
髪にはピンクのリボンが結んである!
昨日のあの夢、予知夢ってやつか!?
それとももしかして、夢の中での俺の意見が現実の姫騎士さまに伝わったとか!
すっげぇ!
予知夢だとしても、俺の意見が伝わったとしても、どっちにしてもすっげぇよ!
──なーんてね。ホントは単なる偶然だって俺もわかってる。
だけどあれはそんな不思議なことが起きたんだって信じる方が、夢があるじゃないか。夢のことだけに。
あ、いや別に上手いこと言おうとか思ってないけどな、あはは。
でもしかし。
今日の姫騎士さまはポニテとピンクリボンのおかげで、いつもよりも少しふわっとした感じで可愛い。まあ背筋はピンとしてるし表情はキリリだから、少しだけなんだけれども。
そう思いながら岸野をぼんやりと眺めていたら、ふと彼女もこちらに視線を向けて目が合った。
俺の視線に気づいた姫騎士さまは急にこわばった顔になって、なぜか俺の方に向かって歩き出した。
やべっ!
何イヤラしい目で見てるのよとか、きっとめっちゃ怒ってるんだ。だって明らかに引きつった顔をしてるんだから。
こっちに向かって来る岸野から、俺は思わずさっと視線をそらした。姫騎士さまが近づいてくる足音が耳に届く。
こっわ……
俺は身構える。
すると突然、別の女子のあっけらかんとした声が聞こえた。
「ゆーじぃ~! おっはよぉー!」
これは、隣のクラスにいる幼馴染の
ああ、めんどくさいヤツが来たな。
俺はそう思いながら顔を上げた。
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