第5話:弱きを助け悪い輩をくじくのだ
◆◇◆◇◆
〈姫騎士side〉
私は警察官の両親に厳格に育てられたせいか、人前では常にキリッと凛々しい態度でいなくちゃいけないという強迫観念がある。
そして弱い者いじめをするような
中学の時も高校生になってからも、今までずっと何の疑問も持たないでそういう信念を持ってきたし、そのように振る舞ってきた。
おかげで『姫騎士さま』なんて呼ばれるようになったけど、それはそれで自分の信念が認められたのだと、少し誇らしくも思っている。
だけれども高校3年になって、なんと
彼は気づいてはないだろうけど、私は中学の時から国定くんを知っている。知ってるどころか、ずっと憧れの対象として彼を見ていた。
中学2年で剣道の県大会で優勝した国定くんはすっごくカッコよかった。
3年の時にケガをした影響で剣道をやめてしまって、高校ではあんまり目立たない国定君だけど、あのカッコよかった頃の彼を私は今も忘れない。
だから高3で初めて国定くんと同じクラスになってからは、毎日彼のことを遠くから見ていた。
そしてある日、教室で男の子たちと話してる国定君が、こんなことを言ってるのを耳にした。
『俺はやっぱ可愛い系の女の子が好きだな。女の子がデレっとしてるのとかって、めっちゃ可愛いよなぁ』
その言葉を聞いて、私は生まれて初めて、もっと可愛い自分を見せたいと思った。
だけどそんなのは無理だ。人には誰だって自己イメージというものがある。普段の自分と違う自分を周りの人に見せるのは、簡単なようでいて簡単ではないのだ。
それを簡単にできるタイプの人もいるだろうけれども、少なくとも私には無理だった。
だから私は国定くんに近づくこともなく、可愛い自分をアピールすることもできず、ただのクラスメイトとしての日々を過ごしているだけだった。
ところで私は、剣道の大きな大会が近づくと、いつも勝利の願掛けにお参りする神社がある。
それは私が住む町の外れにある小さな神社で、武道の神様『
──と、言われているのだけれども、境内は草ぼうぼうで手入れはずさん、神主さんや巫女さんの姿も見たことがなく、よくわからない。参拝に訪れる人もほとんどいない。
だけど私は中学の時から何度も必勝祈願にこの神社を訪れて、実際に高校2年の去年、県大会で優勝した。だから霊験あらたかなのは間違いない。
いや、それ以前から私はなぜかこの神様をものすごく信頼して、なにかことあるごとにお参りをしている。
今年も県大会が近づいてきたこともあって、昨日その神社にお参りしてきた。
いつもは大会での必勝祈願をするのみ。だけど昨日は、つい別の祈願もした。
それは──国定くんに私の気持ちが伝わって欲しいということ。
そんな願掛けなんかしなくても、告白すればいいなんて言わないで欲しい。
それができるくらいなら、こんなに長い期間、彼を遠くから見ているだけなんてことにはならないのだから。
そしてその願掛けのおかげなのか、昨日すごくリアルな国定君の夢を見た。こういうのを明晰夢というのだろうか。
私はどこかの公園のような場所で、国定くんと向かい合って立っていた。
今まで何度か夢に国定くんが出てきたことはある。だけど昨日の夢は今までとは比べ物にならないくらい鮮明で、そしてなぜかそれが夢だとはっきり認識していた。
こんな夢を見るのは、もしかしたら神様の仕業?
──なんでよ神様! 私は実物の国定くんに想いを伝えたいのであって、夢に彼が出てきてもしょうがないじゃない! 顔面に竹刀を打ち込むよ!?
なんて、一瞬神様を冒涜しそうになったけど、私はハタと気づいた。
いや、これは──
考えられないくらいリアルな国定くんが夢に出てくることで、神様はその国定くんに想いを伝える訓練をさせてくれてるんじゃないか。
きっとそうだ。さすがは武道の神様。
直接的に願いを叶えるんじゃなくて、私に願いを叶えるための課題を与えてくれたのだ。
私はそう理解した。
だから私は昨日の夢の中で、勇気を振り絞って国定くんに自分の気持ちを伝えた。しかもできるだけ可愛い感じを出しながら。
──とは言っても。
それがたとえ夢の中だとしても。
国定くんに好き、なんて直接的なことを言うのはまだまだ無理だった。
思いっきり勇気を振り絞って頑張って、ようやく言えた言葉は──
「ねぇ勇士くん。私のこと、
だけどそれでも私にしたら、こんな可愛いことを可愛く言うなんて大進歩だ。大大大進歩だ。
そしたら国定くんは、私のリクエストに応えて名前を呼んでくれた。
「姫」
──きゅんときた。
私は思わず「はいっ!」って元気に返事をした。
そうしたら国定くんは、さっきよりも力強くまた名前を呼んだ。
「姫!」
──もっときゅんときた。
きゅんきゅんしすぎて死んだ。
いや、死んでる場合じゃない。
ちゃんと返事しなくちゃ。
「はい、勇士くん! えへへ」
あまりに嬉しくて、あまりに恥ずかしくて、思わず照れ笑いが出た。
あん、もうダメ。
萌えすぎて死ぬ。
──と思ったところで目が覚めた。
うーん残念。
もっときゅんきゅんしていたかった。
神様の意地悪っ!
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