第2話:それは妙に生々しい夢だった
その日の夜に見た夢は妙にリアルな夢だった。
どこかの公園のような場所で、俺は制服姿の姫騎士さまと向かい合って立っている。
彼女の夢を見るなんてのは初めてだ。
夢ってのはたとえ違和感バリバリだとしても、目が覚めるまで夢だと気づかないことも多い。だけど俺は、これが夢であるとなぜか気がついた。
周りの景色を見ると、ぼんやり霞んではっきりとしない。しかし目の前の姫騎士さまはまるで現実世界にいるみたいにハッキリとしている。
しかしその彼女は、現実とはまったく異なる態度を俺に見せていた──
普段の彼女はいつもキリッとした顔つきで、キビキビした動作で、声もピンと張ったような感じ。話し方もしっかりしてる。つまり、凛とした美人なわけだ。
だけどこれは、さすがに夢だなと言おう。
目の前の姫騎士さまは──
「あっ、
俺の名前を呼ぶ顔はニヘラと笑っている。
二重で大きな目は目尻が下がり、いつもの厳しい目と違って可愛さに溢れている。
そして話し方も甘えた感じでフレンドリーだ。あの姫騎士が、こんなにフレンドリーなはずがない。
だけれども。
もしも──と夢想する。
岸野は見た目は超絶美少女なんだし、もしもデレっ子なキャラなら、めちゃくちゃ可愛いのに。それなら俺も惚れてしまうかもしれない。
だがそれはあくまで妄想というものであって、あの姫騎士がデレる姿なんて想像もつかない!
──なんだけど。
今俺の夢の中で目の前にいる岸野は、なぜかデレっデレなのだ。
何だこれは?
俺の願望が、こんな夢を見せているのか?
いや、今まで俺は岸野をそんな風に意識したことはない。ということは自分でも気がつかないうちに、潜在意識の中にそんな願望があるとでもいうのか?
──なんて真剣に考え込んでしまうものだから、せっかく目の前にデレデレモードの美少女がいるにも関わらず、俺はフリーズして突っ立っていた。
まあどうせ夢なんだし、どうでもいいんだけど。
「ねぇ勇士くん。私のこと、
姫?
あ、いや。岸野の下の名前か。
一瞬、岸野が俺を家来として扱おうとしているのかと思ったけど違う。
なぜなら──
「勇士くんに下の名前で呼ばれたら、私、すっごく嬉しいなぁ」
岸野はちょっと口を尖らせて、上目遣いで俺をじーっと見つめている。
見ようによっちゃ、めちゃくちゃあざとい態度だ。だけど真面目で正義感あふれる普段の凛々しい岸野からしたら、そんなあざといことをするタイプではない。
つまり素の甘えん坊な姿なわけだ。
と言っても夢なんだから、素の姿もなにもないんだけれども。
でも俺は岸野のそんな可愛い姿にキュンとした。胸がドキドキしてる。ヤバい。こんな岸野なら、ホントに惚れてしまうかもしれない。
そんなことを考えながら、俺は岸野のリクエストどおり声に出して呼んでみた。
「姫」
「はいっ!」
岸野はデレデレと表情を緩めて可愛く返事した。めっちゃ可愛いじゃんか。
返事と同時にぴょこんと飛び上がるような動作をするものだから、チェック柄のスカートがゆらゆらと揺れているのも可愛い。
俺は女子と付き合ったことはないし、名前呼びなんて普通は恥ずかしくてできない。けれどもこれは夢だ。
だから遠慮なく、名前呼びもできる。
もう一回呼んでみよう。
「姫!」
「はい、勇士くん! えへへ」
岸野のヤツ、頬をピンク色に染めて今度は照れ笑いをしてる。いつもの凛々しい表情はどこへやら、もうとろけそうな顔をしている。
ヤバい。ホントにヤバいくらい可愛い。
──あ、いや。これは夢だぞ。
だからこんな岸野は、この世に存在しないんだよ。勘違いするなよ俺。
そう考えたら、少し胸の鼓動が収まった。
そして俺はもう一度、岸野の姿をじっと見つめた。
──というところで目が覚めた。
なんという夢を見たんだよ俺は。
あんな岸野はあり得ない。
まあでも、あり得ないことが起きるのが夢というものか。
それにしても、夢の中の岸野はびっくりするくらい可愛かった。
俺は目が覚めてからも、夢の中の岸野を思い出してしばらく惚けていたが、ふと時計が目に入って、少し寝過ごしていることに気づいた。
「やっべぇー! 早く支度しなきゃ!」
俺は大慌てでベッドから飛び降りて、朝のルーチン作業を手早くこなす。
そして──
あんな夢を見たから、今日学校で岸野と顔を合わせるのはちょっと恥ずかしいぞ。
なんて思いながら走って学校に向かった。
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