凛々しい美少女が、夢の中では全力で俺にデレてくるっ!? ~俺の夢と彼女の夢が繋がってることに彼女はまだ気づいてない~
波瀾 紡
第1話:凛々しく美しい姫騎士さま
「あんだよ、このブスっ!!」
「ちょっとなによっ
昼休みのことだった。
急に教室中に響くような男女の声が聞こえた。
「オメェだよ
「むぅぅぅ~腹立っつぅぅぅっ!」
また始まったよ。仲が悪い男子・
高校3年にもなって、言ってることが小学生並みかよ。あんなヤツら、気にせず学食に行こっと。
「ねぇ~姫騎士さまぁ~! コイツに何か言ってやってよぉ~! 酷いよコイツぅぅ!」
ブスと言われた千原の口から出た姫騎士という言葉に、俺はつい立ち止まってそちらを見た。
千原は懇願するような顔で、女生徒の制服の袖口をクイクイと引っ張っている。
姫騎士さまと呼ばれ、ブレザーの袖口を引っ張られている女生徒。本名は
女子剣道部の主将で、去年2年生で県大会で優勝した実力者だ。
背中まで伸びる黒髪が艶々と美しく、スラリとしていながらも出るとこは出てスタイル抜群。
そしてその顔は──
少し切れ長だけども大きな目で、口や鼻のパーツのバランスも整っている。キリリとして気が強そうに見えるが美しい。
そして勉強もスポーツもできて、自信にあふれた立居振る舞い。
普段から正義感あふれるその言動と凛々しさ、そして
剣道部なんだからホントは『姫剣士』とも言えるが、語呂の良さと名前から『姫騎士』が定着しているようだ。
その姫騎士さまが千原の顔を見て、こくりとうなづいた。
いつものように、正義の姫騎士さまのご登場──か。
悪口を言った黒崎の前にぐいと一歩歩みを進めた岸野は、その美しい二重の目で黒崎をギロリと睨みつけた。
「黒崎。千原さんに謝りなさい」
「はぁ? 岸野は関係ねぇだろ? それにブスにブスと言ってなにが悪いんだよ?」
黒崎のヤツ。言うことがいちいち小学生並みだな。コイツはいつもダラダラした態度のちょっとひねた感じの男だ。
「はぁ? ブス? 女の子に失礼なことを言うのはやめなさい。
姫騎士さまは背筋をピンと伸ばして、まるで鋭い剣のような人差し指を黒崎の鼻先にビシッと向けた。その射貫くような視線が黒崎に突き刺さる。
美しく整った顔であるが、迫力満点の表情だ。
そしてその言葉は、抑えた感じだが強い意志を感じさせる力強い口調。
天誅が下るってのはどういう意味で言ってるのかよくわからないけれど、悪いヤツに注意する時の姫騎士さまの決めゼリフみたいなもんだ。
黒崎は岸野の射抜くような視線の圧を受けて、身体をブルッと震わせる。
「ななな、なんだよ……に、睨んだって、こここ、怖くなんかないぞっ!」
いや、黒崎のヤツ。声も震えてるじゃんか。
明らかに怖がってるよな。
「ふーん。怖くない? 私は黒崎を脅かそうなんて思ってないけど? 間違ったことをした時には、きちんと謝れと言っているのだ」
岸野は淡々と、しかし迫力ある声で黒崎に迫る。
さすが正義の姫騎士さま。凛々しくてあんなに美しいのに……やっぱ怖ぇ。
クラスの女子連中はそんな凛とした岸野を憧れの目で見て『姫騎士さまぁ~』なんて黄色い歓声をあげる。まるで宝塚歌劇団の男役に向けるようなトロンとした目と甘い声。
一方の男子連中は岸野のことを怖いと思ってるヤツらもいるが、そこはそれ、あまりに美人なもんで、ファンだと言う男子も多い。
だけど──
あんなに気の強そうな岸野に惚れるなんて男は、たぶんエムっ気の強いヤツらだろう。俺はエム気質じゃないから、岸野に惚れることはない。
俺はやっぱ、女の子らしくて可愛らしい子が好みだ。
もじもじしたり、デレデレに甘えたりする女子の姿なんて最高に可愛いじゃないか。そうだろ?
「どうする黒崎? これだけ言っても謝る気がないと言うのなら……」
姫騎士さまはあごをくいと上げる。
美しい黒髪がふわりと揺れた。
「あ、はい! ごめんなさい! あやまります! ブスだなんて言って悪かったよ千原! ごめんなさい!」
黒崎はとうとう姫騎士さまの鋭い視線の圧に耐えきれなくなったんだろう。千原に向いて頭を下げた。
「わかった、いいだろう。黒崎は二度とブスだなんて言わないこと。いいな?」
「は……はい」
黒崎はそそくさと姫騎士さまの前から逃げるように、教室を出て行く。
しかし千原の前を通る時に苦々しい目つきで彼女を睨んだのを見ると、本心から反省したわけではなさそうだ。
それにしても岸野って、ホントに正義感が強くて堅物だな。そして怖い。あれだけの美人なんだけど、できれば関わりたくない。
この前だって学食で、順番待ちの列に割り込んだ3年生の男子に噛みついていたのを見かけた。
大人しく並んでいる1年生の女子の前に、二人の3年生男子が何げなく割り込んだのを見て、姫騎士さまは注意をした。
しかし男子生徒が「無視無視」とか馬鹿にしたように言いながら、その場を動かなかったので姫騎士さまの逆鱗に触れた。
結局今日と同じような迫力ある恫喝で、男子生徒はすごすごと立ち去った。
姫騎士さまはとにかく弱い者をいじめるような態度に対しては許さない。
そして怒らせると怖いってことは間違いない。
まさに触らぬ姫騎士さまに
正義感が強いところは尊敬に値するんだけど、気が強くて可愛げがない姫騎士さま。
今後俺が姫騎士さまと親しくなることなんて、高校を卒業するまでずっとあり得ない。
──俺はそんなふうに思っていた。
なぜならそんな姫騎士さまが、女の子らしく可愛くて乙女な気持ちを持ち合わせてるはずなんてない、と思っていたから。
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