圭吾さんの誕生日

11月7日は圭吾さんの誕生日。


9月の私の誕生日には指輪をもらっちゃったから、圭吾さんには何をあげようかと、ここ最近真剣に悩んでいる。だって圭吾さんに聞いても「何でもいいよ。」の一点張りなんだもん。


「ともみにリボンをつけて、“私がプレゼントはぁと”でいいじゃない。」


親友の美香は、そんなことしか言わない。


「じゃあ、裸エプロンで料理を振舞えばいいじゃないですか?」


後輩の柚ちゃんも、そんなことしか言わない。


あぁ!私にはもっとまともな意見を述べてくれる友人はいないのかしら。


「で、なんで俺?」

「だって美香も柚ちゃんもまともな答えをくれないんだもん。」


圭吾さんの誕生日当日の昼休み、私は田中くんに相談を持ちかけていた。美香と柚ちゃんが茶々を入れてきて五月蝿いから、社員食堂で2人から離れた席に席をとる。


「それよりも俺、今この状況の方が怖いんだけど。」


苦笑する田中くん。それはそうかも。


私と圭吾さんが婚約したことは、いつの間にかほとんどの人に知れ渡っていた。だからなのか、あらゆるところから痛い視線を受ける。


でもそれでも!圭吾さんへのプレゼントの方が最優先事項なんだから!


「んー。誕生日プレゼントだろ?彼女から貰った物なら、何でも嬉しいけど。」


田中くんは少し頬を赤らめて言った。喜ばしいことに、田中くんは例の彼女と続いているらしい。


「何でもって難しいわぁ。」

「じゃあ、大島はさ?」

「うん?」

「宮本課長から貰うプレゼントで、嬉しくない物ってあるの?」


なんだか、意表をつかれた感じだった。そう考えてみると、圭吾さんがくれるものなら、何でも嬉しいかもしれない。大袈裟かもしれないけれど、それがたとえ、道端に落ちていた小石でも。


「そういうことだろ。だから、大島が宮本課長にあげたい物でいいんじゃないの?」


うん。そうだね。


「そうだよね。なんか分かったかも。ありがとう、田中くん。」

「どういたしまして。」


田中くんに話してよかった。なんだか、魚の小骨が取れた感じだ。その後は、他愛ない話をしながらランチを食べ終えた。


「お疲れ様でした。」


そして午後の仕事を超特急で終わらせると、定時ぴったりに仕事をあがった。だって圭吾さんの誕生日プレゼントを買いに行かなきゃね!それに、ご馳走も準備しなきゃだし!!


幸いなことに、圭吾さんは、今日は残業のようだ。力いっぱいのともみフルコースを作りたいと思います!!!






全ての買い物を終えると、ダッシュで帰宅した。圭吾さんの誕生日プレゼントは、綺麗に包装してもらった。今日は特別だから、奮発してちょっと高いワインも買いました。


料理に取り掛かって一時間が過ぎ、もうすぐ完成というところだった。


「ただいま。」


圭吾さんのご帰宅。今日も1日、お疲れ様でした。


「お帰りなさい!」


私はルンルン気分で玄関へと愛する彼を出迎えに行く。だけどそんな私とは対照的な姿の圭吾さんがそこに居た。


「どうしたの?会社で何かあった?」


私が帰った後に、何かトラブルがあったのかな?


「……別に。」


圭吾さんは、ふいっとリビングに進んで行った。なんだか、いつもの圭吾さんと様子が違う。せっかくの誕生日なのに、どうしたんだろう?


「はぁ。」


溜め息をつきながらソファに座った圭吾さん。圭吾さんの様子が気になるけど、とりあえず料理を終えてしまおうと、またキッチンに戻った。


キッチンからチラチラと圭吾さんの様子を伺うけれど、やっぱり元気も無くて、ちょっとイライラしているみたいだ。


「ね、ねぇ!圭吾さん!」


私はなるべく、明るい声で圭吾さんに話しかけた。


「スーツ、皺になっちゃうから着替えてきたらどうかな?」


寝室にサプライズを用意してたもんだから、顔がちょっとニヤけてしまった。


「……ともみは暢気でいいな。」


ふっと自嘲気味に笑った圭吾さん。え?!私が怒らせるようなことした?!キッチンで慌てふためいていると、圭吾さんがこちらへと近づいてきた。


「今日の昼飯、なんで田中と一緒にご飯食べてたの。」


ぐいっと私の腰を捕まえて顔を間近に引き寄せ、質問する圭吾さん。ん?田中くん?


「あ!あー……。」


寝室にあるサプライズが頭をよぎり、歯切れの悪い言い方になってしまった。


「ねぇ、なんで?」


それがいけなかったのか、更に私を追い詰める圭吾さん。


「あ、れは。相談してたの。」

「相談?」

「うん。圭吾さん、今日誕生日でしょ?なにしたら喜んでくれるかなって。」

「……俺の事、他の男なんかに相談すんじゃねぇよ。」


圭吾さんはそう言って、私の右肩に頭を埋めた。ワックスで固めてある髪が、首筋に当たってゾクゾクする。


「っ。……うん。田中くんにも自分で考えた方がいいようなこと言われた。だからね、私が考えたプレゼント。クローゼットに掛けてあるよ。」


本当はサプライズにしたかったんだけど。クローゼットを開けた瞬間に驚いてもらいたかったんだけど。こんな圭吾さんを見たら、サプライズじゃなくてもいいかなって思った。


「……ともみのバカ。」

「うん。ごめんね。」


圭吾さんを不安にさせちゃうなんて、私ってまだまだだなぁと思う。


「もう少しでご飯できるから、着替えてきて。」

「ん。」


そう言うと、圭吾さんは私から離れて、寝室へと入って行った。そして私は料理の続きにとりかかる。すると、すぐに寝室から圭吾さんが出てきた。


「ともみ、ありがとう。」


私のプレゼントを身に着けた圭吾さんは、本当に嬉しそうな笑顔でそう言った。


「どういたしまして。」


やっと見ることができた圭吾さんの笑顔。私も嬉しくなって顔が綻ぶ。


「この冬、絶対毎日つけなきゃな。」


私が圭吾さんに贈ったのは、これからの季節、必需品になるマフラーだ。私が圭吾さんの傍にいないときは、私の代わりに圭吾さんを暖めて欲しいって思ったから。


「毎日使ってね。」


それからすぐに料理もできあがった。


「いただきます。」


今日のメニューは、ビーフシチューとサーモンのマリネ、海鮮ピラフ。ビーフシチューに合う赤ワインと、小さなワンホールケーキも買ってきた。


「ちょっと圭吾さん。マフラーは外してよ。汚しちゃう。」


スーツから着替えても、マフラーを取らない圭吾さん。少年のように無邪気で可愛いけれど、汚したらこの冬使えなくなってしまう。まぁ、色は紺色だから、あまり汚れも目立たないかもしれないけど。


「ははっ。そうだな。」


帰って来たときとは違って嬉しそうな圭吾さんの笑顔に、私も嬉しくなる。ケーキまであっという間に、2人で平らげた。


「圭吾さん、お風呂先に入ってもいい?」


後片付けを終えて、リビングでテレビを見ながら寛いでいる圭吾さんに、そう声をかけた。


「ん?あぁ、うん。入っておいで。」


テレビに夢中らしく、その許可はあっさりと取れた。よし。あの作戦を実行したいと思います。


お風呂からあがると、圭吾さんにもすぐにお風呂をすすめた。そして、圭吾さんがお風呂に入っている間に、準備を開始です。戸締りをして、部屋の電気も消して、寝室で待機。圭吾さん、喜んでくれるかな?


ガチャ暫くすると、圭吾さんが寝室に入ってくる音がした。


「ともみ。もう、寝たのか?」


圭吾さんはそう私に声をかけながら、パチンと寝室の電気をつけた。


「圭吾さん!お誕生日おめでとう!」


私は横からガバッと圭吾さんに抱きついた。


「うお?!」


かろうじて私を抱きとめる圭吾さん。


「?!」


そして、私の姿を見て、一瞬にして彼の目は丸くなった。


「圭吾さん、私も誕生日プレゼントだよ。」


恥ずかしくて、目は合わせられなかった。この瞬間のために、今日買ってきたネグリジェ。キャミソールで、胸を強調するものになっていて、ガーターベルトがついている。


「ともみ……。」


顎がクイッと持ち上げられる。圭吾さんの瞳は、もう、妖しく光っている。


「返品できませんが、大丈夫ですか?」

「はい。」


真っ赤な顔で必死に応える私。こんな格好、もう一生しないと思う。


「では、ありがたく受け取らせていただきます。」


圭吾さんは丁寧に、私に口付けをした。


もうその後は、圭吾さんに翻弄され続けたことは、言うまでもなかった。


「……こんな可愛いことしなくても、一生、離さないけどな。」


疲れて寝てしまった私に、圭吾さんがそう呟いたことは、私は知らない。心も体も。もう私は全部、あなたのもの。

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