第7章 右側のあなた
眩しいライトが、私達を照らす。そして、みんなが笑顔で、私達を迎えてくれる。何てキラキラとした光景なんだろう。私は、あなたを見上げる。
そして、思う。これからの人生は、あなたとこうやって共に歩いていくのだと。
「なに。」
「ううん。」
私がじっと圭吾さんの顔を見つめていると、圭吾さんは耳を赤くさせながらこちらを見ずに言った。私は純白のドレスに身を包み、圭吾さんは真っ白なフロックコートを着ている。今日は私達の結婚式だ。
午前中に式を終わらせ、今からみんなに祝されながらの披露宴が行われる。もちろん、美香や柚ちゃんも呼んである。
「すごく、綺麗だね。」
会場で私達を暖かく迎え入れてくれる皆の笑顔を見て、とても綺麗だという感想しか出てこない。この日を迎えることができて、本当に良かったとしみじみ感じる。
「綺麗だな。」
みんなの拍手が、心に響く。スポットライトに照らされながら、私達は高砂へと足を進める。高砂からはみんなの顔がよく見えて、たくさんの人に祝福されていることを実感する。
午前中の結婚式のとき、私は思いもかけないサプライズを宮本家の方々からしていただいた。
「これでともみちゃんも宮本家の一員だよ。」
奈緒さんが私に着せてくれたのは、宮本家に代々伝わる打掛だった。圭吾さんから結婚式の衣装は用意しなくていいといわれ、本当に大丈夫なのかとハラハラしていたけれど、会場へと向かうときちんと打掛が準備されていた。
奈緒さんから聞いた話によると、圭吾さんの高祖母が宮本家へとお嫁に来る最に内掛けを仕立てることができず、お姑さんが自分の結婚式で使ったこの内掛けを着せてあげたのが、始まりらしい。
歴史を感じる打掛に、私は緊張しながら袖を通した。そして、宮本家の温かさは、代々伝わるものなんだと感じた。
披露宴でのケーキ入刀は、一応リハーサルしたけど緊張した。だってこんなにたくさんの人にカメラを向けられて、それも圭吾さんと一緒にケーキを切ることなんて、そうそう無いんだもん。
「ともみ。終始緊張してるな。」
「だって。」
そんな私を見て、圭吾さんは楽しそうに笑う。私をからかう圭吾さんを怒ろうかなと思って彼を見ると、すぐにそんな気は失せる。なんて世界で一番フロックコートが似合う人なんだろうとか思っちゃう。今日の圭吾さんは終始10キュンです。
お色直しのカラードレスは、グリーンにした。珍しいかもしれないけど、これがいいってピンときた。圭吾さんも私のドレスに合わせて、衣装をチェンジしてシルバーのロングタキシードだ。
二人ともお色直しをして、再入場の前に圭吾さんと入り口で落ち合う。
「何か今日の圭吾さん。世界で一番どころか、人間が誕生してから一番カッコイイと思う。」
おおげさなノロケかもしれないけれど、それくらい私の胸は高鳴っている。
「ははっ。今日のともみだって。……今ここで襲いたいくらいだよ。」
誰にも聞かれないように、そんな風に圭吾さんが耳元で囁いて私をからかう。私の頬は一瞬にして紅色に染まる。
「もう!圭吾さん!」
私の胸はどうにかなっちゃうくらいドキドキしている。まるで、圭吾さんに落ちたときのように。
余興では、私と圭吾さんの出会いを田中くんがスライドショーにしてくれた。美香が「田中くんに頼むといいよ!」と言ってくれ、そして田中くんも快く受けてくれて実現したことだった。
田中くんのムービーは面白おかしく笑える要素もありながらも、ちゃんと私と圭吾さんの人柄が分かるように仕立ててあったため、ちょっと照れた。そして最後に、職場のみんなからのお祝いのメッセージを、ムービーで入れてくれていた。
両親への手紙では、泣き過ぎた。だけど、私の隣に立つ圭吾さんの瞳にもうっすらと揺れているのもがあったから、泣いても良かったんだと思う。
お父さん、お母さん。ありがとう。そしてお義父さん、お義母さん。これからよろしくお願いします。
二次会では、高校の同級生をたくさん呼んだから陽太も呼んだ。元彼ではあるけれど高校時代の仲間には違いないし、同級生みんなも陽太と仲がいいから陽太だけ呼ばないのは不自然になる。
「ともみ~。おめでとう~。」
「すっごい綺麗だよ~。」
私はすぐに仲の良かった友達に囲まれた。圭吾さんも同級生を呼んでいるから、彼は彼で友人たちに囲まれていた。
なんだか不思議な感じがする。圭吾さんが青春時代を過ごした人たちに会えるなんて。
「でも圭吾が6歳下の女の子捕まえるなんてな。羨ましいわ。」
圭吾さんの同級生は、そんな風に言ってくれる方々が大半だったから少し恥ずかしかった。友達と絡んでいる圭吾さんを見ると、高校時代の圭吾さんを垣間見たみたいで、嬉しくなる。きっと高校時代もこんな感じだったのかな?
「でも私、ともみは陽太とそのまま結婚するんだと思ってた~。」
そこで大きな爆弾を投下したのは、私の友達の1人である静だった。
良かった、静華を披露宴に呼ばなくて。
「静!ここでする話じゃないでしょ。」
「え~。思ったこと言っただけじゃん~。」
他の友達が静を嗜めるけど、静はまったく悪びれがない。私は大方こんな展開は予想できていたから良かったんだけど、静の声が思ったより大きかったせいか、圭吾さんのお友達のほうがシーンとなった。
「……え?圭吾、略奪愛なの?」
圭吾さんのお友達の方から、そんな声も聞こえてくる。違います、と大きな声で否定したいけれど、そんなことをしたら逆に信憑性を増してしまうため、どう収拾を着けたら良いかと笑顔を引き攣らせながら考える。
「止めてくれよ、静。」
そんな中で沈黙を破ったのは、渦中の人物である陽太だった。
「俺にも結婚考えてる人が、居るんだからさ。」
陽太は苦笑しながら言った。陽太の言う通り、彼には結婚を考えている人がいるのだ。なんと、この半年くらいの間に、陽太は岩崎さんと付き合い始めた。どうしてそうなっちゃったのかは、私にも分からない。だけどそれが縁ってことだと思う。
「えー!陽太、彼女居るの?!」
「知らなかったー!」
「おいお前、いつのまに!」
それで話の中心は、陽太の彼女の話になったため、圭吾さんのお友達も自然と談笑を再開した。
やっぱり、陽太は変わらないって思った。いつも太陽のような笑顔で助けてくれる。
陽太とブライダルショップに行った次の日、私は陽太に謝った。いくらなんでもやりすぎだったからだ。
そんな私を何でもないことのように笑って許してくれたのが陽太だった。そして更に、私に謝ってくれた。
それからは、仕事で陽太がうちの会社に来ることも多いことから、自然と会う機会も多くなり、うちの会社のメンバーとも陽太は仲良くなった。ほとんど年齢も近いことから、私達の同期と一緒に陽太も含めて飲みに行ったりするようになった。
岩崎さんとは、初めのうちは、ぎくしゃくした。ブライダルショップで鉢合わせして私達と分かれた後、圭吾さんは岩崎さんにハッキリと引導を渡したらしい。
ぎくしゃくしても、取引先のため私と岩崎さんは会わなければならない。岩崎さんは、ほとんど谷口先輩に向けてだけ会話をしていた。
だけど、そんな日もあんまり続かなかった。しかも、ある日を堺に、岩崎さんにすごく話しかけられるようになった。その“ある日”とは、岩崎さんが陽太と付き合い始めた日だったのだ。
岩崎さんって、キャリアウーマンでなんでも完璧なのかなって思っていたけどそうじゃなかった。
「陽太はその彼女のこと、どこが好きなの?」
陽太は友達みんなから質問攻めを受けている。
「不器用なとこ。」
そう答えた彼に、私も納得した。私も最近分かったことだけれど、岩崎さんは不器用だったんだと思った。ちょっと過激的で、プライド高くて、不器用。そんな岩崎さんが完璧に見えるのは、岩崎さんの並々ならぬ努力だったのだ。
岩崎さんの欠点とも言える部分を好きだと言った陽太の言葉に感動する。やっぱり、6年間陽太を好きだった私は、間違いじゃなかったね。
好きだった人だから。私を好きで居てくれた人だから。陽太の幸せを願わずにはいられない。陽太と岩崎さん2人一緒に歩く未来があることを、願わずにはいられない。
たくさんの人に祝福されながら無事に二次会も終わり、2人の愛の棲家へ帰ったときには、もう0時を回っていた。準備には時間が掛かって大変だったけど、当日はあっという間だった。
新婚旅行は私の希望で、熱海に行く。どうして海外じゃないのかってみんなに聞かれたけど、私は飛行機が苦手なのだ。飛行機に乗るくらいだったら日本国内でゆっくり一週間くらい満喫したい。
「忘れ物は無いかな。」
もう深夜だけど、旅行のチェックを忘れない。結婚式当日は帰ってくるのが遅くなるからってことで、何日か前から旅行の準備はしていた。
「だけど、新婚生活っていっても、今までとそんなに変わらないんだよね。」
だって私達はすでに1年以上同棲している。新しい何かが始まるわけじゃない。
「なに一人でボソボソ言ってんの?」
お風呂からあがってリビングに来た圭吾さんに独り言を聞かれたらしい。私は気恥ずかしくなって、咳払いをする。
「新婚生活っていっても、あんまり今までと変わらないなって。」
「言われてみれば確かにそうだな。」
変わるとしたら、私の名字くらい?
「でも今日が初夜であることには変わりないよなー。」
ニヤッと笑う圭吾さん。なにか企んでいるご様子ですか?
「まぁ。風呂に入ってこいよ。」
そう言って圭吾さんは、お風呂の方へと私の背中を押した。これはもう、絶対に何か企んでいる。
圭吾さんの様子に疑問を抱きながらも、さっさとお風呂を済ませた。そして、髪の毛も乾かしてきちんとスキンケアも終わらせてリビングに行くと、圭吾さんは居なかった。
寝室に行っちゃったのかな?明日も早いしね。もう寝なきゃね。
私は戸締りを確認して、圭吾さんが寝ているであろう寝室へと向かった。
寝室に入ると、電気は消されているけれど、ベッドサイドに置かれているキャンドルに灯りが灯っていた。圭吾さんはベッドの上で座っている。
「圭吾、さん……?」
私が不思議がって圭吾さんの名前を呼んでみると、圭吾さんはふっと笑みを漏らした。
「こっちにおいで。」
圭吾さんに手招きをされて、ベッドの上に座る。どうしたのかな?
「宮本ともみさん。」
「は、はい。」
「左手を出してください。」
「……?」
なぜかは分からなかったけれど、素直に左手を圭吾さんに差し出す。圭吾さんが優しく私の手を握ると、ゆっくりと冷たい金属が私の薬指に通された。
「!」
「なくしたらいけないからって、ケースに入れておいただろ?」
私達は家に帰ってきてから結婚指輪を嵌めようと、ケースに入れて持って帰ってきていた。
「ともみも、俺にしてくれる?」
圭吾さんが差し出したピローケースから私より一回り大きいサイズの指輪を取り、彼の薬指に通す。
「これが、今までの俺達と違う証だよ。」
柔らかく笑う圭吾さん。そして彼は私の手を強く優しく握って言った。
「今日からが俺達の新しい始まり。」
結婚はゴールじゃない。圭吾さんと歩く人生のスタートだ。
「うん。」
私も圭吾さんの手を、握り返す。
「じゃあ、今日は私達の初夜だね。」
「そうだよ。」
そう意識したら、なんだか緊張してしまう。
「ともみ、緊張してる?」
し慣れているはずなのに、キスもどこか緊張してしまう。
「緊張しちゃうよ……。」
私はその気恥ずかしさを隠すように、圭吾さんの胸の中へと飛び込んで、彼の腰をぎゅっと抱きしめた。
「……ねぇ、圭吾さん。私、圭吾さんのこと信じてるから。だから私のことも信じてね?」
信じあって、思いやって、そういう風にあなたと生きていきたい。
「当たり前だろ。」
圭吾さんはそう言うと、私の顎に手を添えて視線を上げさせると、彼は私の耳元に唇を近づけた。
「ともみは、もう俺以外の奴じゃ心も体も感じないようになってるんだよ。」
それは甘く、色っぽく、艶のある声だった。私は一体、何度圭吾さんに落ちればいいんだろう。
「そして、俺も。もうともみ以外じゃ感じられない。」
掠れた声で、そのまま唇を首筋に這わせられたら、甘い時間の始まり。
甘いあなたの愛撫に酔いしれて、全身であなたを感じる。心も体もあなたしか感じない。愛してるって言葉だけじゃ、伝わらない想いを、全身であなたに伝える。
きっとこれから、私達の道には、色々な石ころが転がっているだろう。時には水溜りもあったり、壁が立ちはだかったりすることもあるかもしれない。
だけど、どんな時も、私達は共に道を歩く。しっかり手を繋いで。
「ともみ、愛してるよ。」
「私も、圭吾さんのこと愛してる。」
そして私は、あなたに何度も落ちる。
「私、圭吾さんに何回恋すればいいんだろう……。」
「何度でも落としてやるよ。」
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