第4話 かくしごと

 あざがあるなんて思わなかった。それが正直な感想だ。

 屈託のない笑顔で笑う少女は、頑張ってその表情を作っていたのだろうか。


「これは昔の傷跡だからおにいさんは気にする必要ないのですよ。今はもう痛くないのですよ~。」


 里乃は強がるように言った。

 嘘だ。

 体は痛くなくなっても、心はきっと痛んでる。


「私がもうちょっとよい子だったら、こんな風にならなかったかもしれないのですよ。だから私が悪かったのです。」


「違う!里乃は何も悪くない!悪いのは…!」


 僕が里乃に伝えようとしたとき、彩香が僕より先にこう言った。


「里乃は今少しずつ幸せになっていってるから、無理して過去のつらいことを思い出す必要ないんです。」


 彩香は僕にその話を今後しないで下さいと目線で訴えかけてきた。

 分かった。


「ありがとな彩香。気をつけるよ。」


「そうです。わかってくれたらいいのです!」


 言葉には気をつけないと。傷口を開いてしまうところだった。

 善意でも相手を傷つけてしまうこともある。

 けれども。

 二人に僕ができることはないだろうか。


「僕にできることはないかな。」


 やっぱり何かしてあげたい。

 本心から思った。


「うーん、むずかしいなぁ。」


と彩香ちゃん。

 しばらく考えのち、


「私たち三人を幸せにするお手伝いをしてくれませんか。」


 三人?

 彩香と里乃と…??


「きららです。」


 僕の心を読んだように彩香が答えた。


「ここの家に三人で暮らして頑張っているんですよ!」


 彩香が指差した方向には、お世辞にも綺麗とは言えない古びた家があった。


「ここでみんな頑張っているのですよ~。さあ入って入って!」


 里乃は僕の背中を押し、家の中へと入れた。

 入ると玄関にきららがいた。 


「マジで来てくれたんだね。ちょっと嬉しい。」

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