第14話「隣国のワガママ姫・幼なじみとの再会」

※ ※ ※


 城下町の散策を終え城の前まで戻ってきたところで――和服っぽい服を着た女性がやってきた。


 昨夜の晩餐会で文官グループの中にいた人だ。

 どうやら文官系はこの服装らしい。


「姫様! ヌーラント皇国のルル姫様とお供の方がお越しになりましてリリ様をお待ちしております!」

「ルル姫が? いったい、なんの用なのじゃ」


「はい、リリ様に会ってから伝えると仰っております」


「むう。アポもなしにくるとは相変わらず困ったワガママ姫じゃのう。城に帰ってからはミチトとゆっくりティータイムを楽しもうと思っておったのに」


 リリは不満げに頬を膨らませる。


「隣国の姫がそう簡単に来れるものなのか?」


「うむ、わが国は入国手続きを簡素にして、人の行き来をできるようにしたからこそ発展したからのう。隣国の姫や騎士といえど自由にこれるのじゃ。もっとも軍隊レベルの人数となると無理じゃが。ちなみにヌーラント皇国のルル姫はわらわの一歳下で、ことあるごとにわらわと張り合おうとするのじゃ。なんというか、やんちゃな妹という感じで、わらわとしては手を焼いておる。ちなみに、ヌーラント皇国は我が国の西の隣国で伝統的な友好国じゃ。ちなみに東の国は荒野を越えた向こうにあるのであまり行き来はないのじゃ!」


 なるほど、西の隣国が友好国で、なおかつ東が荒野で攻め込まれることもないから内政に専念できたという面もあるのか。


「気が進まぬが、わざわざ来たとなれば会わないわけにはいかぬな。ミチトはリオナとともに部屋に戻って休んでおるのじゃ。ルリアとミーヤも一応わらわのほうについてきてくれ」


 隣国の姫がどんな人物なのか興味はあるが、俺が会うものでもないだろう。

 国の外交の場でもあるんだろうし。そ


 そもそも、男である俺のことがバレてもマズイか。

 もう俺の存在が知られてる可能性もあるけど。


「それではミチト様はこちらへ」


 俺はリリたちと別れ、リオナさんに案内されて城内を移動する。

 と、そこで――廊下の向こうからちっちゃな幼女が現れた。


 リリよりさらに下に見える。

 金髪で、キラキラした宝飾品で飾られた服を着ており、いかにもやんちゃそうだ。

 というか、この幼女って、まさか――。


「男発見! こいつね!」


 いきなり俺を指差して、こいつ呼ばわりしてくる。


「えっ、まさか、この幼女がルル姫……?」


 見た目五歳ぐらいなんだけど……。


「左様でございます。あちらがヌーラント皇国のルル姫様です」


 すかさず、リオナさんが解説してくれる。

 なんでこの世界の姫は見た目幼女ばかりなんだ……。

 というか、リリと会って話すんじゃなかったのか? 


 やがて、ルル姫の背後から黒髪ロングの真面目そうな女性が駆け足でやってきた。


「ひ、姫様っ、勝手に他人の城を歩き回ってはだめですよぅ!」


 その女性を見て、俺は驚いた。

 なぜなら――、


「香苗……?」

「……えっ? ええっ? えええええっ!? み、道人くんっ!?」


 そう。この女性は……俺の知り合いだ。

 というか、幼なじみである。


 家が隣で、小学中学高校と一緒だった。

 香苗は高校三年のときに歩道に突っ込んできたトラックによって死んだのだ。


 その香苗が――いま、目の前にいる。


「なに? あなたたち知り合いなの? カナエ、説明しなさいな」


 ルル姫は俺と香苗を交互に見ると、香苗のほうを向いて促す。


「あ、はいっ。ひ、姫様っ……み、道人くんは、わたしの幼なじみなんですっ」

「幼なじみ……? すごい偶然ね。召喚魔法なんて異世界の生物を無差別に連れてくる魔法なんだから知人が呼ばれるなんて天文学的どころじゃない確率よ……?」


 ルル姫も驚いているようだ。

 というか、俺もいまだに驚いている。


「香苗も……召喚されていたのか」

「う、うんっ……こっちに来てから、もう八年になるけど……」


 まさか香苗と会えるとは思わなかった。

 事故死したタイミングで、たまたまこちらに魂を呼ばれたということだろうか?


 いまの年齢は俺と同じぐらいに見えるから八年前の召喚当時は十歳ということになりそうだ。どうやら異世界に召喚されるたびに若返る傾向があるようだ。


「カナエはうちの魔法使いが呼んだ初めての人間なのよ! 男じゃなかったのは残念だったけど、よく気が利くからわたしのお供にしてあげたのっ! それまでの召喚はカエルとかヒヨコとかばっかりだったらからね。……まさか、そのあと八年、男が出ないとは思わなかったけど……」


 ルル姫の話で事情はわかった。


 というか、そんな前から召喚やってたんだな……。てっきり香苗は天国に行っていると思っていたが、まさか異世界で会うことになるなんて。


 香苗が亡くなった当時の俺は、かなり落ち込んだものだ。もちろん葬式にも出た。あのあたりから俺の心はさらに暗鬱としたものになっていった。


 そんなふうに過去のことを思い出していると、新たな足音が複数聞こえてきた。


「むうっ! ルル! なに勝手にわらわの城の中を歩き回っておるのじゃ!」


 リリとルリアとミーヤだった。

 ルル姫が指定の部屋にいなかったことで捜していたような感じだ。


「あら、お久しぶりね、リリ」


 一方で、ルル姫は勝手に城内を歩いていたにもかかわらず気にしたふうもない。

 リリが言っていたとおり、ワガママ姫という感じだ。


 まぁ、見た目が五歳なので、ワガママ言ってても違和感はないのだが。

 もうなんか幼女がお姫様のコスプレしてるみたいにしか見えないし。

 オモチャのステッキとか持って喜んでそうなイメージだ。


「まったく、相変わらずのワガママ姫なのじゃ。それでなんの用なのじゃ? わらわには用事があるので、手短に頼むのじゃ」

「ふふ、そうね。それじゃあ、手短に言うわ。リリ、ここにいる召喚した男を差し出しなさい!」


 ズビシッ!と俺に指を向けるルル姫。


「な、なにを言っておるのじゃ、このたわけっ! ミチトは魔法石を集める準備を整えミーヤの魔法で何度も何度も召喚の儀を行いようやくのことで成功したのじゃぞ!差し出すわけがないのじゃ! ワガママもいい加減にしないと怒るのじゃ!」


 リリが髪の毛を逆立てるような勢いで怒り始めた。

 やっぱり俺が召喚されたことは隣国にまで伝わっていたんだな。


 まあ、城下町のみんなまで知ってたから、当然か。

 隣国といっても、すぐこれる距離のようだし。

 あるいは、昨夜リオナさんが言っていたように内通者でも城にいるのか。


「リリ、男がいない今は、どこの国も滅亡の危機に瀕しているのよ。しかも、あなたの国はここ五年間、軍事を疎かにして弱体化している。男がいるって知られたら一気に様々な国から狙われるわ。それに対して、あたしの国は軍事国家で軍馬も豊富。男を他国から守るなら遥かにあたしの国のほうが安全よ。この男を渡してくれたらリリの国に軍隊を駐留してほかの国らの侵攻を防いであげるわ」


「な、なんということ言っておるのじゃ! このドたわけがっ! ええい、ルリア、ミーヤ、この無礼者を城の外に叩きだせ!」


 無茶苦茶な話に激怒したリリは、ルリアたちに命じる。


「はっ!」

「承知しました~♪」


 ルリアとミーヤが近づいていくが、ルル姫は平然としたものだった。


「まったく、これだから内政大好きっ子の理想主義者はだめなのよ。カナエ、あたしのことを守りなさい!」

「は、はいっ、姫様っ! 防御魔法障壁展開!」


 そう言うとともに香苗の手から青い光が出て、香苗自身とルル姫をすっぽりとバリアのようなもので覆った。……って、香苗は魔法を使えるのか!?


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