第13話「城下町案内とお昼(バーベキュー)」
※ ※ ※
「どうじゃ、ミチト。我が国は栄えておるじゃろう!」
まずはメインストリートへやってきた。
というか、城を出てすぐのところが大通りという防御度外視っぽい造りだ。
広々とした石畳の道の左右には商店が軒を連ね、行きかう人々で賑わっている。
なお、やっぱり男が絶滅しているのでみんな歩いている人は女性だった。
「父上の代までは城の守りのために道が狭く迷路のようになって移動が大変だったのじゃが、商都として賑わわせるために区画整理と道路造りをしっかりやったのじゃ! あとは自由に商売をできるように街道も整備したので交易も盛んなのじゃ! 万が一他国が攻めてきても、わらわには最強の騎士ルリアと最高の魔法使いミーヤがおる。あとは兵書にも通じておるリオナという軍師までおる。そのうえ、ミチトまで迎えられたので我が国は安泰じゃ!」
そう考えると、本当にルートリア皇国は最高の状態なのかもしれない。
大通りの店にはさまざまな商品が溢れ、活気に充ち満ちている。
商人や民衆はリリを見て、表情を輝かせた。
「あ、リリ様! おはようございます!」
「リリ様のおかげで、わたくしどもも商売が繁盛しております」
「殿方の召喚、おめでとうございます!」
「リリ様万歳! ルートリア皇国万歳!」
内政に力を入れてきたからか民の忠誠度も最高値のようだ。
リリへの個人的な好感度もすごく高そうだった。
まあ、こんなロリっ子が国民のために一生懸命国がんばってれば応援したくなるよな。リリに会って一日経ってない俺ですら、リリのひたむきさを感じるほどだから。
「うむうむ、みなひとりひとりががんばってくれているから、ルートリア皇国は栄えたのじゃ。感謝を言うのはわらわのほうなのじゃ!」
王も民もお互いに感謝しあう国だなんて最高すぎる。元いた世界じゃ政治家と国民がこんなふうに接しているとか想像できない。
「ミチト、次はこっちじゃ! 魔工業エリアじゃ!」
「魔工業?」
「うむ、魔法と鍛冶の力を融合させて、暮らしに役立つさまざまな魔道具や魔防具などを作っているのじゃ! むろん、魔法効果のないふつうの工業製品も鍛冶を集めて作っているのじゃ」
「おお、そんなものもあるのか。進んでいるんだな」
「うむ、軍事費に向けるぶんを開発に回せばいろいろと発明できるのじゃ!」
やはり平和が長く続いていたことで、そういう方面にお金をかけられるということだろう。ある意味、俺の召喚だって、その延長といえるかもしれない。
「町の中心部からは離れているので、馬車で行くのじゃ!」
さすがに車とかそういうものはないようだが、馬車というのも風情がある。
現実世界を含めて、そんなものに乗るのは初めてだ。
俺はリリ専用という六人乗りの馬車(御者つき)に乗りこみ、中世ファンタジーを思わせる街並みを楽しみながら、魔工業エリアへ向かった。
城下町といっても、かなり広い。
城塞都市なので城壁は見えるのだが、本当に広大だ。
体感で三十分ほどして魔工業エリアへ辿りついた。
元いた世界の工場のような建物がいくつも並び、煙突から煙が出ている。そして、金属のようなにおいが漂っている。
「これはこれは、リリ様!」
アポなしだったのか、鍛冶衣装のようなものを来た腕っぷしのよさそうなおばさんが驚いていた。
「突然、すまぬ。そのまま仕事を続けてくれてよいぞ! 邪魔にならないように見学させてもらうのじゃ!」
リリにつれられて、俺も邪魔にならないように隅で魔工業の工場を見学する。
火によってドロドロに溶けたガラスや金属に魔法使いたちが魔法をかけていろいろな道具を生み出していくさまはワクワクした。
基本的に型は鍛冶技術で作り、元いた世界で電気をつかうような部分は魔法でなんとかなるようだ。つまり、電気の代わりが魔法みたいなものか。
魔法を付与した防具や武器も色々とあって、男心をちょっとくすぐられた。
「最後は農業エリアじゃ! わらわは国の食料自給率を上げるためにもいろいろと政策を実行したのじゃ!」
「城塞都市の中にも農業エリアがあるのか?」
「うむ! いざというときに大事なのは食料じゃからな! わらわは食料自給率を上げることにも力を入れたのじゃ。新鮮でおいしいものを食べることで心も豊かになるのじゃ! それに、緑のない都市というのも人の心によくないからのう! ちなみに城塞都市のエリアは大きく四つにわけられるのじゃ。商業、魔工業、農業、住宅街の四つじゃ!」
なかなかバランスがとれているようだ。
城塞都市の外に食料を依存すると、交通が寸断されたり敵に囲まれた場合は瞬時に飢餓状態に陥る。戦乱が久しくないとはいえ、そこのところの対策はしっかりしているようだ。
「農業エリアには牧場もあり、バーベキュー場もあるのじゃ。そこでおいしい昼ご飯を食べて今日の散策は終わりなのじゃ!」
ほんと、ちょっとした日帰り旅行という感じだ。
俺としてもこの世界の文化レベルが肌でわかって収穫がある。そして、リリが国民全体から慕われていることがうれしかった。
農業エリアは主に畑だった。水田はないというか、そもそも米が食卓に出ていないので、そういう食文化はないのだろう。
日本人としては米が食べられないは少し残念だが、パンも十分においしいので、そこは助かった。
バーベキュー場にはほかのエリアから国民も来ているようで、牧草地の広がる中で肉や野菜を焼いて楽しんでいた。
ここでもリリは農民や遊びに来ていた国民から歓迎されていた。どうやら農奴のような身分差があるわけではなく、身分な平等のようだ。
「わらわの父上の代には騎士と魔法使いを上位とし、商人や工業、農業に携わるものを下に見るような風潮があったが、それも改善したのじゃ! 人は職業によって差別されてはならぬ。みながみな、それぞれの得意分野や好きなことを全力で打ちこむことによって国は成り立つのじゃ!」
リリはバーベキューでトウモロコシのようなものを食べながら、満足げに農業と牧場を眺めていた。
「本当にリリは名君だな。こんないい国に召喚されて本当によかったぞ」
これを十七歳の姫が――しかも、五年前と言えば十二歳の頃から成し遂げていったのだから、すごいとしか言いようがない。素直に感嘆する。
「い、いや、わらわはまだまだなのじゃ! し、しかし、ミチトからそう言ってもらえると、わらわもうれしいのじゃっ……」
リリはもじもじしながら、俺をチラチラ見てくる。
「あ、あとは子孫繁栄のための施策を打てれば万事解決なのじゃ。なので、ミチト、早くわらわと結婚するのじゃっ!」
すごいストレートな告白をされてしまった。
だが、まだこちらに来て一日も経ってないのに結婚とか早すぎるというか……まぁ、日々人口減していくばかりだから、焦る気持ちもわからないでもないが。
「うふふ~♪ 世界の命運はミチトさまにかかっているんですから~、世のため人のためさっさと覚悟を決めて脱童貞するのがいいと思いますよ~?」
「そうです。ミチトさまはリリ様と一刻も早く結婚するべきなのです。わたしからも強く進言いたします」
「ふん、少々軟弱ではあるが、おまえしか男がいないのだからな。リリ様にはまるで釣りあわないが……国のために結婚を急ぐべきだということには同意だ」
ミーヤやリオナさん、ルリアもそれぞれ野菜や肉を食べながら、俺にリリとの早期の結婚を勧めてくる。まぁ、そのために呼ばれたようなもんだしな。
男女交際とは無縁の童貞だった俺には荷が重いのだが、しかし、俺がリリと結婚して子孫を残さないと、あとは子種を提供しないと国が滅ぶという。
もうなんというか、メチャクチャである。
英雄色を好むというが、俺、ただの社畜だし。平社員だったし。やっぱり、この現実はすぐには受け入れられない。
「ふふ、ミチトは奥ゆかしい性格じゃのう。そんな謙虚なところもわらわは好きじゃぞ。内政大好きっ子のわらわとお似あいじゃ」
確かに、体育会系ではない俺とリリの相性は悪くないとは思う。
リリが軍事独裁国家のドSな姫とかじゃなくてよかった。
「ふむ、まあ、お互いのことをいろいろと知ってからのほうが燃えると母上も言っておったし、すぐに結婚というのも味気ないかもしれないのう。でも、どんなに遅くとも一年以内には結婚および初夜を迎えるのじゃ!」
キラキラした瞳で、そんなことを言われるとドギマギしてしまう。
見た目は幼女だけど年齢は十七だしな。問題ないといえば問題ないのかもしれないが……。なにはともあれ体外受精の魔法があるのなら、それでりりとの子孫を作るのが一番妥当な方法だろう。
「リリ……その、こんな俺でよければ、これからもよろしくな……」
「うむ! 末永くよろしくなのじゃ! 時期を見て婚約するのじゃ!」
ともかく、今はとりあえず親交を深めていくべきだ。
そのあとは色とりどりの美味しいフルーツのデザートに舌鼓を打った。
この国の食べ物はすべてがおいしい。
メシマズな国に転生じゃなくてよかったと思う。
食事はやっぱり、大事だ。
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