【第二章「城下街と、幼なじみと、宣戦布告」】

第12話「異世界で初めての朝」

「ミチト、おはようなのじゃ! 食事が終わったら、さっそくわらわと城下町デートをするのじゃ!」


 朝。昨日、晩餐会が開かれた場所で(立食パーティ形式から机と椅子が整然と並ぶ食堂形式に変えられていた)でリオナさんの給仕で食事をとっていると、リリとルリアがやってきた。


 ちなみに、メニューは目玉焼きとベーコンとパンとサラダだ。

 元いた世界と見た目は一緒だが味はかなり美味だ。


「リリは朝ご飯、食べたのか?」

「うむ、わらわは早起きなので先に済ませたのじゃ! ついでに午前やるぶんの書類仕事も終わらせたのじゃ!」


「朝から仕事をするとは、リリは働き者だな」

「うむ、国のためにがんばることが無上の喜びなのじゃ!」


 満面の笑みで断言するリリ。

 滅私奉公で働いていた頃の俺は、こんなふうに喜んで労働をしていなかった。


 やはり、リリは内政が本当に大好きなのだろう。


 働かされるというのではなく、自主的に働いているというところでモチベーションが違うのかもしれない。


「もちろん今日はミチトとデートするのも至上の喜びなのじゃ! じ、実は、ミチトとの城下町デートが楽しみで早起きしてしまった面もあるのじゃ!」


 恥ずかしそうにこちらを見ながら言うリリがすごくかわいい。

 やはり歳の離れた妹とか娘とかそんな感じの「かわいい」だけど。


「俺も、城下町見るの楽しみだぞ」


 社畜時代は旅行なんて行く暇なんてなかった。

 会社に行かずに済む朝は最高だ。


 通勤で満員電車に乗らずに済むし、そもそも今朝は目が覚めるまで寝ていられた。

 目覚まし時計に起こされない朝のなんと素晴らしいことか。


「うむ! それでは食休みしたら、さっそく街へ行くのじゃ! と、そう言えば、ミーヤが見えぬのう?」


「ミーヤさまは昨夜はミチトさまにスペシャルマッサージをなさっていましたから、まだ眠っておられると思われます」


 リオナさんはティーカップに紅茶のようなものを注ぎながら言う。


「むむっ、スペシャルマッサージじゃと? ま、まさかわらわに先んじてミチトとあんなことやこんなことをしたと言うのか!?」

「いや、マッサージだけだったから」


 まぁ、普通のマッサージじゃなかったと思うけど……。よくは覚えてないが、俺の童貞はたぶん守られたはずだ。たぶん。


「ちなみにわたしはミチトさまのお背中を流しました」

「な、なんじゃとっ! わらわがぐっすり就寝している間に、ミチトは楽しんでおったというのか!?」

「い、いや……背中を流されただけだから」


 まぁ、すっごく気持ちのいい背中流しテクニックだったけれど……。


「むううっ! このままではふたりに先を越されてしまうのじゃ! ここは今日のデートで挽回するのじゃ!」


 リリはかなり危機感を覚えているようだ。ここでリオナを叱ったりしないところに器の大きさを感じる。


 それから紅茶を飲んでいるうちにミーヤも合流した。

 朝ご飯はあまり食べないタイプらしく、ミルクティーだけで十分のようだ。


「うむ、みな揃ったな。それでは、わらわとミチトとルリアとミーヤとリオナで街に繰り出すのじゃ!」

「護衛はほかにいなくて大丈夫なのか?」

「わたしがいるから問題ない。なんといってもわたしの腕は皇国随一だからな!」


 脳筋というか脳剣のルリアは自信満々だ。

 ……まぁ、夜と違って昼間ならそんなに危険はないか。


 昨夜リオナさんが言っていたとおりスパイがいたとしても、白昼堂々なにかするとは考えにくい。国が栄えているようだから治安もいいだろうし。


 とにもかくにも。

 俺はリリたちと一緒に、初めて異世界の城下町を散策することになったのだ。


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