第9話「晩餐会(2)衝撃の人類救済方法と美味しい肉!」
「ま、待て! めちゃくちゃすぎるだろ! いくらなんでも!」
だが、かたわらのミーヤはニコニコしながら解説してくれた。
「実は先月~、体外受精を可能にする魔法の使い方を記した魔導書が発見されたのですよ~♪ なので~、ミチト様の子種をいただければ性交を伴わずに妊娠することが可能なんです~♪ いずれはわたくしもミチト様の子種で子孫を作りたいと思っていますから~♪ そのときは、よろしくお願いしますね~♪ リリ様からお許しをいただければ、魔法じゃなくて直接子孫を作りたいのですが~」
「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや!」
なにその人類救済方法。
俺の子種でルートリア国の女子がみんなで子孫を作るとか頭がおかしい。
つまり、この国の次の世代はぜんぶ俺の子どもってことになるじゃないか!
「神話でも~、最初は一組の男子と女子しかいないという話でしたし~、元をたどればいま生きている人類は最初の人類である男女の子孫なんですよ~♪ ですから~、無問題だと思います~♪」
この国の神話もそんな感じなのか……。
いやでも、しかし……ただの社畜の俺が神にも等しい存在になるというのか……?
さすがにそれはスケールがでかすぎるというか、荒唐無稽すぎるのではないかと思うのだが……。でも、俺しか男がいないんじゃ、そうするしかないのだろうか。
生涯童貞で死ぬ予定だった社畜の俺が子孫を作るどころか、国中の女子に子種を提供して子孫繁栄とか、頭がおかしい。
でも、それをやらないと人類が滅ぶというのも笑えない。
「ともあれ、世界は救われたのじゃ! それでは、乾杯なのじゃ! ルリア!」
「はい! 皇国に栄えあれ! 乾杯!」
ルリアがコップを掲げて、乾杯の発声をした。
「「「乾杯!」」」」
もう俺の頭の中はそれどころではないのだが――みんなで乾杯をした。
コップの中身は謎の紫色の飲み物。みなに習って飲んでみると、葡萄っぽい味がして、炭酸みたいにシュワシュワしていた。
グレープ味の炭酸飲料といった感じだ。
飲んだ感じ、アルコールは入ってない。
「ふむぅ、どうじゃ、ミチト、我が国特産の紫色果物のシュワシュワジュースは」
「ああ、うまいな」
まあ、ほんと、いい感じにシュワシュワだ。
だが、しかし、その味を楽しんでいるどころではない。
「リリ、さっき言ってたことなんだが……本当に俺の子種を配るのか?」
「うむ、わらわと子を成した暁にはそうするのじゃ! このままでは人類が滅ぶ! それを防ぐためには、そうするしかないのじゃ!」
揺るぎない決意を感じる!
これは確定事項なのだろうか……。
「いいじゃないですか~♪ 別に痛い思いするわけではないですし~♪」
いやまあ、それはそうなんだけど、倫理的にどうなんだと思わないでもない。
だがしかし……俺が協力しないと人類が滅ぶわけで協力しないわけにもいかないのか、これは。
「やはり、俺以外の男も召喚したほうがいいんじゃ……」
「いや、これ以上、予算を注ぎこめんのじゃ。魔宝石も枯渇してきておるしな。そ、それにわらわはミチト以外の男なんていやなのじゃ!」
そう言い切ってリリは顔を赤くした。
そして、チラチラと俺を見てくる。
ここまでストレートに言われると、俺としてもなんも言えない。というか、異性からここまで好意を向けられたことはなかった。
「ミチトよ、ともかくいまは宴を楽しむのじゃ! ほれ、これは我が騎士団が倒したドラゴン牛の肉じゃぞ!」
目の前の肉塊は牛肉のステーキかと思ってたのだが、ドラゴン牛らしい。
ドラゴン牛? なんだその珍妙そうな生物は。顔が竜で体が牛とかだろうか。
ともあれ、ジュージューと鉄板で肉が焼けており、ソースのにおいも香ばしい。
「まずは食欲を満たすのじゃ! ルリア!」
「はっ、お任せください」
ルリアはナイフを手に取ると、目にもとまらぬ速さで肉塊をカットしていった。
刃物の扱いのうまさは、さすが女騎士といったところだろうか。
「ほら、食べてみるのじゃ!」
俺はリリから皿を受け取り、カットされたステーキのようになっているドラゴン牛の肉を口に運んだ。
「……!? ……うまいな!」
味は牛肉に近いが、独特の旨みがある。
とても柔らかくて、ジューシーで、肉汁までうまかった。
ソースも、現実世界にいた頃と似たような味で、違和感がない。
「ふふ、どうじゃ、美味であろう? わらわもドラゴン牛の肉が大好物なのじゃ。やはりパーティにはドラゴン牛の肉がなくてはのう♪」
「うふふー♪ やっぱりドラゴン牛のお肉はおいしいですねー♪」
ミーヤも無駄におっぱいをポヨンポヨンさせながらドラゴン牛を口に運んでいた。
食事時までポヨンポヨンされると気が散って仕方がないが、そちらを見たらまた変な魔法にかかりそうなので、自重した。
一方で、ルリアは黙々と肉を食べていた。さすが女騎士は食事中でも凛々しいというか、行儀が正しい。一番上品に食事をしている。
「ミチト、今度はこっちの食べ物なのじゃ! これも我が国でとれた特産品じゃぞっ! ああ、でも、まずはこっちから食べるのも――」
そんな感じで俺はリリに勧められるままに国内でとれた食材で作られた料理を食していった。
俺が料理を褒めるとリリは本当にうれしそうに笑みを浮かべる。
内政をがんばってきたことで、食生活が豊かになったことがリリの自慢のようだ。
俺としても、メシがうまい国に召喚されたことは喜ばしい。
そのまま俺はリリたちと一緒に楽しい歓迎会の時間を過ごした。
社畜時代はマズい社食か、家で適当に肉と野菜を炒めて食うか、深夜までやってるスーパーの半額弁当とかだったので、本当に久しぶりにまともな食事を楽しめた。
過労死直前は料理する気もでずコンビニ弁当とかだったので、なおさら温かい料理が身に染みた。
……まぁ、衝撃的すぎる話もあったが、ともかく今はおいしい食事を食べられたことでよしとしよう。
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