第8話「晩餐会(1)華やかな会場」

 リリとリオナさんに連れられて、俺は城の二階にある大広間にやってきた。


 金糸のあしらわれた緋色の絨毯に、シャンデリアのようなデザインの照明。


 円形のテーブルには、色とりどりの花が咲き誇る。また、彩り豊かな飲み物の瓶と銀に輝くフォークがやスプーンが並べられていて華やか。


 あとは料理の到着を待つばかりといった感じだ。


「わらわの国は海もあり山もあり肥沃な平野もある豊かな国じゃからのう! 最高級の食材もすぐに手に入るのじゃ!」


 やはり栄える都市の条件は海に接していて交易をできる港があることなのだろう。


 城から領地を眺めた感じでは、国境を守る山があり、穀倉地帯となる平野もある。


 こうなると人口も自然と増え、貨幣も活発に流通し、新たな商売や商品が次々と産まれていくというわけだ。


 経済的に余裕があれば魔法の研究も進むだろうし、兵士もじっくり鍛えることができて練度も上がっていくのは自然な流れだ。


 そもそもシャンデリアのような照明や瓶まであることから、ただガラス製品を量産するだけでなく、かなりの工芸技術もあるということだ。


 ……と、そんな考察はおいておいて。


 色々な食物を味わえるのは単純に嬉しい。

 社畜時代はろくなものを食べていなかったので、なおさらだ。


「王城の料理人の作る料理は他国にも評判でのう! 毎回外交会議はわらわの国でやれとうるさいぐらいなのじゃ!」


 リリは自分の国の料理と料理人が誉められることがうれしそうだった。

 確かに自分の食べている料理を誉められたらうれしいかもしれない。


 それにリリは心から自分の国を愛しているのが感じられる。まるで我が子を褒められて喜ぶ母親のようだった。


「それは楽しみだな」

「うむ、期待してよいぞ!」


 リリは胸を張りながら、笑みを浮かべた。


「あ、リリ様~」

「姫様、遅れて申し訳ありません」


 そこで背後から声がかけられた。


「おお、ミーヤとルリアか」


 リリとリオナさんが振り向く。続いて、俺もそちらを向いた。


 俺たちのところへ、胸元が大きくあいた紅のドレスを着たミーヤと紺のタキシードのような服を着たルリアがやってくる。


 そして、ふたりは俺を見て同時に驚きの表情を浮かべた。


「あら~~? もしかしてミチト様ですか~?」

「なっ!? そうなのか!?」

「あ、ああ」


 俺は言葉少なに頷く。


「ふふ、驚いたであろう? リオナが本気を出したのじゃ! さすがは我が国の誇る最優秀メイドなのじゃ!」

「お褒めに預かり恐悦至極にございます」


「本当にすごいですね~♪ どこからどう見ても高貴な王子さまですよ~?」

「ゴブリンにも衣装というが、驚いたな」


 社畜の俺でも、さすがにゴブリン扱いされるとへこむ。


 だが、それぐらい俺も美形になっているから困惑する。まあ、さすがにゴブリン扱いされるほどではないと思うが。


「これこれ、ルリア、ゴブリンはないじゃろう。ミチト、わらわは、その、ふだんのミチトの姿も好きじゃぞ?」


 言ってから、リリは恥ずかしそうに視線を反らした。そんなふうに言われると、ちょっとグラッときてしまう。本当にリリは健気で素直でかわいい。恋愛感情とかというよりけなげな妹や娘を愛でる感覚だがな! 俺はロリコンではない!


「うふふ~♪ いいものですね~♪ こういう会話も~♪」


 そんなリリを見て、ミーヤはニコニコする。


「ご、ごほんっ! からかうのはよすのじゃ! そ、そのっ、ミーヤとルリアの服もよいのう! 実によく似合っておるぞ!」


 リリは話題を逸らすように咳払いをすると、ミーヤとルリアを褒め始めた。


「ありがとうございます~♪」

「もったいないお言葉です」


 確かにふたりの服装もバッチリ決まっていた。


「ふふ、わらわとしてはルリアのドレス姿も見てみたかったがのう?」

「なっ、ご、ご容赦ください。わたしにはそのようなものは似あいません!」


「わたくしも見てみたいです~♪」

「まだお時間もございますし、ドレスにお着替えいたしますか? ルリア様。お化粧もわたくしが責任をもって担当させていただきます」

「い、いやっ! わたしにはこれがしっくりくる!」


 確かにルリアは凛々しいので、ドレスよりもこういう服装のほうがあっているかもしれない。歌劇団の男役みたいな感じで。


「ふむ、まぁ無理強いはできんがのう……」

「自分で自分をこうあるべきと決めつけず挑戦してみるのもいいと思いますけどね~♪ ルリアさんも女の子なんですから~♪」

「わ、わたしは騎士だ。剣さえあればいいのだっ」


「……ちょっとお待ちを」


 リオナさんは一言断って席を外し、メイドたちの詰めている部屋のほうへ向かう。

 そして、すぐに戻ってきた。

 その手には、青い花の髪飾りを持っている。


「失礼します」

「えっ、なっ!?」


 リオナさんは忍者のようなみのこなしでルリアの背後をとり、髪飾りをつけた。


「むう、見事な身のこなし。さすがはリオナじゃ。メイド長を務めるだけあるのう」

「わ、わたしが背後をとられるとは」

「うふふ~♪ ルリアさん、お花似あうじゃないですか~♪」

「うむ、凜とした中に可憐な花一輪。とても似合っておるぞ。のう、ミチト?」


「ああ、確かに。似合ってるな」

「なっ、うぅっ……! そ、そうかっ」


 素直に感想を口にすると、ルリアは顔を赤くした。


「それではリリ様、わたしはメイドたちの差配をしてまいります」

「うむ、よろしく頼んだぞ、リオナ」

「お任せくださいませ」


 リオナさんは会場に接するスペースへ入っていった。

 そこからはメイドが出入りしていて飲み物や食器などを運んでいる



 やがてすべてのテーブルに食事が並べられ、城の高官らしきお姉さま方が揃った。

 魔法使いはドレス、騎士はタキシードのような服装。

 それぞれのテーブルに固まっているので、わかりやすい。


 あと、やっぱり魔法使いはふわふわした雰囲気のお姉さんたちが多いが、騎士はビシッとした軍人といった感じだ。


 ほかにはいかにも文官といったような地味な人たちがいるが、服装はまちまちだ。というか、メガネ率が高い。この世界にも、メガネはあるようだ。


 年齢は、みんな十代前半~三十代ぐらいに見える。

 若い人が多いので、華やかだ。


「よし。みんな、揃ったようじゃな! みなも知ってのとおり、ついに我が国は男子の召喚に成功したのじゃ! 世界は男子の絶滅により危機に瀕しておったが、これで人類は滅亡の破局から逃れられるのじゃ!」


 リリの言葉に会場のあちこちから祝意の歓声が上がる。


 しかし、もし俺がリリと結婚して子どもができたとしても、それだけで人口減は防げないのではないだろうか……。焼け石に水というか。


 だが、次にリリは衝撃的なことを口にした。


「わらわとミチトに子ができた暁にはミチトの子種をみなに貸し出すので、それで我が国は子孫繁栄できるのじゃ!」

「ぶはっ!」


 とんでもないことを言いだすリリに、俺は飲んでいた水を勢いよく噴いた。


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