第4話「童貞のまま三十歳を越えると魔法を使えるようになるというあの著名な都市伝説は本当だったというのか!?」
「ここが今日からミチトの部屋じゃ!」
リリは扉を勢いよく開いた。
そこはまさに国賓を迎えるかのような豪華な客室。
金色の装飾が施された寝台に、見るからに上質な布団。家具もひととおり揃っており、木製の椅子テーブルクローゼット、棚と、ただならぬ高級感を漂わせていた。
「ここが今日からミチトの部屋なのじゃ! 好きに使ってよいぞ! それとミチト専属のメイドもつけるのじゃ!」
「えっ、俺専属のメイド?」
「うむ、貴人に対しては当然の配慮なのじゃ。ほれ、リオナ、入ってくるのじゃ!」
ルリアが閉めた扉が、再び開く。そこから入ってきたのは――二十代中盤とおぼしき黒髪ロングヘアーの美しいメイドだった。
落ち着いた雰囲気でありながら、仕事のできる女性のオーラを漂わせている。スタイルもモデルのように均整がとれている。
「リオナはわらわの家系に代々仕える由緒正しきメイドの家柄であり、わらわの幼少時には家庭教師も務めてくれたのじゃ! わらわの最も信頼しているメイドなのじゃ。ほれ、リオナ、挨拶をするのじゃ」
「ミチト様専属のメイドに選ばれましたこと恐悦至極に存じます。これからはわたくしめを手足のように使ってくださいませ。どうぞよろしくお願い申し上げます」
リオナと呼ばれたメイドさんは俺に向かって、うやうやしくお辞儀をした。
……なんということだ。
労働しないですむ上にメイドさんまでつくとは。
ここがパラダイスか!
これは社畜のまま一生を終えることになった俺に対する、ご褒美なのだろうか?
「よ、よろしくお願いします……」
ちょっと美人すぎるメイドさんにドギマギしながら、俺は頭を下げた。
というか、この城の女性はみんな美人すぎる。
これは童貞のまま一生を終えた俺に対する補償的なナニカなのだろうか?
ついそんなことを思ってしまうぐらい、最高の待遇だった。
「ミチトよ、疲れてはおらぬか? ミチトさえよければ今日は盛大に歓迎会を開こうと思っておるのじゃが……? もし疲れておるのならまた後日にするということもできるぞ」
歓迎会か……。社畜時代、宴会の類が苦手だったコミュ障の俺にはハードルが高いイベントだが……。まぁ、いまの俺は社畜ではない。
ここは楽しんでみるか。疲れもないし。
社畜時代は寝てもほとんど疲労がとれなかったから、これだけでも驚きだ。
こんなに健康状態がよいのは人生で初めてかもしれない。
「体調にまったく問題はない。大丈夫だ」
「そうか! それでは盛大なパーティを開くぞ! リオナ、メイドたちをいますぐ市場へ向かわせて最高級の食材を集めるのじゃ!」
「かしこまりました。指示をしてまいります」
リオナさんは一礼して、部屋から出ていった。
なんか至れり尽くせりといった感じで申し訳ないぐらいだ。
現実世界ではただ使い潰されるだけの社畜だったわけだから、俺のためにアレコレしてもらえるとなると気が引ける。
「というか、リリ。俺、マジで役たたずだと思うんぞ……? あまり期待しないほうがいいというかそんなに盛大に祝う必要もない気がするんだが」
自らハードルを下げにかかる俺だが、
「なにを言っておる! ミチトはこの世界で唯一の男なのじゃ! つまりお主がいなければこの世界の人口は減り続けついには滅亡することになる! いわば、ミチトはこの世界の救世主なのじゃ!」
現代日本でも少子高齢化が問題になっていたが……人口問題は国どころか世界の滅亡にも繋がるわけだ。
まぁ、逆に人口が増え続けると食糧問題とか格差の問題が拡がって社会が不安定になったりするので、ただ増えればいいってもんでもないのだろうが。
というか、マジで男が俺しかいないとかシャレにならない危機的状況だ。真面目に世界が滅ぶ。
「世界中の国が男を召喚するために膨大な予算をつぎ込んでおるのじゃ。しかし、異世界から男を召喚する魔法の難易度はこの世の魔法の中で最高難易度なのじゃ! しかも六種類の魔宝石を集めねばならん上に一回失敗するだけで宝石はすべて灰になる。並の魔法使いなら、半年に一回しか使えぬ大魔法なのじゃ。ミーヤは優秀なので三か月に一回ペースで呼べたのじゃが」
俺のようなただの社畜をを召喚するためにそんなに費用と労力がかかっていたとは驚きだ。むしろ、申し訳ない気持ちになる。
「そう言えば、男じゃなくて人間の女が召喚されたことはあったのか?」
「我が国ではないが他国ではいくつか例があるぞ。隣国にもおるのじゃ。女子が召喚された場合は、だいたいは城で仕えていることが多いのじゃ。じゃが、異世界召喚魔法は基本的になにも出てこないことが多いのが実情じゃ。たまに犬や猫、あとはカブトムシやカマキリが出たこともあったのじゃ。いずれもオスじゃったが……」
人間以外も召喚されるのか……カブトムシやカマキリって……。
「これでも我が国の召喚率は高かったのじゃぞ? 他国では同じカブトムシでもメスを召喚しているような有り様じゃったからな!」
なんという争いだ。というか召喚魔法ってまるでネトゲのガチャみたいだな。人間がレアカードで、その中でも超レアカードが人間の男。それが俺ということになる。
まぁ、カブトムシとかカマキリを召喚している状態で人間の男が出たら悦ぶのもわからないでもない。たとえ俺のようなただの社畜でも。
しかし、カブトムシやカマキリと比べて人間の俺ツエー!とか虚しすぎるな……。
「そういうわけじゃからミチトはもっと自信を持つのじゃ! ミチトは存在自体が世界の至宝なのじゃ!」
とはいっても、ただの社畜だったわけで急に自分の存在に自信を持てない。社畜なんて基本的には働けなくなったら切り捨てられるだけの奴隷のような存在だから。
「ふん、自信がないというのならば皇国随一の剣の使い手であるわたしが鍛えてやってもよいが?」
脳剣の女騎士さんがそんなふうに剣のお誘いをしてくる。
男だったら剣を振るって活躍する勇者みたいなものに憧れるのかもしれないが、あいにく俺にそういう趣味はない。
極力、働きたくない。肉体労働は特に苦手だ。
「これこれルリア。ルリアにしごかれたらミチトの命が危ないのじゃ。もし剣を教えるとしても、ほどほどにな」
「うふふ~♪ そうですよ~。ミチト様は魔法の素養のほうが遥かにありますし~♪」
唐突にドアが開かれて、ミーヤが部屋に入ってきた。
ルリアの声は大きいので、外まで会話が聞こえていたらしい。
「おお、ミーヤ! このたびは大儀であった! あとで褒美をたっぷりつかわすぞっ! ……して、ミチトに魔法の素養があるとは真か?」
「はい~。ミチト様からはただならぬ魔法のオーラが感じられます~」
俺に、魔法使いの素養がある……だと?
…………っ!
ま、まさか童貞のまま三十才を越えたからか?
『童貞のまま三十歳を越えると魔法を使えるようになる』というあの著名な都市伝説は本当だったというのか!?
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