第3話「見た目幼女な名君!」

※ ※ ※


「さて、さっそく城内を案内しよう。ついてくるがよいぞ! ……っと、そうじゃっ! 自己紹介がまだであったな! わらわはルートリア皇国の姫リリじゃ!」


「わたくしは魔法使いのミーヤです~♪ よろしくお願いしますね~♪」

「わたしは皇国随一の剣の使い手である騎士のルリアだ!」


 幼女姫――リリに続いて、ふたりも名乗った。


 魔法使いに女騎士とか、本当にファンタジーみたいな世界なんだなと思いつつ俺も自己紹介をする。


「ええと……俺は、有働道人(うどうみちと)だ」

「ウドウ・ミチトか! 良い名前じゃのう! よろしく頼むぞ、ミチト!」


 漢字で名前を書くたびに『働』の字が入ってて疲労を感じたものだが、異世界では漢字はないだろうし、そういう思いはせずにすむだろう。働きたくない。


「ああ、よろしく」


 こちらの名前を称賛されたのだからリリたちの名前も称賛するべきなのかもしれないが、労働ばかりでコミュ力の低い俺はうまく返せなかった。


 そんな俺の反応を気にすることなく、リリは笑顔で俺の手を引く。


「よし、ついてまいれ! わらわの自慢の城と城下街の風景を見せるぞっ!」


 口調は偉そうだが、行動は子どもっぽい。姫といっても、見た目は七歳ぐらいだ。


 なんだか歳の離れた妹でもできたみたいだ。あるいは、娘とか。


 まあ、現実の俺には妹もいなかったし、労働に明け暮れていたので結婚なんて絶対にありえなかったのだが……。


「わたくしは魔道具の片づけがありますので~、ルリアさん、姫様と一緒についていってあげてください~♪」


 ミーヤに言われてルリアはうなずいた。


「わかった。おい、いくぞ、ミチト。姫様を待たせるなっ」


 やっぱり女騎士はツンツンしているものなのだろうか。ほとんどが労働で消えていた毎日だったがアニメだけは少し見ていたので、ある程度ファンタジー世界のイメージはある。


 ともかくも俺は二人に続いて、召喚された部屋から出ていった。



「あ、姫様! もしかしてその御方は」

「おめでとうございます!」


 城内で警備している女騎士やメイドさんたちは、リリと一緒に歩いている俺を見て歓声を上げる。


「うむ! ついにミーヤのおかげで男を召喚することに成功したのじゃ! これで我が国は富国強兵殖産興業埋めよ増やせよ一億火の玉じゃ!」


 勇ましすぎるスローガンだ。

 というか、この国大丈夫だろうか。実は末期的なんじゃ……。


「ふふ、ミチトよ、そういうわけで早くわらわと結婚して家庭を築くのじゃ! わらわは子だくさんの大家族がよいぞ!」

「いや、というかいま何歳なんだリリは。家庭を築くなんて、十年早いんじゃないか? そもそも自分が子どもだろう?」


 俺は見た目年齢七歳ぐらいの幼女に欲情するような変態ではない。

 だが、リリは俺の言葉に怒った顔になった。


「わ、わらわは立派に成人しておるぞっ! 失礼なっ!」

「えっ、実はロリババアとかいう奴か?」


 アニメではありがちだ。


「なっ、貴様姫様に向かってババア呼ばわりとは何事だ! 今すぐ取り消せ!」


 反射的にルリアは腰の剣に手をかけた。 やはり女騎士は暴力的で怖い。


「よすのじゃ、ルリア。ミチトはこちらに来たばかりじゃから不問に付そう。ちなみにわらわの年齢は十七じゃぞ! この国では十六から男女とも結婚できるのじゃ! ……もっとも、男が死に絶えたので婚姻に関する法律は機能してないのじゃが……」


 十六で結婚か。そう言えば、俺がいた日本はつい最近まで男が十八、女が十六で結婚だったから、この異世界も年齢についての概念はそんなに変わらないみたいだ。


 というか、俺のいまの年齢っていくつなんだろう?


 手とか見ても、俺が過労死した頃と段違いに肌が綺麗だ。色艶がすごくいい。

 十代後半あたりといったところだろうか。


「そうじゃ、ミーヤの教えてくれた詳細ステータスによると、いまのミチトの年齢は十八ということじゃぞ」

「じゅ、十八……俺、十五歳も若返ったのか……」


 あの頃はバイトと受験勉強の両立で死ぬ思いをしていた頃だ。思い出すだけで心身が消耗してくる。


「む? ミチトはあちらの世界では三十三歳だったのか? それはそれで歳の差で燃えるものがあるのじゃ!」


「というか、本当に俺と結婚するつもりなのか……? 俺のほかに男がいないっていっても、今後、別の男を召喚をできるかもしれないだろ? そっちのほうが男らしくて格好いい奴かもしれないぞ?」


「いやいや、もう召喚魔法は行わぬのじゃ。儀式のたびに高価な魔法石も消費するし、これ以上ミーヤにも負担をかけるわけにもいかぬ。そもそも、わらわはミチトを見たときにビビッと電流が走ったのじゃ! 一目ぼれなのじゃ!」


 キラキラした瞳でストレートにそんなこと言われると、童貞の俺はドキッとしてしまう。


 って、いかんいかん、相手は見た目年齢七歳だぞ。まあ実年齢十七だからオーケーなんだろうけど、やっぱりアウトだと思える。


 そもそも労働と勉強ばかりの人生で色恋とは無縁だった。

 彼女なし歴=年齢だ。当然、結婚なんて一生しないものだと思っていた。


「そういうわけで、ミチト! いつでもわらわを押し倒してよいからな!」

「いやいやいや……そんなことしないから」


 なんということを言っているのだろうか、この合法ロリ姫様は。


「ははは、男はみんな野獣のようなものだと母上も言っておったぞ?」


 いったい娘にどういう教育を施してきたんだ王女は……。

 あっけらかんとそういうことを言われると戸惑うばかりだ。


 ほんと、子ども相手なのに情けない。あ、いや、今の俺の年齢とひとつ違いだから、そんな変わらないんだけど、この見た目じゃあなぁ……。


「ふふ、まあしばらくはこの国に慣れることじゃ。ほれ、ミチトっ! こっちへくるのじゃ! この階段を昇った展望台からは城下町が見渡せるのじゃ!」


 リリに手を引かれて階段を昇り、その後ろからはルリアが付き従い、俺たち三人は展望台へ出た。


 その名の通り、城下町を俯瞰できる。城の最上部っぽい場所だ。

 つまり、俺が召喚された場所はかなり城の上階ということになる。


「どうじゃ、我が国は! 栄えておるであろうっ!」


 リリの誇らしげな声を聞きながら、眼下の光景を眺めた。


 西洋ファンタジー風の街並みに教会のような建物。大通りには市のようなものが開かれて賑わっており、煙を上げている鍛冶屋らしき場所も見える。


 城壁の向こうには街道があり、さらに遠くには穀倉地帯なのか畑が広がっている。


 そして、街を行きかう人は遠くからなので顔まではわからないが、いずれも女性らしい服装をしており本当に男が絶滅してしまったという言葉が事実なのだと思えた。


 ともあれ、アニメの中でしか見られないようなファンタジーな光景を目の当たりにして社畜生活で荒廃していた俺の心も久しぶりに高揚した。


「すごいな」


 素直に感想を口にすると、リリは表情を輝かせる。


「そうじゃろう、そうじゃろう! わらわは内政大好きっ子じゃからのう! 国を繁栄させるためにさまざまな政策を実施して成功させてきたのじゃ! 商業も農業もいまや我が国は世界トップクラスなのじゃ! 母上から皇位を継いで五年、苦労も多かったが、こうして城下町が繁栄しているのを見ると心も和むのじゃ!」


 どうやらリリはかなりの名君らしい。


 おそらくリリの母である王女が倒れたあとに姫という身分のまま職務を代行しているのだろうから十二歳からずっと国土を繁栄させるためにがんばってきたのだろう。


「我が国は父上の代まで軍事優先であったが、わらわが職務を代行してからは商業・農業に特に力を入れたのじゃ! 文句を言う軍人どもも開墾に協力させて、街道の整備にも力を入れたのじゃ」


 確かにいつの時代も国防費は膨大だろう。それを内政に振り向けられれば繁栄するのはわかる。


「ということは、この世界は平和なのか? 軍事優先にしなくていいってことは」


「うむ、もう戦乱は三十年ほど起こってないのじゃ。なので、内政に力を入れられるのじゃ。もっとも、隣国の姫はちょっと問題があるというか、ワガママな上に軍事大好きっ子なので、油断はできぬのじゃが……」


「リリ様。確かに平和ではありますが隣国のヌーラントはなにを考えているかわからない国。一応友好国ではありますが、備えは必要です!」


「うむ、わかっておる。防衛費は削減したとはいえ、我が国にはルリアやミーヤという優れた家臣がおるから安心しておるぞ!」


「はっ! いざというときは命を捨ててでもリリ様と皇国をお守りいたします!」


「うむ、勇ましいのう。わらわは魔法使いミーヤと騎士ルリアという最高の家臣に恵まれたのじゃ。そして、このたびはミチトまで我が国に迎えることができた。ミチトも、なにかこの国に対して意見があれば、ぜひ言ってほしいのじゃ!」


「あ、ああ……ま、まぁ、特にはないかな……」


「うむ、それなら気がついたときに言ってほしいのじゃ! 異世界から来たミチトの知見は役に立つと思うのじゃ」


 まぁ、俺は特別な知識があるわけではなく、ありふれた社畜だったわけだが……。 期待されても困るが、今後、なにかしら気がついたことがあれば言おう。


「それでは、次はミチトの部屋に案内するのじゃ! 最高の部屋を用意しておるぞ!」


 再び移動を開始したリリのあとをついて城内を移動していく。

 ちなみに城の内部は石造りっぽい感じだ。

 電気はなく左右の壁にはガラスでカバーされた蝋燭入れのようなものがある。


 足元は深紅の絨毯。


 窓にはガラスが張られている。つまり、ガラスの量産ができるほどの工業力はあるということだろう。


 途中、メイドや騎士とすれ違いながら進んでいき(そのたびに祝意を述べられていちいちリリはそれに返していた。姫様というのも大変だ)、立派な装飾を施された扉の前までやってきた。


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