第69話 飛竜

 王都に入るまえに、六頭の飛竜に待ち伏せされていたが、槍を投げてきただけ。元々偵察のつもりだったのかムドべべ様を見て撤退したのかはわからない。


 ていうか、明るい時には飛竜と対面するのって何気に初めてかもしれない。カラーリングからフォルムまでまんまトカゲだった。違うのは翼が生えていることだけ。体は地球にいた頃によくテレビで見てた大型のトカゲ以上のサイズがある。


 しかし不思議だ。あの体のデカさ、そのうえ武装した兵士を乗せている状態なのに、なんであんなにスムーズに飛べるのだろうか。謎だ。


 『フューリーさん。デ・マウの位置を教えてください』

 (変わらん。王城の中心部におるのう)


 地道な都市破壊活動が功を奏したのかな? 狙いが王だと勘違いしてくれてるなら俺の目論見どおりなんだけど、話聞いてる限りだとデ・マウがそんな単純な奴だとは思えないんだよなぁ。


 『マンデイ』

 『なに』

 『地上班と空中班で別れる。地上班の指揮はマンデイがとってくれ。フューリーさんは補助を』

 『うん』(うむ)

 『あと、フューリーさん。デ・マウにの動きは常に監視しておいてください。なにかあったら遠吠えを』

 (うむ)




 ~~ side ファウスト ~~


 『ムドべべ様。王城の周辺を飛びます。補助を』


 アホ鳥が首を回してこっちを見てくる。


 怖い。


 通信機は付けさせてもらってるから俺の声は聞こえているとは思うんだけど、向こうはまだ錬度が足りなくてまだ発信できない。なに考えてんだろう。意思疎通が取れないのは怖い。フューリーも根にもってるとか言っていたしな。


 やだなぁ。不良に目をつけられたオタクの気分だ。


 飛べる組で行動するのは効率的だと思ったが、言語的なコミュニケーションが取れないのがなんともやりずらい。


 なんて考えてたら飛竜の本隊が隊列を組んでやってきた。


 夜ばっか戦ってたから相手にするのは少数で済んだけど、昼だと結構な数だ。そして隊列を組まれると威圧感が凄い。


 デルアって何頭くらい飛竜を保有してるんだろう。一頭わけてくれないかな。なんか便利そうだし。


 『ムドべべ様。相手の隊列を崩してもらっていいですか?」


 こっちを見るムドべべ様。


 ……。


 通じてる?


 と、ムドべべ様が翼を広げ突風を起こす。


 すぐさま竜の乗り手が魔法を発動し、風に対処しようとするが、不干渉地帯の主の魔法と一兵士のそれじゃスケールが違う。


 もろに風を食らった数頭の飛竜が体勢を崩す。


 おっ? アタックチャンスでは?


 すかさず子機を発動、俺の周囲を飛行させる。同時進行で電気の球を宙に浮かせ、魔力を込めていく。


 うぅん。性能ばっか考えてたから、いままで気がつかなかったけど子機って結構うるさい。周囲の音が聞こえないと不意打ちを食らいやすくなる。要改良だなこれ。まぁ、それは帰ってからだ。


 いまは目のまえのトカゲ共に集中。

 

 電気で目標を示すと、子機は俺の飛行速度にも劣らぬ速さで飛んでいき、飛竜に刺さった。


 第一工程は問題なし。


 次に電気の玉を空中で炸裂させる。俺が放った魔法は子機に誘導されて飛竜へ。



 【電気魔法・避雷針】



 子機に着弾した魔法が飛竜の体内で炸裂。


 体内を走り、組織を切り裂く電気の奔流。


 例えいくら戦闘経験が豊富でも、この痛みは味わったことがないだろう。


 避雷針を食らった飛竜は残らず全部落ちていった。


 が、まだ結構な数が残ってる。


 子機って全部で六機あるんだけど、一機は通信用にカスタマイズしている。残りの五機は攻撃用のチューンアップ。


 避雷針は効率が悪すぎる。五頭ずつ落としてたらいつまでたっても終わらない。するならもっと広範囲の攻撃にしないと。


 と、落ちていった竜騎士の救助に、何頭かの飛竜が戦線を離脱していくのが見えた。


 これは助かる。一頭落とすとオマケが付くのか。


 そうとわかればやりやすい。ヨキ隊の救出もしなくてはならないが、こう飛竜にウロチョロされたら面倒だし、先にある程度お掃除してから探すか。


 『ムドべべ様。広範囲の魔法を使います。距離を開けてください』


 ……。


 いや、大丈夫。たぶん伝わってる。ていうか伝わってなくても問題なし。この技がムドべべ様に効かないのは実証済みだから。


 攻撃用の子機を手元に戻し、飛行の間隔を指示、先程の攻防で一番反応の鈍かった竜に狙いを定めて、核を撃つ。


 まだ若い兵士だったのか、まったく反応できずに核を食らってくれた。助かる。



 【電気魔法・鳥籠とりかご



 う~ん。


 範囲を欲張り、間隔を広く設定しすぎたのが原因か、あまりダメージが入ってないように見える。若干動きがにぶくなった程度だ。


 巻き込めたのは十頭程度か。


 まぁ直接相手を傷つける避雷針と比べちゃダメだな。こんなもんだろう。


 『一頭ずつ確実に落としていきます。補助を』


 ……。


 うん。大丈夫。この沈黙は肯定っぽい沈黙だ。たぶん。


 子機で周りの竜騎士を牽制けんせいしながら、鳥籠を食らって飛行能力の落ちた飛竜へと近づく。


 そして攻撃ギアを切り替える。


 狙うは乗り手ではなく飛竜の、皮膚が柔らかく竜騎士の手が届きにくい首筋か腹部。


 出血が目的の新攻撃ギア。性能テストは終了済。


 さぁ本番だ。



 【回転・貫手ぬきて



 ドリルのように回転する魔力が竜の皮膚をえぐり、血が溢れる。


 あぁ、痛そう。


 普段、フューリーとかゴマとかハクとか人間以外の生物と交流があるから、狩り以外でこういう生物を傷つけると心が痛む。


 ごめんな飛竜。だが竜騎士相手だと、お前を落とす方が早いんだ。


 【回転】は対生物に対して想像以上のパフォーマンスをしてくれる。造って正解だった。


 落ちた飛竜の救助に、また数頭が離脱。竜騎士は仲間意識が強い。本当に助かる。玉砕覚悟で一斉に突っ込まれたら面倒だからね。


 後は適当に相手をしつつ探すか。


 連絡用の子機を飛ばし、通信範囲を広げながら飛行する。


 『リズさん、ヨキさん。救援に来ました。応答してください』

 『……』


 地道に探すしかない。


 ていうか今日はウザ飛竜はいないのかな? まぁ助かるけどさ。あの人って嫌らしい戦い方するからストレスが溜まるんだよな。


 『リズさん、ヨキさん、きゅうえーー』



 Gyoeee!



 その時、ムドベベ様がけたたましく鳴いた。


 ん? まさかやられた?


 体を反転させて振り向くと、ムドベベ様が俺に向かって風魔法を使ってきた。


 は? このタイミングで俺のこと忘れたの?

 

 反射的に翼をたたんで魔法を回避。


 魔法に揉みくちゃにされる飛竜と俺。


 『ムドベベ様。何事です?』


 今度は上の方に暴風を。


 なんだ? なにかいるのか?


 風に追い出されて、眩しい光のなかから一頭の飛竜が出てきた。


 …………。


 なるほど。


 『感謝します』


 あの野郎。光のなかにずっと隠れてやがったな。


 あの飛び方、あの性格の悪さ。


 出たなウザ飛竜。


 光のなかに潜伏し、隙を見て上空から急襲してくる算段だったのだろう。飛行用のスーツには一応空中戦で背後を取られた時のための装備、【バック・アイ】がついてるんだけど、それでも意識外から急降下されて攻撃されてたらどうなってたことか。ムドベベ様々だな。


 『ムドベべ様。あの飛竜は、他の奴とは一味違います。先程のように、かなり嫌らしい戦い方をするので気をつけてください』



 Gyoaaaaaa



 ムドベベ様が鳴く。


 ドドドド、地鳴りがした。建物に使用されていた石材が宙に浮き、巨大な怪鳥の周囲に浮遊した。


 大地そのものが動いているように錯覚するほどの規模の魔法。見た相手に瞬間的に力の差を悟らせる圧倒的な質量。生物として、決して埋まることのない距離。


 たぶん、すべての竜騎士と、すべての飛竜が確信しただろう。これは自分がどうにか出来る相手じゃないと。


 『ムドベベ様。下には僕の仲間がいるかもしれません。気をつけて攻撃してください』


 ギロ


 ……。


 …………。


 ご、ごめんて。


 指示されるの嫌なんかな。怖いから睨まないで欲しいんだけど。



 Gyoaaaaaa!



 鳴き声を上げて翼を広げるアホ鳥様。


 すると宙に浮いた石材が変わっていき、やじりのような形になった。


 どうやら俺の言葉が通じたようだ。広範囲の攻撃ではなく、ピンポイントのものに切り替えてくれた。

 

 さて飛竜諸君、いまから難易度マックスの避けゲーがはいまるぞ。


 俺もやったことあるけど、それかなり難易度高いから気をつけろよ。当たったら即死レベルの理不尽極まりない石の弾幕だ。


 無数の鏃が敵を襲う。


 不憫である。


 ムドベベ様の無慈悲な弾幕をくらった飛竜隊は半壊した。俺は住民や建物が崩壊しないように立ち回っていただけ。それだけで勝てた。不干渉地帯の主は伊達じゃない。


 残ったのはウザ飛竜と、ベテランの乗り手と思われる数人だけ。熱くなって突っ込んでくるかなと思ったけど、彼らは最後まで冷静だった。


 数頭の飛竜が壁、及び俺たちの邪魔をして、残った飛竜は仲間と住民の救助に向かった。


 いまのうちにウザ飛竜を仕留めときたい、という欲はあったが、アイツをやるには時間がかかる。ヨキとリズの救出が先だと断念した。


 フューリーの遠吠えは聞こえない。まだ大丈夫そう。


 そのまま飛行し、連絡用の子機を使って王城周辺も調べてみたが反応はなし。


 王城にいないとすれば残された可能性は、追手おってから逃れてどこかに潜伏している、もしくはすでに殺されているか、連絡を返せないほど弱ってる。あるいは犯罪者を収容する施設があれば、そこにいてもおかしくない。


 先程のムドベベ様の攻撃に巻き込まれた可能性は……。考えないようにしよう。


 もう少しだけ捜索して、なんのアクションもなければ、次の行動に移ろうかな。


 デ・マウが動くかもしれないし、あんまり悠長なことはやりたくない。


 ヤマを張って動いた方が賢いか?


 ていうか、意外と地上からの攻撃が少なかったな。もっと過激な歓迎をされると思ってた。まぁ楽なら楽な方がいいんだけど。


 さて、どこを探すか。


 パッと思い付くのはリズとヨキが最初に潜伏したスラム街か、後に住んだ歓楽街。


 ヨキなら多分、歓楽街にもスラム街にも近づかないだろう。顔見知りから通報されるリスクを考慮するはずだ。ヨキの体は変幻自在。顔や声を変えられる。が、それでも近づかないと思う。喋り方や仕草、死んでいた期間が生む微妙な違和感。バレるリスクはあるから。


 だがリズならやりかねん。


 「だって知り合いがいますから」


 みたいなことを平気で言いそう。


 ヨキは怪我さえしてなければ、一人でなんとか出来そうだが、リズはさっぱりわからん。どうしてるのか予想が出来ない。


 優先するのはリズか。


 ここから歓楽街は遠くない。


 行ってみるか。

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