第68話 救出行

 「マグちゃん!」

 「ファウスト」


 マグちゃんはかなり疲弊しているようで、地面にへたりこんでいる。


 「怪我は?」

 「なイ」


 とりあえずそれは良いニュース。


 「ヨキとリズはまだ生きてる?」

 「わからなイ」


 わからない……。


 生きている可能性があるのなら、救出に行きたい。が、警戒されているなかに突っ込むのはリスクが高すぎる。


 とりあえず情報だ。


 「ちょっと体を休めててくれ。することがある」

 「わかっタ」


 俺は外に出て、フューリーの元へ。


 (なにがあったのだ)

 「ヨキが危ないらしいです。デ・マウの位置は捕捉できていますか」

 (うむ)

 「いまからヨキとリズの救出に向かいます。フューリーさんにも協力して欲しいのですが構いませんか」

 (無論)

 「あとムドべべさまにも協力を要請してもらっていいですか? それと輸送のためにゴマとハクは連れて行きたい。救出ルートは多い方がいいから」

 (うむ。ではそのように)


 あとは……。


 「ゴマ、ハク。聞いてたとは思うが、ヨキとリズが危ない。救出に向かう。来るか?」

 『ふぁjU、るbえi』


 うん、わからん。


 「マンデイがスーツをとりつけに来る。装着し終わったら各自スーツの点検をしてくれ。前回練習で使ったものから性能は変えていない。少しでも違和感があれば教えて欲しい。最後に、来たくないなら拒否してくれてかまわないからな。無理について来る必要はない」


 ゴマは頭を下げていて、ハクはゴロンと寝転がったまま。


 うん、さっぱりわからん。後でフューリーに通訳してもらおう。


 なんとなく喜んでんな、とか、不機嫌だな、とかそういうのは理解できるようになったんだけど、こういう複雑な意思の疎通はどうしても出来ない。早く通信機を使いこなしてもらわなければ。


 「マンデイ。自分の装備の点検をした後でゴマとハクのスーツの取りつけをしてくれ。あと、壁を落下する時のゴマハク用のパラシュートの準備を」

 「うん」

 「あと今回はメイスはダメ。怪我人を抱えるかもしれないから、トンファーにしよう」

 「うん」


 ジェイは……、今回はお休みだな。まだ万全じゃない。足手まといになる可能性がある。マグちゃんも無理だろう。


 「ジェイさん、今回はこっちに残ってマグちゃんとマクレリアさんと警護を。一応なにがあるかわかりませんから」

 「私も行くわ。問題ない」

 「ダメです。ジェイさんの体内の未発達な細胞ベイビー・セルの活動は、まだ完全に停止したわけではありません。成長は終盤に差し掛かっているとは思いますが、なにがあるかわかりません」

 「でも――」

 「次だ。ジェイさんが活躍する機会があるとしたら次です。それまでは体力を回復することに専念してください。言ったはずです。間違った努力はすべきではないと」

 「わ、わかったわよ」


 なんだ? ジェイにしては随分素直だな。まぁいいか。彼女も成長しているんだろう。


 なんか耳がシュンと下がってて可愛い。いつもこんな風だったらいいのに。


 さて詳しい話を聞こうかとリビングに戻ると、マグちゃん、ご飯中だった。


 「ねぇファウスト君からも注意して! この子、休憩もしないで飛んできたの! しかも向こうで戦闘した後、そのまま!」


 必死だったんだろうな。マグちゃんらしいっちゃらしいが。


 「散々マクレリアに叱られただろうから俺からは軽く言うだけにするけど、長距離を飛ぶ時は小マメな栄養補給と休息はするように伝えてただろう? マグちゃんは最後の要だったんだ。もし、途中で飛べなくなったらヨキたちは余計に危ない状況に陥っていたはずだ。他人のために熱くなれるのはマグちゃんの美質だと思う。だけど、これからは少しセーブ出来るようにならないといけない。ピンチの時こそ冷静に」

 「わかっタ」

 「でも、今回のマグちゃんの働きは最高だった。ありがとう。お疲れ様」

 「うン」

 「それで、どういう状況だったのか教えて欲しい」

 「わかっタ。私たちハ、デルアの重要人物ヲ捕獲しタ。そしテ――」


 舞将リッツは、なかなか情報を吐かなかった。


 ヨキたちは長い時間をかけて尋問し、少しずつデルアの情報を引き出していたのだがその途中、敵の援軍が来た。


 人数は十二人。


 ある程度情報を引き出し終えていたヨキたちは、退避はせずに敵戦力を削るために迎撃をする選択をした。


 「なんでそんなことを……」

 「撤退ノ準備ハ済ませていタ。それ二……」

 「それに?」

 「私たちハたぶン、油断していタ」


 俺の能力によって強化された体、この世界では類を見ないほど高いクオリティーの武器、リズベットの索敵能力、最強クラスの種族。


 相手が多くても勝てるだろうという慢心。油断。


 「なにかガおかしかッタ」


 ヨキが時間を稼いでいる間に、相手と距離を取ったリズベットは狙撃を開始。一人の頭を撃ち抜き、続けて二人、三人と処理した。


 部屋の隅に潜伏していたマグちゃんは敵の死角から接近し、毒針を突きたてていく。毒の種類は致死毒。敵は簡単に倒れていく。


 一瞬で敵の数は減り、半数になった。


 すべては順調に進んでいた。


 が、ある出来事から、突然に流れが変わる。


 「女ガ、声を上げタ」


 すると、相手の動きが急に変わった。いままでと比べ物にならないほど素早く、力強く。


 あるいは付与系の魔法だったのかもしれない。もしくはなにかの合図?


 女の叫びの後、敵の肌が急に固くなり、針が刺さらなくなった。それまで優勢だったヨキも敵に押されだす。


 リズベットは……。


 「音ノせいデ、場所がバレタ」


 何者かに襲撃された。


 『負傷しました、離脱します』


 これがリズベットから入ったの最後の通信。


 この時点でようやく状況が不利だと判断したヨキは退避を指示。


 マグちゃんは指示どおりに建物の外に出る。


 しかしそこには飛竜隊が待ち受けていた。


 このままではヨキが逃げ切れないと考えたマグちゃんは飛竜に毒を入れ、撤退。休みなしに不干渉地帯まで飛んできた。


 「なるほど」

 「最後二、すごい音がしタ。建物ガ壊れタ」

 「敵の攻撃?」

 「わからナイ」


 無茶しやがってヨキめ。後でお説教だ。


 だかいまは行動。


 「いまからヨキとリズの救出に向かいます。おそらく敵は厳戒態勢を敷いているでしょう。もしかしたらデ・マウが出てくるかもしれません。慎重に動きましょう。フューリーさん、デ・マウの位置は常に把握して、動きがあったらすぐに伝えてください。

 話を聞いただけなのでわかりませんが、今回、敵方は付与魔法のようなものを使った可能性があります。デ・マウが関与しているかもしれません。強化された敵は、限られた人数でヨキたちを追い込むほどの力があります。皮膚が固くなったという情報がありました。どれほど固いのはか不明ですが、無理だと判断したらすぐに撤退します。特にゴマ、ハク、フューリーさんは一度捕まってしまうと僕の飛行能力じゃ救出できません。ですから絶対に無理はしないように。

 また、状況から判断するにヨキとリズが合流している可能性はほぼないと考えるのが自然です。二人は別々に逃げて王都に潜伏しているか、敵に捕まっているでしょう。潜伏している場合のために、通信をしながら探し、発見ししだい救助、撤退します。

 もし捕まっていたら一度撤退し、策を練って再度救出に向かいます。

 地上班はフューリーさん、マンデイ、ハク、ゴマ。空中斑は僕、ムドべべ様。お互いにフォローしながら探します。

 空中班が先にどちらかを発見した場合、ムドべべ様が安全な場所まで運んでください。

 地上班が先に発見した場合、ゴマが輸送。他はフォローを。

 もしリズ、ヨキが自力でゴマとムドべべ様の背中に乗れない場合は、空中班は僕、地上班はマンデイが抱えて安全な場所まで逃げます。他になにか?」

 「…………」

 「なさそうなので、さっそく向かいましょう」


 捕まっていなければいいが……。


 仮にそうなった場合、リズの体を乗っ取られるまえに、こちらから攻めなくてはならない。


 圧倒的に不利なスタートを切ることになる。


 もしもの場合、ヨキは体を捨てて逃げることが出来るがリズはどうしようもない。スーツを使ってうまく逃げてくれればいいのだが、相手方にはリズのスーツを見破った奴がいる。安心は出来ない。


 飛竜も厄介だ。もしマグちゃんが討ち漏らしていたとしたら……。


 自分が飛ぶからわかる。上にいると、おもしろいくらいに状況がよく見えるんだ。逃げようとする奴を見逃すはずがない。


 状況は最悪だ。明るい要素がなにもない。


 不干渉地帯の壁を越えようと、ゴマ、ハク用の階段をちまちまと創造していたらムドべべ様が降りてきて、二頭を掴んで上空に。


 やっぱりデカいは正義だ。


 「マンデイ」

 「なに」

 「パラシュート、捨てていい」

 「うん」


 あれが味方になるってスゲーな。


 「フューリーさん」

 (なんだ)

 「ムドべべ様って、作戦忘れたりしないですよね?」

 (どうだろうのう)

 「フューリーさんから何度も伝えてくださいね。ムドべべ様が勝手に動いたり、暴れたりしたら止められる自信がない」

 (だがお主、ムドべべに勝ったのだろう?)

 「誰から聞いたんですか?」

 (ムドべべが言っておったぞ)

 「へぇ」

 (根に持っておった)


 勘弁してくれ。


 壁を越えたところで、メンバーが並ぶ。


 「よし、装備の最終確認をする」

 「マンデイ、スーツの動きは」

 「問題ない」

 「次、ゴマ、ハク。動きに不自由はないか?」


 二匹は少し体を動かした後、俺の方を見る。


 「よし、問題なさそうだな」


 ……。


 うん、反応がないから大丈夫なんだろうな。


 「フューリーさん再発生リ・スポーンの発動条件は整えてありますね?」

 (ここに来てから絶やしてはおらんのう)


 よし。


 「ムドべべ様……、は大丈夫ですね」


 この鳥さんってなんかインフルエンザとかに罹ってても普通に世界上位に食い込むくらい強そうだし、問題はないだろう。


 「今回、俺のスーツはいつもの【鷹】だけど、装備を攻撃全振りにしてる。普段より若干重いし速度が落ちるからフォローが遅れるかもしれない。連絡は早めに頼む」

 「うん」(うむ)『jあruパl』


 大きく深呼吸をすると、熱くなっていた頭が冷えていった。


 段々メンタルコントロールが上手になってきたな、俺。成長する因子グロウ・ファクターの影響かな?


 ムドべべ様が女性の悲鳴のような鳴き声をあげる。フューリーも遠吠えをし、ゴマとハクが続く。マンデイに視線を向けると、こちらに気がつきコクリと肯いた。


 「行こう! ヨキたちを救いに!」

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