第50話 見栄 ト 虚勢
ルゥと同レベルの人間を倒さなくちゃいけなくなった。
「あっ、ちなみに僕が狙われてる理由って……」
「代表者は王族から出ないとダメ。アシュリーの血を引く正統な後継者じゃないといけない。デイはレイシストなの。知の世界、アシュリーとおなじ形をした人間こそが至高で、他の種族は人を真似た失敗作品にすぎない。心からそう思ってる。ファウスト君のお母さんって人間じゃないでしょ?」
「あぁ、なるほど。どっかのクソ天使みたいですね」
「そうだねぇ」
「デ・マウが差別主義者で、性格悪くて、ストーカーで、倫理観の欠如した変質者野郎だということはわかりました」
俺は別に戦っていい。ルゥとマクレリアになんの恩も返せずに終わるなんて嫌だから。
デ・マウ以外の兵士とかは可能な限り殺したくはないのだけど、そんなこと言ってられないだろう。最悪の場合【コメット】もあるから、デ・マウのいる城や拠点ごと吹き飛ばすという選択肢もとれる。
俺はいい。だがもう一度確認しておくか。
「マンデイ、これは侵略者との戦いとは関係がないし相手のレベルもかなり高い。嫌なら無理をする必要はないが、どうする」
「行く」
「本当に無理をする必要はないぞ?」
「行く」
「わかった」
次は……。
「リズさ――」
「やります! 絶対に。ファウストさんがダメって言ってもやります」
食い気味に答えてきた。リズの性格なら、まぁ、そうか。
そして……。
「ヨキさんはどうしますか?」
「借りもあるしな」
「そうですか……。じゃあよろしくお願いします」
二匹の犬はどうしよう。敵の強さとか難易度の高さ、事の重大さとかそういうのを理解していないだろうからな。それにあの大きさだ、状況が悪くなったら敵の注目浴びるだろう。集中砲火を受ける危険性がある。
もう二匹とも充分に強い。俺たちがいなくてもこの森で生きていけるはず。
ゴマとハクは置いて行くか。
最後は……。
「ちょっとマグちゃんと話してくる」
引きこもりのマグちゃんだけだ。
「お~いマグちゃん。昼夜逆転するぞ~」
「なニ」
「俺たちはルゥ、マクレリアの手伝いをすることにした……」
「ヤダ」
「そうだな。俺も嫌だ。出来れば戦いたくない。相手が悪すぎる」
「違う。そうじゃナイ」
「ん?」
「マクレリアに死んで欲しくナイ」
「俺もそう思う」
「ファウストは、マクレリアを救エル。なんで救わナイ」
「本人の意思だからだ」
「だから殺すノ?」
「なぁマグちゃん。生物は選べるんだ。どう生きるか、それとどう死ぬかを。惨めな死に方ってのがある。可哀想な死に方も。不憫な生き方もある。どれを選ぶかは本人次第だ。俺はな、マグちゃん。ルゥとマクレリアを不憫だとか可哀想な奴だとは思わない。それどころか最高にカッコいいとすら思う」
「だからナに」
「もしマクレリアとルゥを愛しているのなら尊重しろ。彼らがなにを選択し、なにを大切にしているのかを」
「……」
「もう一度言うぞ、マグノリア。俺たちはルゥ、マクレリアの二人が安心して旅立てるように、デ・マウを仕留める。お前はどうする」
「わからナイ」
「かなり危ない戦いになるだろう。来たくないなら来なくていい。好きにしろ」
「どうすればイイ?」
「俺がマグちゃんだったら、まずマクレリアと仲直りしてくる。そして後悔しない道を選ぼうとするだろうな」
「後悔しナイ、道……」
「あぁ。マグちゃんが選べ。俺はマグちゃんがどんな選択をしたとしても応援する」
「……、うン」
さて、とりあえずこれでいいか。
まずはデ・マウの情報を集めないとな。あとデルアの戦力も知りたい。それに勝利の条件と敗北の条件をみんなと確認しておかないと。やることは山積みだ。
「情報取集をしたいのですが、デルアの……」
「あぁ~っ!!」
と、急に叫び出すマクレリア。
「どうしたんです?」
「いや、別にいいか。どうせ忘れてるだろうし」
「気になるじゃないですか」
「いま思い出したんだけど、あのね……」
マクレリアの話に入るまえに、不干渉地帯での俺たちの立場をはっきりさせておく。
まず俺とマンデイ。
死にかけていたところを主様に救われた。総領事から滞在を許可されたわけだから、ゲストということになる。
ヨキ、ゴマ、はもともと不干渉地帯の生物だ。ゴマはもちろんのことだが、ヨキもここにいた。領事館に例えるなら、ゴマはスタッフ、ヨキは領事館の庭の植物といったところだろう。どちらも滞在に許可がいらない。
リズベットは亡命者ということになる。立場は昔のルゥ、マクレリアと一緒だ。滞在の許可を出したのは俺。つまりリズベットはゲストの付き添いだ。
そしてハクとマグちゃんは、この土地で俺が生み出したもの、俺の所有物という扱い。
簡単に言うとマンデイ、リズ、ハク、マグは俺の庇護下にいることになるのだ。
そして……。
「一応ね、ゲストはここを出ていくまえにホストを楽しませなくちゃいけないの。滞在のお礼としてねぇ」
「楽しませるというのは」
「強さを示す。主様が救った生物が、救うという行為に適う生物だったという証明をしなくてはならない。つまり主様と戦わなくちゃいけないの。でもいいんだよ? しなくても。どうせ主様、忘れてるから」
「強さを示す利点は?」
「ほとんどない。不干渉地帯に自由に出入り出来るようになる、とか、君が庇護している生物もここで行動しやすくなるとかその程度なんだけどねぇ。まっ、ここがホームになるって感じだねぇ」
「それだけ聞くと有利そうですが」
「主様、忘れちゃうからねぇ。君が身内なんだってことも、戦ったこともね」
「あっなるほど」
「だからやる意味なし。ここを出入りする時も主様にばれないようにコソッとすればいいんだよぉ」
「そうですね。その程度のメリットであのバカでかい鳥と戦うのって頭悪いですよね」
「そうだねぇ」
「僕は誰よりも安全を愛する男ですからね」
「だねぇ」
翌日。
「ねぇ本当にいいの?」
と、マクレリア。
ダメだよ。
久しぶりだな主様。できれば二度と会いたくなかったよ。
「しょうがない。やりましょう」
話は昨晩に戻る。
主様とは戦わないと決めた後、マグちゃんがリビングに出てきた。そして。
――まだ、マクレリアを許したわけじゃナイ。でも、私も戦ウ。
と、言った。
――そっか。それは助かるよぉ。
と、マクレリアがマグちゃんを抱く。態度はまだどこかツンツンしているマグちゃんだが、触覚を見れば喜んでいるのがわかる。良い光景だった。
みんな仲良しの方がいい。そうだろ?
それから俺たちは今後の話をした。デ・マウをどう仕留めるかについて。
情報収集のために誰かがデルアの首都、シャム・ドゥマルトに侵入しようという話が出た。俺たちにはデルア、デ・マウに関する知識がなさすぎる。いまこの状態で戦うのは分が悪い。
デルアは国宝である魔道具【ブルジャックの瞳】、というアイテムを保有しているらしい。
これはターゲットを二名まで選択でき、選ばれた人間がどこでなにをしているのかを正確に把握できるというものだ。ただターゲットにするまでが難しく、その人物がどこにいるかを正しく指定しないと発動しない。
元々ターゲットはルゥとマクレリアだったが、いまはたぶん、そのうちの一つが俺に向いてる。デルアの追っ手が俺の居場所を正確に把握して追跡してきたのは、つまりそういうことだ。
だから潜入するとしたらヨキかリズベット、マンデイ、この辺りになる。【ブルジャックの瞳】に捕捉されている可能性がある俺、一応マクレリアも却下。ラピット・フライのマグちゃんは目立ちすぎるし、身体的に問題のあるルゥも無理。
出来れば俺も行きたいが……。
そんなことを考えてる時に、ふとヨキが、
――やはり、ケジメはつけとくべきじゃないのか?
とか言い出した。デ・マウとの決着がついたら、そのまま不干渉地帯に戻らないかもしれないのだ。これが主様との今生の別れになるかもしれない。
だが俺としてはそうなってくれても一向に構わなかった。だって考えてもみてくれ。トラックサイズの鳥を相手に、お別れの挨拶と称した命のやりとりをしなくてはならないのだ。熊を一撃でノックアウトしちゃうような生物と。
やりたい? 俺はやりたくない。
――いやぁ、どうでしょうねぇ。
なんて誤魔化してたら、さっきまで引きこもってたマグちゃんが。
――ナンの話?
と、話に入ってきた。
すると、おバカなマンデイとヨキが親切にも説明してあげる。そしてマグちゃん。
――逃げルノ?
こう来た。
――いや、逃げるとかそういんじゃないよマグちゃん。俺たちにはデカい仕事が控えてるだろ? ここで主様と戦ってケガでもしたら本末転倒じゃないか? そう思わないか?
――主様ガ忘れチャウのヲ利用しテ、逃げルノ?
――だからぁ、そうじゃないって言ってるだろ。
さて、どうするか。
さっき人生の格言的なことを言ったばっかだし、カッコ悪いところは見せたくない。といって主様と戦うなんて嫌だ。絶対に。
俺は一人葛藤していた。すると、マンデイから助け舟が。
――ファウストはそういう人間。勝てない相手とは戦わない。いままでも、そうやって生きてきた。
その通りだけどね。でも、そうやって言葉にされると傷つくから止めて欲しいな。
――へェ。
流し目で俺を見てくるマグちゃん。ここでやらなくちゃ威厳をなくしそうな気がする。さっきの格言じみた言葉もティッシュ並のペラッペラの説得力になってしまう。
――ま、まぁ勝てないこともないんだけどね。
どうしてそんな強がりを言ったのかはわからない。ただ言った瞬間に猛烈に後悔した。
――勝てルノ?
と、マグちゃん。半信半疑といった様子。
――当然だろ? 俺は代表者だぞ?
――じゃあ戦ったラ?
――だから怪我をしたらどうするんだよ。デ・マウと戦わなくちゃいけないのに。
――へェ、ソウ。
マグちゃんはゴミ貯めに向けるような視線。背中に流れる汗。
――あっ、こんなところに汚れが。
マクレリアは、この話題を振ったことに負い目を感じているのだろう、一心にテーブルを拭いてる。
マンデイがまっすぐに俺を見ていて、ヨキは腕を組んで背もたれに寄りかかりながら冷たい視線を向けている。リズは苦々しい顔で俺をみつめている。
それから先のことはよく憶えていない。
はっきりしていることは一つ。
俺は戦闘用フライングスーツ【鷹】に袖を通して、遠近感覚が狂いそうなほどの巨躯をもつ鳥と正対している、ということだ。
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