第6話 産廃
体が改造のダメージから回復してしばらく経った。
どれくらいの時間が経ったのかは、あいかわらずわからん。というのも、この世界の時間経過や曜日を把握するのは非常に難しいのだ。
それはなぜか。
どうせ暇だから説明してあげよう。
この世界、一日の長さが毎日違うのだ。
なぜそんな不思議現象が起こるのか見当もつかないが、極端に短い一日があり、その翌日は異様に長かったりした。
空の観察をはじめた頃は、もしかして眠っている間に体感以上の時が過ぎたのかと考えてみたりしたが、どう考えても納得できないような経験を何度もしたのだ。
そしてある日、発見した。
この世界には、まえの世界で太陽と呼んでいたものがいくつかある、と。
朝、目が覚めてなんとなく空を眺めていると、大きさの違う二つの太陽がさも当然のように空に浮かんでいた。
この世界の常識は、かつての世界の斜め上をいっているようだ。
太陽は少なくとも二つ以上は存在しているように思う。軌道やサイズ、色が微妙に違っていたりするのだ。で、不思議なのは、気が滅入るくらいに昼が長い日も、すぐに終わってしまう短い日も、眠る間もないほど短い夜も、永遠に続いているかのように錯覚してしまいそうな静かな夜も、たいして気温が違わないこと。
なぜだろう。
そう思っても、誰も答えてはくれない。尋ねようにも、舌がうまく動かないから喋れない。
寂しい、と思った。
管理者と話しがしたい。
いまならあのわかりずらい単語のチョイスも、壊れた音源みたいな繰り返しも、まったく苦にならないだろう。
荒野に吹く│
彼女が再び現れたのは再会をなかば諦めていた頃だった。
その間の特筆すべきことは俺の首が座ったことと、母のもっている獣の耳やシッポといった特徴が、俺の体にまったくないということを発見したことぐらいじゃないだろうか。
前者に関しては動きやすくなってよかったなぁ、という位の感想しかない。
後者はずっと疑問だった。どうして俺に母とおなじような身体的特徴がないのだろう、と。もしかして俺って拾われた子? でも最初の記憶は確かに病院的な場所だったしなぁ。
ある日、暇潰しにひとり考えていた。
すると。
――同じ、ファクターをもつ、個体、の、交配は、可能。
と、聞こえてきたわけだ。なんの前置きもなく。
――個体、は、ファクターを分裂、させ、結合、させる。種族的な、特徴、は、
ちょっとまて落ち着け。
――なに。
尋ねたいことがある。
――なに。
いままでどこにいた。
――エネルギー、が不足、して、いた。
そうか。寂しかったよ。
――私、は休止し、ていた、から、寂し、くは、なかった。
ゆっくり休めたか?
――本格的、な休止、はいまから。
まじか。それはまたあれだな。寂しいよ。
――私たち、は、友達、だから、離れると、寂し、い。そう?
そうだな。その通りだ。だが疲れているのに無理に付き合えとは言わない。
――どちら、にし、ろ、できない。でも、あなた、が、寂し、くないよう、な、弥縫的、な手段、を、用いる、こと、はでき、る。
なに的だって?
――弥縫的。
うん、きこえてはいるんだ。
――弥縫的。
わかった。ビホウ的な。うん。それで?
――あなた、に、干渉、する。
よくわからないけど、改造みたいな経験をしたくはないぞ。
――痛み、は、ない。
じゃあ頼むよ。なんだかんだで俺はお前のことが好きみたいなんだ。
――私、も、好ましい、と考え、ている。友達、だか、ら。
友達な。そうかも。
――かも、じゃ、ない。
友達だよ。断言する。
――うん。まだ、私、は、あなたの問い、に答え、て、いな、い。
ん?
――共通、するファクター、を有す、る、個体、同士、なら、交配、できる。
あぁ、それな。
――生物、は、共有す、る、部分、の遺伝子、を分化、させ、それ以外、の要素、を上乗せ、して交わ、る。ホモサピエンス、の雄、と、金狐人、である、雌、の、ヒューマンファクター、が、分化、し結合、雌、の金狐人、の要素、は、受精、の段階、で切、り離さ、れホモサピエンス、の因子、のみ、が、ヒューマンファクター、と結合、した、のが、あなた、の基本、情報、に、なる。交配、による、分化、は、いくつか、の生物を除、き、三つ、に分化、する。
ありがとう。よくわかった。
――わかって、いな、い。
何億回きいても理解できそうにないから、もう言わなくていい。わからない方がいいこともあるんだ。
――なぜ。
そっちの方がロマンチックだろう。
――生物、は、共有す、る、部分、の遺伝子、を分化、さ
いや、マジでもういいから。お腹いっぱい。わからないことがわかっただけで幸せだ。
――ん?
いや理解しないままでいいですそれを聞き続けたらノイローゼになりそうですお願いしますやめてください。
――やめ、る。
助かる。
――創造する力、は、使っ、て、おいた、方、がいい。再構成、され、た時点、であなた、の、体、は、この世界、に、順応、でき、るように、変化、して、いる。能力、の効率、や、エネルギー、の貯蔵量は、使う、ほど、に、強化、され、る。あなた、の、救い、に、なる。
わかった。そうする。で、どうやって使えばいいんだ。
――あなた、の、体、が、知って、いる。必要で、ある、と、強く、念じ、る。
それだけ?
――それ、だけ。明確、な、イメージ、が、ない、と、ロス、が、多い。使い、すぎ、る、と、酩酊状態、になる。
改造みたいな?
――おなじ、症状、である、けど、深刻、で、はな、い。
とりあえず、一回試してみるよ。
――もう、時間、がな、い。私、は、休止、する。
色々とありがとう。改造の苦しみに関しては少し恨んでいるけど、それ以外は本当に助けになった。
――あなた、が、助かる、と、私、は、喜ば、しい。
友達だからな。
――友達、だ、から。
そうして、彼女は再び沈黙した。
ちなみに、この会話を終えた後、軽い頭痛がした。これが干渉なのだろうと思っていると、体がだるくなってきた。すごく、だるくなった。
周囲の大人が騒ぎ出す。耳に入ってきた情報をまとめると、どうやら俺は笑えないくらいの高熱を出していたらしい。
痛み、は、ない。
確かに痛みはないよな。嘘はついていない。
とはいえ、約束してしまったものだからしょうがないと解熱するのをまって、創造する力なるものを使ってみた。
なにを造るかを考えよう。
というより、なにが造れるのだろう。
将来的に魔王的なヤバめの奴を倒すわけだから、聖剣みたいなのを造ってもいいかもしれない。だが、いまこのタイミングで創造したとして、赤子の体で使えるはずもない。あるいは成長の能力で早めに成熟するかもしれないが、だとしてもまだまだ先のことだろう。
なにがいいかな。どうしよう。まったくアイデアが浮かばない。
散々考えた末、布を造ることにした。というより食べ物を造ろうとしたのだが、まったく反応しなかった。
次いで水を造ろうとしたが、これまた反応なし。やり方が間違っているのか飲食に関係するものを造れないのかは不明だが、とにかく出来なかった。
で、布である。
魔王的なのと戦うまえに、魔王軍的なファンタジー感満載の奴らと胸躍る戦闘が繰り広げられるかもしれないのだ。防御力の底上げをした方がいいだろう。
例えここが前世と違った法則で動いていたとしても、死んだらそこで終わってしまうはずだ。まず生き残らなければならない。強い布があれば動きの邪魔にもならなそうだし、デザインの幅も広がりそうだ。
俺は強く念じた。頑強で破れなくて、熱や冷気の対策もできて、軽くて通気性のよい布を。しばらくそうしていると、掌がポーっと熱くなってきた。
おぉ、これが異世界の力かと感動しながら、より強く念じる。体からガンガンと力が流れていくような感覚がある。
フルで能力を使ったのだ。それなりのものが完成しているだろうと、失いそうな意識を必死に繋ぎ止めながら、指をひらいてみると、そこには細い糸があった。
一センチにも満たない黒い糸だ。
おぉ、神よ。
俺は、そのまま眠ってしまった。
おはよう。
どうせ管理者は眠っているだろうし、少しぐらい罵声をはいても大丈夫だろう。
アホバカ間抜けのアンポンタン。
例え友達同士でも常に好ましい感情のラリーが続くはずなんてないんだ。嵐の日があって、日照りがあるんだ。友情というものはそうやって培われるんだ。だからもう一度言う。アホめ!
とんだ産廃をつかまされたもんだ。
数ミリの糸を使うのにすべての力を使ってしまう? それってマジ? マジ、で、す。あいつなら言いそうだ。やかましいわ!
クソが。
これじゃあ俺が魔王と戦うまえに、他の世界の勇者が魔王軍とか悪い奴らを皆シバきまわして平和な世界になってしまうぞ! こんなペースで創造していたらタンクトップと短パンで魔王と戦う、なんてことになりかねない。いいのか? 銅像なんて建てられたらどうする。ファウスト・アスナ・レイブは勇敢にもタンクトップと短パンのみでこの世界を救いました。きっと暑がりだったのでしょうね。だからこの銅像には氷をお供えしましょう。きっと涼しくて勇者ファウストも心地よいことでしょう。ってバカ。バカ。
どうしよう。なんてこった。
そうだ! 布とシナジーが悪いのかもしれない。他のものなら造れるかも。
俺ってどうしようもないな。ごめんな管理者、産廃とか言って。食べ物だって無理だったじゃないか。きっと布とも相性が悪かったのさ。
よし。気を取り直して、今度は聖剣を造ってみよう。剣=勇者、勇者=剣みたいなことあるしな。造れないことはないだろう。
よし、俺が大きくなったら、それを使って無双するんだ。悪魔だろうが神だろうが魔王だろうが竜だろうが問題にならないくらい強いやつを造ればいい。空間そのものを切断するみたいな、そういうチートじみたやつがいいな。他の人が握っても反応しないけど、俺が使うときは光る的な、選ばれた者のためにしか力を使わないみたいな特徴も欲しい。
俺はさっきとおなじ要領で強く念じてみた。最大限に力を流して。
嫌な予感はしていた。だって重さを全く感じないんだもの。
掌の上には砂鉄サイズの金属がチョコンと乗っていた。
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