第21話
「今日は、なにもありませんでした」
真由美がうなだれている。孝光はさっぱり意味がわからなかった。彼女はときどき突拍子もないしゃべりをする。
「そんな毎日なにかないとおもうけれど……」
孝光としては思ったままを答えるしかなかった。「真由美ちゃんはそんなに毎日なにかあるの?」
「孝光くんに聞いてほしいような出来事がなかったんだよね」
「いや、なんでも聞くけど」
「なるべく、こう、たかむつくんに」
言い間違えた。それを指摘していいのだろうか。孝光は瞬時に結論を出す。このままでいい。
「孝光くんに印象的な話をしたいんだよね」
真由美は言い直した。言い間違いをわかっているようだ。
「なんか、意識高いよね」
孝光は真由美が自分への話題を意識して用意している姿勢を褒めたつもりだった。
「えっ」
「あれ?」
「褒められてないなー」
真由美は口をとがらせる。
「ああ、意識高いって、いつのまにか誉め言葉じゃなくなったよね」
「うーん、いい意味で、みたいな感じ」
「あー、わかるなぁ。わざわざ褒める言葉に言い換えてるけれど、本当にいいたいのはそれじゃない感じ」
「孝光くん、それを自分で言ったらだめじゃん」
「あー、さっきの意識高いはほんとに誉め言葉。僕は真由美ちゃんに話したいことを用意してないな、と思って」
「聞いてほしいことって、いっぱいあるはずなんだけどねぇー」
うがー、と真由美は両手を挙げた。右手の鞄が勢いよく揺れた。
「それはわかるなー。たぶん、僕も真由美ちゃんに聞いてほしいことと、聞きたいことがあるはずなんだよね」
真由美がゆっくり両手を下ろした。
そして下を見ると、小声で言う。
「孝光くんが、私に聞きたいことを聞きたい」
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