第18話

 夏休みが終わって最初の日。8月最後の月曜日なので、夏休みが終わっても夏は終わっていない日だった。

「まだ夏だよね」

「だよねぇ」

 解せない孝光に真由美が軽い声で答えた。孝光には夏休みが8月中に終わるのも解せなければ、初日から6限授業なのも解せなかった。

「中学は違ったの?」

「中学は9月からだったなぁ。初日も行事だけだったし」

 中学を思い返しながら、孝光は空を見上げた。夕日になろうとしている最後の全力の輝きの太陽がいた。雲一つない空は、太陽をより強く見せるための舞台のようだった。

「私は中学からこうだった」

「そういう学校があるのは知ってた」

「今日の教室でも、8月から学校なんて~、と言ってる人たちがほとんどだったんだよ」

 何の話題が始まったのかと、真由美を見る。

「だから、そうかー、そうだよなー、とわかったんですよ」

 こういう時は静かに聞く姿勢が大切だ。真由美はここまでに今から話す内容を準備して、心の中で練習してきたと知っているからだ。

「夏休みだけ夏が終わると終わりじゃないですか。春休みも、冬休みも、終わっても春だし、まだぜんぜん冬なの不思議じゃない?」

「あー、そうだね」

「暑いから夏休みだけ特別、だとすると、冬休みも同じくらい特別だし、春なんて心地いいから休みが必要ないじゃん」

「うーん。僕は春休みが特別長いほうがうれしいかな……」

「だから8月中に夏休みが終わっても不思議じゃなかった」

「不思議……」

「そう、みんな不思議そうなんだよねー。不思議なんだけど。そう、大勢、みんな」

「僕もその中の一人だけ」「それで気づいたんだけど、私と同じ中学校の人がいないんじゃないかな、と」

 孝光が「だけど」と言い損ねるくらいに真由美が言葉を継いできた。

「えっ、今気づくの?」

「そう、今気づいたの。なんかすっごい不思議だった。全然気にならなかったんだよ」

「僕はクラスに5人くらいいたからなぁ……」

「気づかなかったし、気にならなかったんだよ。孝光くんが私を見つけてくれたから」

 そう言って、真由美はすこし下を見て、小さく息をつき、顔をあげ、横の孝光を見た。

「孝光くんが私を見つけてくれたからだよ」

 それは、とてもとても大きな決心を込めた声だった。

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