第17話

 昨日は10月31日だった。だから今日は11月1日だ。

「おまたせ、おまたせ」

「寒いねぇ、孝光くん」

 孝光はいつもより教室を出るのが遅れたため、小走りに校門を目指した。真由美のそばにつくと、膝に手をつき息を整える。

「寒い、よね、ごめん」

「あ、寒い中待ってたよ、って意味じゃないからね」

 真由美は白い手袋をつけた手を振る。

「11月になったら急に寒く思えるなって。気分で手袋をつけちゃった」

 その白い手袋を目で追う。見慣れたはずの小さな手だったが、手袋も小さくかわいらしい。孝光にはよりそう見えた。そして膝についた自分の武骨な手を見やる。

「昨日までハロウィンだったのに、今日からクリスマスになってるのも、寒いよねー」

 駅前商店街はすでにクリスマスの雰囲気に入れ替わっていた。確かに昨日まではハロウィンの雰囲気だった。

 クリスマス、か……。

 今まで意識しなかったイベントだ。クリスマスはなんとなく、大人のもので、恋愛がらみのイベントで、どちらも中学生の孝光には縁遠かった。

 それが今年はどうした。当事者だと認識せざるを得ない。春から今日まで、それっぽいイベントはいくつもいくつも体験したが、クリスマスはとびっきり特別なイベントに思えた。

「こういう時、うまく言えないのは残念なんだけど」

 真由美が言葉続ける。孝光の返事を待たない。

「クリスマス、だよね」

 声でわかるが、彼女を見た。小さい手袋で顔を覆っているが、真っ赤なのは隠せていない。真由美は肌の色が薄いから、赤面が目立つのだ。

「うん、僕も今、それを思ってた」

 真由美は照れると、孝光の返事を待たずにしゃべりつづける。付き合い続けてそれがわかった。だから、ここで一言返さないと、彼女はまだまだしゃべり続けるだろう。

「どうしよっかね」

 と、真由美に丸投げしてしまった。これは彼女がしゃべり続ける理由を作るため。孝光だって考えていないわけでもない。

「うん、あのね」

 それを聞きながら、駅まで歩く。クリスマスの雰囲気の商店街を抜けて、駅まで歩くのだ。すこしづつクリスマスを楽しむ準備を進めるために。

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