第16話

「うん?」

 孝光は靴に違和感を感じた。おそらく小石が入ったようだった。

「どうした、孝光くん」

 真由美とふたりで立ち止まる。

「小石が」

 孝光は左の靴を脱ぐと逆さにした。

「革靴って小石が入りやすいよね」と真由美。

「そうなんだよね。革靴は歩きやすいわけでもないし、通学以外じゃ履かないなぁ」

「スニーカーはさすが。靴の正解」

 真由美は青いスニーカーだ。

「孝光くんもスニーカーにすればいいのに」

「中学がそれだったから、高校は革靴にしようかと」

「私と逆だね」

 靴をなんどか降ってみてから履いた。石が落ちた音はしなかったから、歩いてみないとわからない。

「中学が革靴だったの」

「……そう」

 歩き出す。靴に違和感はない。しかし、今は小石以上に真由美の語調が気になった。以前から気づいていたが、彼女は中学生時代の話をあまりしない。今も、しくじったな、と思える雰囲気を出している。

「そうかー、じゃあ、高校はスニーカーでいいね」

 孝光は今の話に切り替える。

「うん、そうだね。歩きやすいし」

 背の低い真由美は足も小さい。中学時代はいまより小さいはずだから、ますます革靴は歩きづらかっただろう。

「そのスニーカーを選んだ理由はあるの?」

「一番青かった」

 はっきりと機嫌のいい声にもどった。孝光は安心する。気づける範囲で、いや、それ以上に彼女の気持ちを察したいし、大切にしたい。

 スニーカーの名の通り、足音は小さく、小さな青は小気味よく動く。

「毎日楽しそうに歩くのはそれかぁ」

「……それは、それじゃなくて、孝光くんと一緒、だからだよ?」

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