第14話

「涼しくなったねぇ」

 真由美の髪を照らす日差しも、10月上旬ともなると夏とは違いやさしくなでるように見えた。彼女が歩くと、丁寧にそろえられたショートボブが揺れ、それにあわせて日の光も滑っていた。

「夏があったって忘れちゃうなぁ」

「過ぎると忘れちゃうねぇ」

 夏休みが明けてすぐの9月は、ときどき思い出したように暑い日もあったのだが、すでにそれもない。同じ太陽なのに光は優しく、日は短くなり、夏を名残惜しく感じられた。

「夏がつらすぎて、こう快適だと、ぼーっとしちゃうね」

「あはは、わかるわかる。でも、2学期は行事が多いし、ぼーっともしてられないね」

「今年は文化祭があるのかー」

 ふたりの通う高校では文化祭は3年に1度の開催だ。体育祭、文化祭、遠足をそれぞれ3年に1度2学期に実施する。

「そうでもしないと詰め込みすぎでしょ、2学期」

 真由美は歓迎のようだった。孝光はそれぞれの行事が最初で最後だと思えてちょっと寂しかった。彼女がいるからかもしれない。いや、そうだった。

「真由美ちゃんといろいろ楽しみたかったなあ」

「すぐそういうこちょ言う!」

 いつもどおり言い損なうのも含めてかわいい彼女だった。孝光は短く笑って返す。

「とはいえ、正直言うと文化祭は毎年しなくてもとは思うけどね」

「私は体育祭だなー。とてもじゃないけど祭りだとは思えないね」

「真由美ちゃん、運動神経いいほうじゃん」

 駅までの道ではなにかと失態がおおい真由美ではあるが、何を隠そう運動神経はよく、成績からすれば優れている部類だった。

「得意だから好きなわけでもないけど……。走るのは好きだなぁ」

 孝光は真由美の青いスニーカーを思い出す。あれで速く走れば気持ちよさそうだった。

「体育祭とは言うけれど、走ってばっかりだもんね、あれ」

「そうそう。走る競技ばっかりだよね。不思議。それで体育祭を名乗っていいのか」

 男子にとっては祭りだよなー……。

「と、孝光くん思った?」

「そういうのほんとやめて」

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