第12話

 あふ、と真由美があくびをした。秋の夕暮れだった。あれほど厳しかった夏は遠くなり、あっというまに秋に入れ替わった。睡眠とはこれほど楽しいものなのかと思い出す日々だった。

「眠いよね」

 孝光はつられてあくびをした。「どんだけ寝ても、まだ眠い」

「それもあるし、最近はちょっと夜更かししてるしで」

「そりゃ寝ないと」

 孝光はもう一度あくびをする。彼女の夜更かしの理由は聞かない。

「寝たいんだけどねぇ」

 真由美はもう一度あくびをした。話す内容もなんだか間抜けで、とにかく眠いのだと思えた。

「授業中は寝てたの?」

「全然眠くないんだよね」

「……変わってるなぁ」

 孝光は教科によって眠くなる。英表現は眠くて仕方がなかった。興味が持てないのだ。

「うーん、そうかな……」

「授業中って、あたりまえだけど、静かじゃない?」

「そうなんだけどね。静かな中で寝ると目立つと思わない?」

「ああ、それはある」

「緊張しちゃうよね」

「眠いんじゃん」

「眠くないんだけど、緊張するんだよー」

 と、いう彼女はとびきり眠そうだ。話す言葉もますます間抜けになってきたような気がするし……。

「寝ながら歩ければなぁ」

 言いながら、真由美が目を閉じた。長い瞬きのように。

「え?! 寝ちゃったの?!」

 寄りかかってきた真由美を抱きとめる。その軽さ、細さ、柔らかさがまとまって孝光の腕の中にあった。

「ほんとに寝てる……。どうしようか……」

 これは夢じゃないのかな。僕の夢の中。

 そう思ってみたものの、やっぱり秋の夕暮れだった。

 真由美のちいさい寝息が聞こえる。

「よいしょ」

 なんとか背負う。とりあえず学校に戻るか。初めてだな、こんなの。いいのかな……。

 起きたら、なにがそんなに眠いのかだけは聞いてみようと決めたのだった。

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