第10話

「雨が続くね」

 孝光が真由美を見た。今日は白い傘だ。雨が3日続いている。真由美は毎日傘を変えている。明日も変えるのだろうか。

「夏が終わったらすぐに長雨になっちゃったね」

 真由美が傘を上げ、その顔を見せる。小さな丸い輪郭と、あごのラインにそろえた波うつ髪が印象的だ。髪が波打つのはくせっけらしい。そんなかわいいくせっけがあるのか、と孝光は驚いたものだ。

 彼女の動きに合わせて揺れるその髪もこの雨でますますくせっけらしさを強調してきている。

「雨で髪が重いんだよねぇ」

「変わるの?」

「変わる変わる。ものすっごい変わるよ」

「……そうは見えないけど」

 かわいいよ、と言いかけた。

「朝のうちにすっごく乾かすんだよー。それでも学校に着くころにはおもーくなってる」

「大変だ」

「ほんとだよ、この重みでちっさくなったらどうしてくれるんだ」

「あはは」

「孝光くんは小さくなる心配をした経験がないね?」

「あー、そうだね。いつまで伸びるのかしか心配してないなぁ」

「現在形……。うう、そうなんだよねー。もっと背が伸びると思うじゃんかねー。伸びてた頃の記憶がないよ」

「……そんなに」

 まさか、夏休みがあけたらまだ伸びてた、とは言えなかった。本当にいつか止まるのだろうか。

「こうして、傘で雨をうけてるだけで縮むような気がするもん」

 と、すこし拗ねて見せた。

「孝光くんはまた伸びたね」

「えっ」

「わかるんよ。ふっふっふ」

 真由美は肩を揺らして笑う。孝光は答えに困ってしまう。

「……孝光くんを見るときに、ちょっと、角度が増えたんだよ」

 孝光は、真由美を見るときに距離が開いたようには感じなかった。

「私がね、孝光くんを見るときは、いろいろ感じてるんだよ。そのいろいろのひとつ」

 真由美が傘で姿を隠した。小さな音を立てて、雨粒が傘にあたり、はねて、すべっていく。

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