第9話

 おなかすいたな……。

 孝光は、真由美を待ちながら空を見てそう思う。高校生初めての期末テストが終わり、返却もおわり、補習も追試もなかった。後は夏休みを待つばかりとなった。

 何もせずとも育ち盛り。息をする、立っているだけで、理由なく腹が減る。

 運動部だったら理由もあるか。

 そう自問自答し、雲を目で追う孝光だった。

 夏休みが近いといっても、最終日まで授業はいつもどおり。今日も放課後には部活の掛け声が聞こえる。校庭は潤沢な土地を使い切る大きさで、今孝光がいる校門からは校舎を挟んでその先に広がっている。

 体を動かせば、気にならないか……。

 孝光はそう思うものの、校門で制服姿のまま体操なり体を動かしだすのはおかしいぞ、と同時に思った。

 スマホを見て過ごせばいいのかもしれない。ただ落とすのが怖い。だいたいスマホを落とす人は、立って使っているからだ。

 そうすると、このまま、空を見上げるしかなかった。

 もう夏だった。期末テスト前まではずっとずっと雨で、その時は中間が終わったはずなのに、それはつまりすでに期末前なのだ、と雨の風景とともに沈鬱な気持ちになれた。当然のように梅雨が明けたら、期末テスト期間になる。そして気温は上がっていく。

 気を落としている間はなかった。

 単純に何もかもが不快だった。ぼんやりと不快だった。想像以上の高校生活だとわかっているが、理由はなく気持ちが悪かった。

 ただ、青空を見るのは心地よかった。真由美は孝光を校門で待ちながらかならず空を見ている。雨なら昇降口で空を見ている。

 いつもいつも空ばかり見ている。理由は聞いていない。

 空を見る彼女の姿勢はきれいだった。まるで、彼女はそれが自分をもっともきれいに孝光に見せる方法だと知っているかのようだった。

 僕の姿もきれいに見えればいいのになー。

 そう思う。

「孝光くん、そんなに空ばっかり見てると、身長がまだまだ伸びちゃうよ」

 真由美の声。

 彼女が空を見る理由がわかったが、ちょっと笑っただけにした。

「あと5センチは伸ばしたいからね」

「まだ必要なの?!」

 そう言って、彼女は笑った。

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