第8話
雨の日だった。孝光と真由美のふたりでならんで傘をさす。孝光の傘は黒く大きく、真由美は淡い灰色の折り畳み傘だった。
「ふふん」
真由美は楽しそうに小ぶりの傘をさす。雨は小降りで、傘で十分で、足元が汚れる心配はなさそうに思えた。
「朝は雲がなかったのにね」
「天気予報通りだよ」
「うん、そうなんだよね」
孝光は予報を信じて大きい傘を持ってきていた。下心はあった。自分の体が大きくても、真由美のかわいらしさとなら、ひとつの傘でも間に合うのではないかと。現実に確認してみると、やはり大きい傘であってもふたりでひとつは無理があったな、と結論付けた。
「真由美ちゃんは楽しそうだね」
「新しい傘なんですよね」
「へぇ。そりゃあ使えてよかったなぁ」
「……ひとりで使って楽しいわけじゃないですよ。ここ重要です」
相変わらず、すっ、と孝光に言葉が差し込まれる。急に中学から愛用しているこの傘じゃダメな気持ちになってきた。
「孝光くんの傘は、愛用の雰囲気ですな」
「ああ、うん。大きい傘ってそうそう買えないからね」
「そうかー。孝光くんだと傘も大きいんだよね。私だと折り畳みで十分なんだよね」
「傘だけで大荷物だから折り畳みで済むほうがよくない?」
「どうかな」
真由美が傘をたたむと、孝光と同じ傘に入ってきた。あわてて傘を真由美の上にかざす。
「うまくいきそうかな」
「うまくって」
「ふっふっふ。雨の日に、孝光くんの傘に入れてもらうのを楽しみにしてたんだよ」
「そうなの?!」
自分と同じ気持ちだったとわかって、なんだかとっても面はゆい。
「そうだよー。次の雨からは孝光くんから、さそってよね」
「小降りでしたら……」
新しい傘、これより大きい傘を買おうと決めた孝光だった。
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