第7話

「夜はなにかテレビ番組みる?」

 いつもの駅への帰り道。真由美が孝光を見上げながら聞いた。表情はなかった。最近わかりかてきたのだけれど、この表情は、必死にコントロールした結果なのだ。なにかを隠そうと必死になっている彼女の表情は、こうして無表情になるのだと気づくと、これまでに何度か見てきた同じ表情の意味が変わったように思った。怒ってるのでもなければ、退屈でもない。必死なのだ。

「見るつもりはないなぁ。真由美ちゃんはなんかみるの? ならそれを見るけど」

「映画をみようかと」

「ああ、アレね」

 今夜の映画は繰り返し、繰り返し、飽きるほどにテレビで流れている有名な邦画だった。孝光もなんども見た。

「うん」

「初めて見るの?」

「ううん。もう何度も見てる」

「えっ、それなら」

「できるなら、一緒に映画を見たいけど、それもできないから、一緒の映画を見たいなって思ったの」

 道路を見ながらそう言う。その表情は見えない。たぶん先ほどはその表情を一生懸命に隠していたのだろう。

「ああ、そういう……」

 孝光も地面を見てしまう。

「ラインしながら見れば、楽しめそうだよね」と慌てて付け加えて返事して、隣の真由美を見る。

「そう! そういうのやってみたいなって!」

 真っ赤な顔を隠さずに孝光を見た。

「今度の休みの日にさ、映画を見に行こうか……」

「えっ、あ、はい……」

「とりあえず、今夜は一緒に映画みようね」

「そっ、その言い方はっ……!」

 また真由美は地面を見た。

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