第4話

 ふたりで駅へとくだるだらだら坂をあるく夕暮れ。いつもの下校だった。

 いつからふたりで帰るのが「いつも」になったか、と思い返す日が来るのだろうか。孝光はそう思う。いつのまにか、いつもが増えてくのだろう。そうも思った。

 駅への道をふたりでとぎれとぎれに話しながら歩いてゆく。

 その中で、孝光の足音を追うように真由美のちいさな足音が続く。足音が並ばないな、と孝光は先週くらいに気づいていた。この坂は片道3車線の主要道路わきの歩道なので、車の騒音で彼女の小さい足音になかなか気づかなかったのかな、と反省したのも覚えている。

 それから毎日、真由美と遅い調子で会話のを楽しみながら、足音にも気を付けた。孝光が思うに、並んで歩いているのだから足音が揃いそうなのだが、真由美が急いで歩いているような足音のリズムになるのに気づいた。なるべく真由美のリズムに合わせようと遅く歩くと、彼女はそれより早いリズムで歩くのにも気づけた。

「歩くの速いかな?」

 孝光は大仰だとも思うが、ふたりの問題だからと決心して真由美に問うた。

「ん? そんなことないけど?」

「でも、中川さん結構急いで歩いてない?」

「歩幅が違うから当たり前じゃない?」

「ああ、そうか」

 遅く歩くのではなく、小さく歩く。それが答えだった。

「これくらいかな」

「そうそう。んでも、そうか、私はキミに並ぼうとしてたから早く歩いていたのか。考えてもなかったな」

「僕は遅く歩けばいいと思ってた」

「で、どうだね?」

「え?」

「今、キミは私と同じ歩幅、つまり、私の体と同じなわけだ」

「な?!」

「え?! あ、ああ、体が同じって言い方が、なんか、そうか、うん。どうだ?」

「なんで、理解して改めて同じ質問すんの?!」

「そりゃ、高校生だし。私も興味あるよ」

「歩幅ね。うーん。中川さんと同じ動きをしてるのかー」

「なんか、あっさり受け流したぞ。それもなー」

 ふたりの足音がそろって、駅へと向かう。

 たぶん、未来に今日を思い出すのは、足音がそろった日としてだろうなあ。

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