第3話
校門で待つ真由美の背中が見えた。今日はリュックサックだった。彼女は制定鞄だったり、リュックサックだったり、トートバッグだったりいろいろな鞄を使っている。校則はとくに規定はないのだが、だいたい制定鞄にいれっぱなしになるのに、彼女はその日、その日の気分で鞄を持ち替える。それを楽しんでいるようだった。孝光は、それをちょっとした、毎日を楽しく過ごすコツのように見ていた。彼女に憧れながらも自分はいつもいつも制定鞄だった。真由美の小さな生き方のコツは彼女用で、自分用ではないように思っていたからだった。
「おまたせ」
「んあ、おつかれ」
おそらく空を見ていた真由美が振り返った。以前に校門で待っている時になにをしているのか聞いたのだが、空を見ている、との答えだったし、実際空を見ているのだろう。それも周り、広くは地上には一切興味を持たず、空を見ているのだろう。なにか外からの刺激がないと一人で過ごせない孝光は、真由美の自律しているような人格が好みだったし、そのちょっとした一例として空を見る彼女の話は気に入っていた。
「暑くなりそうだ」
空をみた感想らしい。視線を孝光から空に戻し、また孝光を見た。そして歯を見せて笑う。その一往復の間になにが起こったのかは、彼女しか判らない。
「そうだね、うん」
真由美の横に立つと、同じように空を見た。
「孝光くんのほうが、私より空に近いんだから楽しみなよ?」
コツを教えるかのように彼女が言う。僕の身長は180で、彼女は142.8(重要とのこと)なので、身長をもとにした話題はいろいろある。
「日光が真由美ちゃんより先に当たるのは暑そうだなぁ」
「うまいうまい」
孝光の言い返しが気に入ったのか、彼を見上げてまた笑った。
「かえろっか」
と、真由美が孝光と手をつないだ。
「うわ」
「やっと地上に帰ってきたか。これじゃ手を離せられないな」
真由美の手の小ささに驚いた。ちいさくて、なめらかで、だから、滑り込むように孝光の手をとらえる。その真由美の手にいつも驚く。
「今日はこうしたかったんだよな」
今日はリュックサックを選んだ理由を説明された。
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