第2話

 今日は孝光が先に校門についた。

 真由美にLINEで「待ってる」と伝えると、すぐに横になったイカのスタンプが返ってきた。意味は判らなかった。イカナイカン? 彼女の返信なので無意味も多いのだが、それでも待つ間の短時間謎解きとしては好適だった。

 無意味だとしたら、単純に考えるなら、なぜにイカのスタンプなのだろう。孝光はそのイカのスタンプは初めて見た。すぐに返信されたのだから、スタンプの履歴から選ばれたと考えていい。つまり自分に向けて送信されたのが最後、最新ではない。誰かに送った履歴から自分に送られたのだ。そこにちょっと嫉妬があった。そしてあわてて胸にしまう。どうでもいいのに、価値を見出して、よくない方向に解釈しようとするのは闇だ。マンガでよく見る展開だから知っている。僕は詳しいんだ。

 たとえ無意味だとしても、既読がつけば届いたとわかるし、スタンプ送信を操作するより、はい、とでも返せば手早いはずだ。つまり、スタンプに意味はなくとも、スタンプを送りたい意味、意思はあるとなる。そして、スタンプはなんでもいいのか、それともたまたまイカだったから送信して差支えがない、真由美の意思とは外れないと判断したのだろう。

 そのスタンプをタッチすると、画面がストアに移動した。孝光はそのスタンプは買っていなかった。反射的に買おうとしたが、収録されているスタンプを眺めると使わないと信じられた。イカがいろいろな挨拶文とともにその体の柔らかさ、足を縦横無尽に文字に絡めている絵柄だ。先ほど返信さらたスタンプはその中にふたつだけある、文字のないイカのスタンプだった。ひとつは送信された横になったイカ、もう一つはさかさまになったイカだった。なるほど、使い道はさっぱりわからなかった。

 自分なら、このスタンプをいつ送るだろうか。

 逆立ちしたイカ。カイ? 意味不明のスタンプだと意味をつけて使うだろうか。よくよくスタンプを観察、その絵を読むと、イカの足のうち長い二本をついたまま逆立ちしたような絵柄だった。構造的に正しいのか判らない。また、逆立ちのスタンプはあるのに、普通に立っているスタンプがないのも意味不明だった。

 もう一つが今回の、横になったイカだ。横になったイカを横から見た絵だ。ひらべったく広がったイカが、これまた長い脚を1本を上に伸ばしている。なんだろう、臨終の間際になにかをつかもうと伸ばしたように見えるし、バイバイの挨拶を面倒くさそうにしているようにもみえる。なおバイバイのスタンプはあった。なるほど意味不明だ。

「おまたせ」

「うわぁつ!」

 突然の真由美の声に、孝光は変な声で返した。

「おっ、なんか見せられないものでも見てたかな?」

 なんの表情も読み取れない顔を向けてくる。孝光は彼女と目を合わせ、真由美は孝光を見上げたまま止まった。

「真由美ちゃんからのスタンプの意味を考えてた」

「イカリョーカイ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る