第7話エピローグ
オナキンたちがいなくなって数か月が経った。最初はうるさい日常がなくなって少し寂しく思ったけど、徐々に彼らがいない現実にも慣れた、
談合していた大路ヌシとレジスタンス・コーポレーションは捕まり、僕たちの町の再開発の話はたち消えた。
「お母さんカッコよかったよ」
「あらあら嬉しいわね」
「お父さんもやるときはやるじゃん」
「少しは見直してくれたか」
「ハナも、ありがとう」
普段言えないでいた感謝の言葉が自然と出た。
いつもは適当で、甘えたで、雑な家族としか思ってなかったけど意外と頼りになる。そんなことに気づけた。
初恋のリナちゃんに思いを告げられなかったのは残念だけど彼女が家族と幸せそうならいい。
ルークくんとも友達になれたのにもうお別れだというのは寂しかったけれど。
結局彼らがもたらしたものはなんだったのだろうか。
宇宙からやってきた彼らは無事に生きているのだろうか。
「で、ケン。ちょっと相談なんだけど」
お母さんが自称可愛い声で、お父さんがいつもの情けない声で僕に話しかけてくる。
「明日飲み会で、お母さんご飯作れなくて」
「お父さんも仕事があって遅くなりそうかも」
「……」
二人してカッコよかったのも一瞬で。日常を取り戻すとともにいつもの適当な態度に戻っていった。
「もうお母さんとお父さんを尊敬しかけた僕がバカだった」
膨れっ面で文句を言うとごめんと笑いながら謝られる。
「でもお兄ちゃんも変わったよね」
「そう? 」
妹のハナに指摘される。
「いつも黙ってて、溜まりにたまったものを爆発させるタイプだったから」
こうして拗ねたり、怒ったりする姿もいいよねと笑われる。
「僕は拗ねてはいないけどね」
「素直じゃないなあ」
そうして二人して顔を合わせて笑う。
オナキンたちがやってきたことで僕も成長できたのだろうか。
「じゃあ、そろそろ仕事に行ってきます」
「そういえばお母さんの口座にホームステイの謝礼金が振り込まれていたから、ケンにはご褒美買ってあげるね」
「ええお兄ちゃんばっかり狡い」
やっぱり妹のハナも変わらずわがままだった。
「しょうがないわね、ハナにも何か買ってあげるわよ」
お母さんも何買おうかなと笑っている。
「お父さんの分は? 」
「ノンアルから発泡酒に昇格ね」
「それって前と変わらないような」
お父さんはしょんぼりしている。少し可哀そうだけど食費がかさんだのは事実だ。
「まあお酒を飲める喜びをかみしめることにするよ」
朝は忙しい。
みんなで話しているとあっという間だ。
僕たちは急いで身支度を整えると玄関で互いの顔を見る。
「じゃあ行ってらっしゃい」
「行ってきます」
これから学校に行っていつもみたいに勉強して友達と遊んで普通の日常が戻ってくる。オナキンたちとの思い出を胸に。
「ねえお兄ちゃん、三通手紙が来ているよ。外国語だから読めないけど」
妹のハナが郵便受けから二枚のハガキと一通の手紙を取り出す。
僕はまず手紙を見る。
そこにはきれいな文字が記されていた。
ただフランス語だから僕の語学力では理解しきれない。
でも最後の方にひらがなでありがとうと慣れないながらも書いてくれたのが嬉しかった。
一枚目のハガキは宇宙の写真を背景に一言添えられているだけだった。
みんな元気にやっていますと。
最後のハガキを見る前にハナが何かに気づいたように声をかけてきた。
「ねえこれってもしかして」
「まさかな」
僕は笑ってハナの頭を撫でる。
「ちょっと子ども扱いしないでよ。怒るよ」
むすっとしているのは照れ隠しか。
「早く学校行かないと遅刻するよ」
ちょっと気分が上がって僕たちは駆け出す。
「あらあらケンくんとハナちゃん仲良しね」
「別にフツーです」
近所の人たちが兄妹並んでいるのがほほえましいのか楽しそうに笑っている。
気難しい年ごろのハナは少しだけ気恥ずかしそうだ。
「そういえばこの近所に新しい家族が引っ越してくるそうだって」
お父さんと双子の兄妹の三人家族だそうだ。
「転校してくるらしいから二人も仲良くしてあげてね」
そう言われて僕たちは思わず笑ってしまった。
「わかってますよ。行ってきます」
手を振りながらいつもの通学路を急いで歩く。
待ち人は来るそうだ。
そんな期待を胸に。
「みんな、転校生が二人来たよ」
双子の兄妹が全校生徒の前で紹介される。
でもその前に、僕は三枚目のハガキを取り出す。
「ケン、短い間だったけどありがとう。仕事も見つかったので今度顔出します」
時間がなかったのだろう。汚い文字だった。
それが彼らしくて僕は笑っていた。
親友だとそう言ってくれた、少し騒がしくて自意識過剰で仲間思いで、僕たちが大好きな友人に。
ファミリーウォーズ 野暮天 @yaboten
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