第3話
時代は宇宙戦争までさかのぼる。オナキンは幼いながらも戦士としての才能を開花させ前線で戦っていた。
「なんか時代がかりすぎていない? 」
「いいんだよ。そっちの方が雰囲気出るだろう」
最初のうちは順調だった。オナキンも愛する人と結ばれ双子が生まれた。
「ん? なんかおかしくない。オナキンまだ子供でしょう」
「これはかりそめの姿だ」
突っ込みどころとかコンプライアンスとかいろいろ問題があったけどスルーすることにした。
「だがな奥さんが不慮の事故、いや事件で亡くなり俺は闇の勢力と手を結ぶことになった。それで俺は闇落ちしたんだ」
自分で闇落ちとか言ってしまうあたり結構酔ってんな。いやそこは問題じゃない。
「生まれた双子の片割れはルークってことだよね」
「ああ、英語でぬるいという意味のルーク・ウォームだ」
どういう経緯でつけたのかわからないけどセンスが微妙すぎる。キラキラネームとは対極にいる。
「熱くなることも大事、冷静でいることも大事、そんな気持ちを込めてつけた名前だったが、あいつはいつからか冷たい男になっていた」
まるで自分の過去を悔いているようだった。
「そうか。オナキンとルークくんの間には見えないところでわだかまりがあったんだね」
「俺は闇に落ちてまた生きなおすことができた。自分の家族にしてしまったことは申し訳ないと思っている。だけどリナ姫を放っておけない」
今レジスタンスはリナ姫のためという大義名分で動いている。その間はいい。だが。
「争いで生まれた関係は脆いものだ。今は一枚岩でももとは烏合の衆。リナ姫を取り戻したらいつ暴走するかわからない」
そもそもレジスタンスは資金も乏しくカンパでどうにかしているような集団だ。
「だから俺はリナ姫を連れ出し地球にやってきた。でもここまでかもしれない」
「オナキン元気出せよ。らしくないよ落ち込んでいるの」
「そうよ、今日はお兄ちゃんと一緒にうまく追い払えたじゃない」
僕とハナが一緒に慰めると彼は静かにうなずいた。
「そうだな。今は俺一人じゃない。みんながいる。ありがとうな」
あのオナキンが感謝するとは。意外だ。
驚いていると気恥ずかしくなったのかオナキンは鼻をこする。
「俺だっていい大人だ。感謝くらいするさ。だけどルークは俺が放っておいてしまったからこれからが心配だ。まだケンと変わらない年齢だけど中身は子供だから」
親らしい顔をしているオナキンを見ると彼なりに愛情があることがわかる。リナ姫をさらったのもルークと戦うのも己自身のためというよりは子供たちを守りたいという気持ちがあるのだろう。
「僕、オナキンのことを見直したよ。普段は目立ちたがり屋のビビりですぐに人に何かさせようとするって思ってたけど意外と大人なんだね」
「まあ元大人だからな」
オナキンは子供の僕に対しても偉ぶらないし、多少下品で感性がおこちゃまだけど対等でいる。それがありがたいような気がした。
「よしいい話も聞けたことだしみんな一致団結してリナちゃんを守るぞ」
円陣を組み、声を上げる。
「えいえいおー」
「エイエイオ? 」
リナちゃんも言葉がわからないなりに理解してくれようとしている。一緒になってみんなで一つのチーム。ワンチームだ。
「ケン、ハナ、リナ、オナキン、ボナミ」
この時僕たちは友達になれたのだ。
***
翌朝僕は眠い目をこすりながら通学路を歩いていた。昨日は戦いやらオナキンの過去話やらで夜遅くまで起きていて睡眠不足だ。
「オハヨウ」
前を歩いていた金髪イケメンが声をかけてくる。誰だろうと寝ぼけた頭で考えていると彼はペースを緩めて僕を待っていた。
「ケン、何をぼんやりシテイル」
「げっルークくん」
何を隠そう、相手はあのオナキンの息子、ルークくんだった。
「引っ越してきたのは知ってたけど僕の近所だったんだね」
「ああボクの目的はリナ姫だから」
イケメンと美少女が一緒だと絵になりそうだなと一人ごちる。リナちゃんはどうか知らないけどもし彼女がルークくんを好きになったらどうしよう。心の中ではドキドキしていた。
「もしかしてルークくんリナちゃんのことが好きなの」
何を直球で聞いているんだ僕は。
自分自身の言葉に突っ込みたくなったが後悔先に立たず。
「ボクはリナ姫を愛シテイル。家族も同然だ」
その言葉に急に悔しくなる。確かに僕はリナちゃんのことを好きだけどまだ愛しているの領域には達していない。
でも。
「僕も負けないから。リナちゃんのこと好きな気持ちは変わらないから」
なんか宣戦布告してしまったけどいいや。
「これからよろしくね。ライバルだけど友達第一号として困ったことがあったらすぐに言ってね」
「ケンは優しいな」
オナキンのことを敵視しているルークくんのことだから僕のことも嫌いなのかと思っていたけど特にそういうこともなく入学初日のときのように話せた。
「ルークくん、そういえば学校に行ったら係と委員会、部活動決めないとね。先生から色々言われると思うけど好きなやつ選べばいいよ。僕は生き物係なんだ」
主にメダカのえさやりと水槽の掃除を担当している。ウサギや鶏もいるにはいるけど学年が違う。
「日本は色々あってややこしい。係と委員会とやらは何が違ウンダ」
「係はクラスの中の仕事で委員会は学校全体の仕事なんだよ」
「子供は勉強するのが仕事ジャナイノカ」
そういう考え方もあるけど勉強以外にやることがあった方が楽しい。それに授業だけだとみんな退屈する。
「ルークくんって黙っていればモテそうだけど喧嘩っ早いだろう」
「どうしてワカル」
それはオナキンに対する態度もあるけど彼の持つ堂々とした姿勢と尖ったクールな雰囲気からわかる。
自分の意見を曲げないだろうな。
僕はオナキンの言葉を思い出す。
まだ僕と同い年で子供だって。
だったら。
「ルークくんも故郷を離れて心細いだろう。慣れない土地での生活で困ったら喧嘩しないで早く言ってね」
「まるで保護者ダナ」
ふっと笑うとどこか柔らかい表情になる。どうやら彼は僕に心を許してくれたらしい。
「坂の先の校門までかけっこだ」
僕が走り出すと慌てて追いかける。こうしているとまるで普通の子供だった。
オナキンを憎んでいるのも忘れてしまいそうなほどに。
***
キーンコーンカーンコーン
授業が始まるとある異変に気が付く。昨日ルークくんとレジスタンスの一味が破壊した校舎がきれいに元通りになっていたのだ。
「これって……」
「レジスタンスたちが修復シテクレタ」
宇宙の力半端ない。いやこの場合レジスタンス勢力の力か。
「ついでに近くの人間の記憶も操作したから目撃者の心配はナイ」
物騒な能力だ。彼らの目的は何だろう。
「こらケン、授業中だぞ」
担任の先生から注意され僕は静かに授業を受けることにする。
隣のルークくんは落ち着いていて、僕が動揺しているのも気にした様子もない。
「徳川家康の人柄については、泣かぬなら泣くまで待とうホトトギスなんて俳句で例えられている」
では織田信長はと聞かれる。
「えーと……」
なんだっけ。首を絞める? 銃殺する? なんか物騒な言葉だったのは覚えている。
「泣かぬなら殺してしまえホトトギス、ダ」
ルークくんが助け船を出してくれる。
「こらルークくんも助けない。こういうのは本人がやる気にならないと意味がないんだぞ」
「スマナイナ」
そう言われ肩をすくめる姿もさまになっていて、周囲はきゃあきゃあ騒ぎ出す。
「優しくてクールでかっこいいよね、ルークくん」
「あ、あんた今抜け駆けしようとしたでしょ」
「ダメよ。ルークくんはみんなのもの協定結んだでしょ」
女子たちの言葉に少し恐怖を感じたが、彼がモテるのは自然なことなんだろうなと思った。
「こらみんなも騒がない。よーし昼休みはドッチボール大会だ。先生も参加するぞ」
「えーセンセイ強いからヤダ」
男子からはブーイングの嵐だったが先生は気にしない。笑顔でみんなの嫌がることをする。いや、これは先生なりのコミュニケーションの取り方なんだろうけど。
「ルークくんは? 」
「悪い、用事がアル」
断る姿もクールで女子たちのテンションは高かった。
くそう。僕だって負けていられない。
だってルークくんは恋のライバルだから。
***
小学校の放送室を改造した空間に通信室があった。
「ルーク・ウォーム、君は何をしに地球まで来たんだ」
そこからは叱責の言葉を向ける司令官の声がした。彼らはリナ姫を救出するという大義名分で地球進出を狙っているのだ。
「しかし、急いては事を仕損ジル、というダロウ」
「くっ小童が」
司令官は腹を立てているのか口が悪かった。馬鹿にしているわけではないが子供だからと下に見ているようだった。
「リナ姫の居場所はわかるだろう。だったらオナキンを倒して彼女を早く取り戻すのだ。それができないなら地球を滅ぼしたっていい」
なにせ宇宙の平和を守るのがレジスタンスの使命だからなと告げる。
「何を悠長に構えている」
レジスタンスと言えど一枚岩ではない。この司令官みたいに戦いが好きな人間もいれば、自分のようにリナ姫や自分の大切なものを守れればいいという人種もいる。
「リナ姫の居場所はワカッタ。だが彼女の気持ちを大事にシタイ」
だって彼女はケンの家で幸せそうにしている。むしろ彼女の敵となっているのはオナキンではなく自分たちの方ではないのか。
「ええい。気持ちなんてすぐにどうだってなる。大切なのはオナキンが我々の錦の御旗であるリナ姫を奪ったことだ。そうしたら我らの大義名分がなくなる」
大人はいつだって自分たちの事情を優先する。だから信用ならない。
だけど。
ケンと彼の家族は信用できる、そんな気がした。
だからすぐに味方であるはずの司令官の言葉を受け入れられなかった。
「とにかくあと一週間以内にリナ姫を取り戻す、以上だ」
そのまま通信は切られた。
ふうとため息をつく。
父であるオナキンへの怒りは消えたわけではない。
だけどケンたちを陥れるわけにはいかなかった。
だってリナ姫の顔を見ると前よりも明るく楽しそうだから。
「リナ、君を守れるのは誰ナンダロウナ」
誰にも気づかれぬように一人呟いた。
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