第2話

「リナ姫が地球にさらわれあの憎きオナキンが彼女を奪っていった。私たちもすぐさま潜入を」

 ルーク・ウォームはモニター越しにリナの映像を確認する。彼女はレジスタンスに欠かせない人物だ。それがあのオナキンにさらわれるとは。

「承知した。私もすぐに地球へ向かう。居場所ははっきりしている」

 悪の組織の一員になってしまったオナキンを倒さねば世界の平和は訪れない。

「ルーク・ウォームすべては君にかかっている。健闘を祈る」

 それが最後の通信となり日本へと向かう。

 これが宇宙の平和のためだ。


***


 キーンコーンカーンコーン

 僕の通う小学校に新しい転校生が現れた。

「アメリカから転校してきたルーク・ウォームくんです。みんな仲良くしてください」

 キラキラの金髪にきれいなヒスイ色の瞳。女子がざわつき男子も興味津々といった顔だった。

「しかし最近外国の人が多いね。日本が流行っているのかな」

 僕の周りでも騒ぎ始める。そして運の悪いことに。

「ケン、ルークくんの面倒見てやってください」

「はーい」

 僕は教科書を貸すために机をくっつける。転校生だと何かと入用なのだろう。緊張しているのかルークくんは口数少なかった。

「おうケン、早く行こうぜ」

 昼休みになり友達に声を掛けられる。

「ルークくんも一緒に行こう? 」

「アリガトウ」

 どうやら日本語も問題なく話せるようだ。よかった。

「鬼ごっこしようぜ」

「サッカーしようぜ」

「ルークくん何がいい? 」

 転校早々彼は人気者だ。運動神経もよく早くもみんなから慕われている。口数少ないがそこもクールだと女子からの人気も上々。

 彼の堂々とした姿は先生からも好評で転校生としては百点満点の一日だろう。

 帰ったら妹のハナに教えてあげよう。

 そう思っていたところ。

「おーいケン、今日の夕飯は俺と作ろうぜ」

 オナキンだ。ホームステイのためたまに学校に来るが完全なる部外者だ。

「わかったよ。ハンバーグにしよう」

 お母さんから連絡があり今日は遅くなりそうだった。代わりにお父さんが早めに帰ってくれる。だけど家事全般に関しては不器用であまり役に立たない。

「じゃあルークくん、僕これから帰るから」

「マテ」

 彼はオナキンをきつく睨んでいた。まるで憎んでいるように。

「げっルークじゃないか」

「お前知っているのか」

「知っているも何も」

 オナキンは非常に困っているようだった。何があったんだろう。

「ケンこいつはレジスタンスだ」

「は? 」

 そういえばオナキンが前に言っていた記憶がある。彼は闇の勢力だからレジスタンスといえば敵ということだ。

「逃げよう。じゃあルークくんさようなら……」

 その瞬間だった。彼は筒状のものを取り出して。

「やばい。レジスタンスお得意の奇襲だ」

 オナキンが焦り始める。こんなすぐに敵が来るとは想像もつかなかったのだろう。

「レディ・ゴー」

 彼の一声で筒状のものからレーザービームが発射される。しかもこれは玩具じゃない。本物だ。校舎の一部は破壊されめちゃくちゃだ。

「おいオナキン早く対抗しないと。やられちゃうよ」

「仕方ない」

 オナキンも懐から筒状の武器を取り出した。これは闇の力ということでいいのか。

「本当は使いたくなかったが奥の手だ」

 そして自分はマスクをつけると校舎の人気がないところへと駆け出す。

「俺が囮だ。ケンは早く逃げろ」

 なんとあのオナキンが僕の心配をするとはと一人感動していると。

「いけえええ。プープービーム」

 とんでもない悪臭とともに黒い物体が放出される。

「ってこれって」

 ウ●コじゃないかと突っ込む隙を与えず次の一手に出る。

「ピーピービーム」

 黄色い液体が発射される。予想通りだが汚い。

「もう君は汚いネタしかないのかよ」

「だから逃げろといったのに」

 やれやれと肩をすくめるオナキンに怒りを隠せない。わかっているなら先に言ってくれ。

「オナキン、英語でウ●コとお●っこを意味するプープーとピーピーを使うとはさすがだ。だが考えが甘い」

 イケメンのルークくんから下ネタが出てきて周囲の女子に幻滅されないか心配だ。だが彼にはそれ以上に大切な任務があり。

「ボクは研究に研究を重ねとある消臭剤にたどり着いた。それは……」

「ダメだっ。それ以上言ったら著作権や特許に引っかかるっ」

 とっさに僕は叫んでいた。いや難しいことはわからないけど許可とっていないのは明白だったから。

「すべてを浄化する光の力の前では無力だ。早くリナ姫を返してもらおう」

「へ、へんやだね」

 素直じゃないオナキンはへそを曲げ応じようとはしない。というか圧倒的な戦力差。オナキンの負け確定じゃないか。

「ケン、今俺のこと疑っただろう」

「してないってば」

 どうしてこういうときだけ人の気持ちがわかると突っ込みたかったが真剣な場なので静かにする。

「くそおおここまで来たら玉砕覚悟だ。突っ込むぞおおおお」

 汚物とともに駆け出すオナキン。だがクールなルークは右に左に受け流す。

「お前卑怯だぞおおおお。ムーディなんとかみたいに横から受け流すなんて」

「そのネタ僕の世代はわからないから」

 お父さんが一人歌っていることもあるけど古すぎてさっぱりわからないよ。

「だから甘いんだオナキン、ボクが戦っている間にレジスタンスはリナ姫の位置を把握している」

「な、なんだってええええ」

 僕たちは顔を見合わせる。つまり彼らは僕の家に向かっているということだった。


***


「リナ姫、早くここを去り宇宙に帰りましょう。あのオナキンが気づく前に」

 レジスタンスたちはやたらと風になびく服装で僕の家の前にいた。ひらひらと揺れる服はまるで舞台の衣装のようで現実味がない。

「ちょっとあなたたち何しているのっ。リナちゃんはあたしの家にホームステイに来ているのっ」

 妹のハナが箒をぶんぶん振り回しながら威嚇している。こういう時けんかっ早いハナは頼りになる。年下だけど。

「ですが姫、オナキンと一緒に地球にいてもいいことはありません」

「そんなのリナちゃんが決めることでしょ」

 ポカっと箒でレジスタンスを叩くあたり妹の度胸が頼もしいような少し怖いような気がしていると。

「オナキン帰ってきたのねっ。早く説明しなさいっ」

「ハナありがとう」

 オナキンが珍しく素直だと感心していたところだったがその隙にレジスタンスが矛先を僕らに向ける。

「リナ姫をさらうだけでなくかくまった罪は重いぞ。私たちが成敗してやるっ」

「なんで宇宙から来たのに時代劇風? 」

 突っ込んだら負けだがハナが首をかしげる。

「細かいことはいいから、今リナ姫を返すわけにはいかないっ」

 なにせ可愛い女の子にキスされたなんて思い出があるのにこのままプロポーズもできないうちに帰してしまうのは嫌だった。

「君たちはオナキンの味方というのか」

「だったらわかるだろう。オナキンを敵に回したらただですまないのを」

「きれいなままでいさせてほしかったが」

 レジスタンスが慌ててリナ姫の手を引こうとすると。

「ケスクセ。ノン。ジュヌベパ」

 今度は真剣な顔で拒否していた。

「リナちゃん行こうっ。ここは逃げないと」

 すかさず僕はハナと彼女を捕まえて駆け出す。

「ちょっと俺を忘れていないか」

 オナキンが不満げな顔をする。

「お前には特殊な能力があるだろう。うちの前でしたらお母さんに怒られるからなるべく敵を遠くで引きつけて戦うんだ」

 すると彼は自信ありげな表情でうなずく。どうやら調子づいたようだ。

「ノン、パパ」

「悪いなリナ姫、俺は戦うぜ」

 そして旋風を巻き起こす。気づけば干していた洗濯物も巻き込まれ。

「くそこれが闇の力っ。なぜオナキンに使えるんだ」

「なんか三下の台詞っぽいなあ。それよりオナキン洗濯物吹っ飛ばしたらお母さんキレ散らかすよきっと」

「そんなこと知るかああああ」

 調子に乗った彼は敵なしだった。はずだった。

 というのも金髪碧眼のイケメンが現れ形勢逆転とはいかなくなった。

「マテオナキン、ボクが相手だ」

 レジスタンスを撒けたのはいいが案の定ルークが追いつき先ほどの武器を向けてきたのだ。

 さすがのオナキンもこれでは勝てないかと思いきや。

「行けええええ」

 そのまま風と共に突っ込んでいった。無謀だ。やっぱりあいつ馬鹿だ。

「その手はワカリキッテイル」

 再びすべてをかわされると意気消沈したのかオナキンが僕たちを追いかけてくる。

「あれだけカッコつけたのに全然一人で戦えてないじゃん」

「うるせえぐすん」

 オナキンなすすべなし。となると僕とハナとで守らないと。

 だがルークは手を緩めなかった。

 仕方ない。ここまで来たら背に腹は変えられない。

「行けえええゲロゲロゲロッピー。あと五分後に何が起こるかはわかっているだろうな」

 僕は盛大なブラフをかけた。技名を叫んでいる風でオナキンの下ネタの力を借りることにした。五分後には何も起きないんだけどね。しかしそれは効果絶大だった。

「なんだかよくわからないが強そうだ。ルークさま、早く帰りましょう」

「クッ」

 苦い顔でそそくさと引き返すレジスタンスたちを見つめる。

 ただ一人だけルークはきついまなざしを向けていた。

 まるで何かをひどく憎んでいるように。


***


 会社からお母さんが帰ってくる前に僕たちは大慌てで片づけをした。学校の方はどうしようと思ったけどまずはうちの方から。

「あらあ今日はお掃除してくれたの? ありがとうね」

 上機嫌なお母さんの肩を叩きながら僕はオナキン特製ハンバーグの解説をする。

「このハンバーグは国産合いびき肉を使っているだけじゃなくて豆腐も入っていてとってもヘルシーなんだ」

「まあ最高ね。今日はハナもお手伝いしていたみたいだし偉いわね」

 ハナには今日のことは口止めしていた。そして肝心のリナちゃんは少しふさぎ込んでいた。自分が狙われているのだから仕方がない。

「元気出してリナちゃん、何かあったら僕が守るから」

「メルシイ……アリガトウ、ケン」

 彼女も日本語で感謝してくれている。かわいいのでつい嬉しくなってしまう。

「あらあらケンも大人になったわねえ。お母さん感動しちゃった。今日は美味しい夕飯ありがとうね、みんな」

 上機嫌なお母さんはそのまま風呂に入ると寝室で爆睡してしまった。

「ふう。これでうまくいったのかな」

 僕がみんなと集まって声を潜めているとお父さんがノンアル片手に聞いてくる。

「今日は何かあったのかい」

「いやお父さんに言っても解決しないし大丈夫だよ」

「お父さんのけ者だなあ。とほほ」

 暗に役に立たないといわれるとお父さんは少し肩を落とし洗い物を始める。ここは可哀そうだが僕たちが遭遇した事件に巻き込むわけにはいかない。

「それで今日やってきたレジスタンスやらルークくんやらの話はどうなっているの」

「俺だって知りたいよ」

 オナキンに聞いてもあまり役立ちそうな情報は入ってこない気がした。

 だがリナちゃんに聞いても言葉の壁があるせいでなかなか理解できない。

「ハナ、なんかいいアイデアない? 」

「うーんお兄ちゃん灯台下暗しって言葉知らない」

 なんだそれ。近くに解決方法があるっていうのか。

「回覧板でーす」

 ご近所さんから回ってきたので僕が対応しようとすると。

「つい最近引っ越してきたルークくんイケメンよねえ」

「えっルークくんのこと知っているんですか」

 もちろんとうなずく。彼のことを知っているのならば朗報だ。

「だって隣の隣よ。知っているかと思っていた」

 つまり僕たちに安息はないということだった。

「灯台下暗しって。ハナ知ってたのかよ」

「風の便りでイケメンくんが近所に引っ越してきたのをおばさんたちが噂してたよ」

 知っているなら先に教えてほしかった。そうじゃなかったらもっとオナキンのこととか対応できたかもしれないのに。

「お兄ちゃんって考えごと好きな割に抜けているよねっ」

「それは言わない約束」

 僕たち兄妹はよくケンカをするけどピンチになると協力する。それがオナキンには不思議なようで。

「二人とも仲はいいのがわかったけど、俺ルークがいつリナ姫をさらいにくるか心配だ」

 正確にはさらってきたのはオナキンなんだけど。

「俺も腹を割って話そうと思う」

 真面目な顔でオナキンは語り始める。

 この戦いのきっかけとなった事件を。

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