ファミリーウォーズ
野暮天
第1話
「けつくせえ」
今日は朝から草むしりだった。お母さんの人使いは荒い。お父さんはいつも気づいたころには逃げているし、妹のハナはお母さんといつも結託して僕はこき使われる。別に嫌いじゃないけどどうにかしてくれないかなと思う。
さて本題に戻ろう。僕はつい一時間ほど前から庭の雑草と戦っていた。抜いても抜いても消えない草たち。昔の偉い人は雑草という草はありませんと言ったそうだけど僕に聞かれても名前なんて出てきません。
そして金髪碧眼のきれいな女の子がこちらを見つめて一言。
「けつくせえ」
いや可愛い女の子に言われると僕のお尻って臭いって聞き返したくなる。
「さば」
今度は魚のお名前。まったく関係ないので頭が働かない。
「ええとありがとう。僕はケンよろしくね」
どうやらお引越しをしてきたらしい。ご近所付き合いは大事だからここは笑顔で握手だ。
「アンシャンテ」
「あんちゃん手? 」
どうやら言葉は通じたらしい。かわいい女の子に何言われているのかさっぱりわからないが異文化交流は果たせたということか。
しかし女の子は困っているようだった。僕の陰に隠れて何かに怯えている。
「セダンジョウ」
セダンって車のことだよね。車に危ないものがあるということかな。
そしてよく見ると僕と同じ背丈くらいの男の子がいた。
「ここで合ったが百年目、リナ姫は俺がいただく」
「ノン、パパ」
女の子の名前はリナということはわかったけど二人の仲は険悪だ。
「僕が追い払うよ、待っててね」
そして雑草をまとめて投げつける。今の僕最高にかっこいいんじゃないか。
「どひゃあ、草で前が見えない。なんだこの強者は」
そして一人でわたわたしている。少しだけ気の毒になったが戦いに同情は必要ない。日々の家族喧嘩での心構えだ。
「メルシイ、ボク」
「うらめしい僕? 」
少し小ばかにされたのかもしれないと不安になっていたが女の子は笑顔で頬にキスをしてくれた。
僕女の子とはほとんど話したことがないからドキドキだよ。
と頓珍漢なやり取りをしていると倒したはずの敵が喋り始める。
「さっきから突っ込みどころ満載だから言わせてもらうけどな、この子が喋っているのフランス語。俺はマルチリンガルだからわかるけどな」
いや自慢されても嫌われているのはそっちの方だし。あんまり役に立っていないんじゃないか。
「ふんついでにいうと俺が彼女を宇宙からさらってきたんだ。リナ姫は今レジスタンスが追いかけている。このままだと地球と宇宙で戦争が始まるんだ」
「戦争? 」
何をワールドワイドなことを言うんだ。というかこの場合宇宙規模か。
「そうだ。俺はオナキン。闇の力の勢力だ。力を貸してくれ」
「やだよ」
明らかに負けそうというか今まさに負けているというか。
「ちなみに俺には秘められた力がある。だけどそれには代償があってな」
「なんか予想がつく」
どうせ闇の力がとかそんなことだろうと思っていると。
「オナラを我慢する度に強くなるんだ」
「……汚いなあ」
「これがオナキンの術だ」
「ちなみに僕が協力しないとどうなるの」
「世界は闇に覆われ異臭が放たれ、終末へと向かう」
なんとなく汚い戦争になりそうだということだけは予想が付いた。
「ということで俺とリナ姫二人をかくまってくれないか」
「やだよ」
お母さんに子犬を拾おうとしたときなんてめちゃくちゃ説教されたし、お父さんはトラブルを避けたがる。妹は面白がるかもしれないけど。
「あれお兄ちゃんお友達? 」
「ああそうそう。今日からホームステイが始まってフランスから来たリナちゃんとオナキンだ」
あれ口が勝手に動いている。おかしいと思うと。
「ふ、ふん。これが闇の力だ」
お腹に力を込めて必死に何かを唱えている。これオナラ我慢しているんだよな。見ていてかわいそうになってきた。
「わかったよ。話は合わせるからお母さんが許せば一緒に泊まれると思う」
僕は真面目にシナリオを作る。お母さんが納得し、母性を刺激する言い訳を。
***
「あら、こちらがリナちゃん。お人形さんみたいに可愛いわねえ」
お母さんはバリバリのキャリアウーマンで出版社に勤めている。本人曰く永遠の十七歳、女心は忘れないがモットーだ。かわいいもの大好き。かわいいこそ正義。
「リナちゃんは合格っ」
で隣はと冷たい視線を浴びせられる。
「ええとオナキンくんは僕の友達で……」
何も思いつかなかったので数秒固まっているとお母さんのこめかみがひくひくする。怖い。
「そうそうオナキンくんの家はお母さんがスパルタでかわいい子には旅をさせよをモットーに日本に留学に来たんだって。でやっぱり異文化に理解があるうちが最適だからホームステイすることになったんだ。謝礼は弾むからってお手紙ももらったよ」
僕が必死で考えた言い訳と翻訳ソフトを使って書いた手紙を見せるとお母さんはよくわからないという顔をしたがうなずいた。
「まあいいわ。ケンはオナキンくんと同じ部屋。リナちゃんはハナと同じ部屋よ」
そして妹のハナは目ざとく新しいソファかマットレスが欲しいとねだる。ちょっと待て僕たちは雑魚寝ということか。
「もうしょうがないわねえ」
お母さんはネット通販で買い物を始める。これが長いので僕はすごすごと帰ろうとすると。
「お母さん疲れちゃったから夕飯作ってくれる? 」
「へいへい」
僕一人だと割に合わないのでオナキンにも協力させる。
「なあケンの立場弱すぎじゃないか」
「大丈夫一番ヒエラルキーが下なのはお父さんだから」
一応僕に気を遣ってか彼は真面目に協力してくれた。だが問題だったのは。
「俺カレーは甘いやつしか食べられないんだよ」
「俺白いライスじゃなくてパンがいい」
「カモ肉はないのか。俺普通の鶏肉嫌いなんだよ」
非常に口うるさかった。最初のことは許す。だが段々贅沢になっていないか。
「オナキン、キッチンでは僕が絶対で、正義で皇帝なんだよ」
「お、おう」
包丁でニンジンを切りながら睨むとおとなしくなった。
「ケンのやつおっかねえ」
そして具材を一通り鍋で炒め煮込むと野菜ゴロゴロのカレーが完成する。
「いただきまーす」
お母さんはご機嫌で美味しい美味しいといって食べている。そして遅れてきたお父さんはオナキンとリナ姫のことをぼんやりとみてカレーを食べ始める。
「なあお母さん、この二人は? お父さん全然聞いてないんだけど」
「リナちゃんとオナキンくんよ。今日からホームステイなの。これから謝礼が払われると言え生活費は少し切り詰めないと。お父さん発泡酒からノンアルに切り替えるわよ」
「それってアルコールの意味がないんじゃ」
とほほとつぶやくお父さんはかわいそうだがお母さんの言うことも一理ある。
二人分の生活費分は節約しないと、
「今日はありがとうねケン。助かったわ」
「メルシイ、ケン」
なんとなくリナ姫がありがとうと言ってくれているのがわかった。少しだけ胸が暖かくなる。僕は家事は嫌いじゃないけどこうして感謝されるのが好きだった。
「リナちゃん、こういうときはありがとうっていうんだよ」
妹のハナが気を利かせて教えてくれる。
「アリガトウ」
「どういたしまして」
にっこり微笑む彼女は可愛くて胸がドキドキする。これが恋か。そう一人で思っていると。
「なあ俺は俺は? ケンと一緒に手伝ったんだけど俺は」
いい雰囲気が台無しだ。
「ああオナキンも頑張ったんじゃない」
適当の褒めると彼は調子に乗った。非常にうるさい。
「リナ、聞いたか俺褒められているぞやったああああ」
だが悲しいことにお母さんの鶴の一声ですべてが決まる。
「お父さん片づけお願いね。オナキンくんと一緒に」
「ゲッ」
こうして僕たち六人の生活が始まった。
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