第2話 謎の女の子について

7月の下旬くらいだった気がする。何の気配もなく隣に座った彼女、見覚えがまるでなかった。講義は毎回出席していたので、顔はそれなりに記憶していたし、記憶力にも自信はあった。その上で全く見覚えがなかった。

その日からすべての講義で見かけるようになった。しかも、毎度僕の隣に座った。


ここで普通のごくごく一般的な男子諸君ならば、彼女を変に意識し出してしまうかもしれない。だが、僕は違う。警戒の目を緩めはしない。

そんなことを考えながら、いよいよ定期試験がやってきた。これが終われば大学生活最初のドキドキワクワクの2ヶ月に及ぶスーパー夏休みが来るはずだったが、試験会場で目にしたのは彼女の真実だった。


「じゃあ、筆記用具以外はしまいなさい。えー、それと学生証は出しておくように。不正すんなよー。カンニングしたら単位もらえないからなー」


担当教師が隅まで聞こえるような声で言うと問題用紙を配り終えるまでに、全員が学生証を机の上に出した。すると教師が試験開始までの10のカウントを数え始めたその時だった。ふと魔が差した僕は無意識に彼女の学生証を流し目に見た。見てしまった。それは紛れもなくの学生証だった。


驚愕のあまり同様を隠せなかった僕は見事に不合格をもらい8月3日の今日。

こうして授業を受けている僕の隣にはまたしても謎の女子高生が座っていた。


「はぁ・・・」

思わずため息。すると、

「浮かない顔ですね?」

初めて彼女が反応してきたことに驚き、思わず振り向いてしまった。僕は何というべきか言葉選びに思考を巡らせるが、彼女の方が早かった。

「わ、何だこの美少女は!お友達になりたいなぁー。って顔してますよ」

周りに聞こえない程度の声で言った。

「そんな顔はしてない。っていうかマジで何してんだ女子高生!」

僕も彼女と同じくらいの声で話す。・・・先生にバレませんように!

「あっ、やっぱりバレてましたかー。先生はごまかせたんですけどね」

試験の時の学生証。本当になぜバレなかったのか、ザル警備なのか。

「あれは本当に神回避だったな。でもここに居ていい理由にはならないぞ。ついでに僕の隣に座るな」

「それはできない相談ですね。私はここに居てもいい理由がありますし」

微笑みながら彼女は答える。

その時、先生の視線を感じ二人は瞬時にノートに向き直る。

「ほう。そこまで言うなら正当な理由があるんだろうな?」

「当然です。抜かりはありません。なんせ、オープンキャンパスですからね!」

「オープンキャンパスは今日じゃない。そもそもお前毎日来てるだろ」

「熱心なオープンキャンパーでしょう?」

「そんな言葉はしらん」

「特定の大学に執拗にオープンキャンパスを仕掛ける者のことをそう呼びます」

「もはや荒らしだよ」

と、あれこれ雑談を続けていると補習が終わってしまった。まぁ、いっか。


荷物をまとめ席を立ち出口へ向かおうとすると、謎の女子高生は僕のシャツの裾を軽く掴んできた。

「なんだよー」

「いやいや、なに素で帰ろうとしてるんですか!ここは私とおしゃべりする流れでしょ!」

「ぼくままからへんなひとについていっちゃだめっていわれてるんだ」

「そんな!未来の新入生になるかもですよ!後輩になるかもですよ!大学案内してくださいよー!」

「めんどい。帰ってゲームやりたい」

「辛辣すぎです!・・・あ、そうだ。お昼ご飯作ってきたんです!良かったらお礼に差し上げますよ!」

「う・・・」

大学生は飯に弱い。なぜかというと単純にお金がないからだ。勿論親からの仕送りはある。しかしそれだけでは賄えない時もある。人間には欲があると言っておこう。あえてみなまで言うまい。

「あれ?興味津々ですか?女子高生の手作り料理ですもんね!」

「そういう意味じゃない!ただ食費が浮くと思っただけだ」

「ほれほれ、早くしないと食べちゃいますよー?返事はyesか御意かです」

「地味に選択肢ないな」

僕がどうしようか迷っていると、目をうるうるさせてこっちを見上げてくるので仕方なく、昼食に同席することを承諾した。僕のおなかは大賛成だったようだけど。



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