第12話 二ヶ月の成果
「はい、そこまで」
チャイムがなるとほぼ同時に、先生がテスト時間の終了を告げる。それに呼応するように、クラスの皆は示し合わせたように揃って長い息を吐いた。
私はというとそこまで真面目に勉強したわけじゃなかったはずなのに、何故かそれなりに自信のある教科が多かった。特に現代文に関しては、スラスラと文章が頭に入り、漢字の読み書きは、満点を取れているのではないだろうか。
「終わったー。てか最後の問題ムズすぎない?」
「マジそれな。お前、テストどうだった?」
「うちはまあまあかな。」
入学してから初めてのテスト。これ次第で学校での周りからの学力に関する評価が大きく左右される。
自身の点数も気になるところだが、それと同じくらいに他の人の点数が気になるのだろう。
それなりの達成感を感じながら、さっさと筆記用具をカバンにしまい、ホームルームに備える。
そこでふと、いつもならここで一声ぐらいかけてきそうな一ノ瀬さんが、アクションを起こしてこないことが気がかりになり、後ろをチラリと覗き見た。
すると、一ノ瀬さんはいまだ問題用紙と格闘を続けていた。
「・・・・・・何してるの?」
「自己採点も兼ねて見直しをね」
「へぇ。主席様はテストが終わっても主席だね」
「そうよ。あなた風に言うのなら、テストが終わってもまだ頑張っている私、かっこいいでしょ。をしているところよ」
「さいですか」
結局、あの下校時の私の言葉を気にしている様子は見られなかった。
だが、約二ヶ月の月日で私は一ノ瀬さんを避けることをしなくなり、それはあの日、意図的でなかったとはいえ、私が踏み込んだ結果なのだろう。
それで一ノ瀬さんに、少なくとも何らかの悪巧みがないということを知ることができたからだ。
彼女がなぜ私にこだわっているかと言う疑問は残るものの、取り敢えずそれだけわかっていれば十分だ。
松本先生がようやく現れ、ねぎらいの言葉も何もなく下校の流れとなり各々が教室を飛び出していった。
「一ノ瀬さんはこのあと何するの?」
「そうね。まずはあの課題の山を提出して、その後は特に何もないし帰るだけね」
そう言って指差す先には、各教科ごとに出されている課題が教卓に積み上げられていた。
「じゃあそれ終わったらカフェにでも行かない?」
一ノ瀬さんはバックをまとめる手を止め、こちらに振り返った後、またバックをのぞき込んだ。
「大変。今日傘持ってきてないわ」
「今日驚くほどに晴れだぞ?」
「だって、和泉さんが誘ってくれるなんて。嵐が来るに決まってるわ」
「別にいいだろ、私が誘っても。ノートとかテスト勉強とか、何かと助けてもらったから、ケーキと飲み物一杯ぐらいおごってやろうかと思っただけだよ」
「意外と律儀なのね。わかったわ。それじゃあ、ありがたく頂いておくわ。ついでに、あれ運ぶの手伝ってくれる?」
「それは自分でやれ」
「いいじゃない。二人でやったほうが早く終わるわ」
一ノ瀬さんは軽やかなステップとともに立ち上がり、鼻歌交じりにノートやプリントの束を抱える。
「ほら、早くなさいな」
今まで見たことない笑顔を見ていると、たまにはこういう人付き合いも悪くないと思えてくる。
眩しい日差しを追いかけて、私は教室を飛びだした。
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