第11話 松本先生の思惑(その1) 

 (この時期の教室は多くの生徒が残っているから、図書室がおすすめだぞ)

 そんな中でテストを受けるのはごめんなので、松本先生の助言通り、仕方なく図書室へ向かった。

 図書室は、高校に入りめっきりと行く機会が無くなり、利用するのはこれが初めてだった。意外にも人はほとんどおらず、巷で騒がれている若者の読書離れを体現してるほど閑散としていた。

 なんとなく窓際の席を選んで座り、早速テストに取り掛かる。

 まずは紙にざっと目を通す。漢字の読み書きから始まり、言葉や四字熟語などの意味を問うもの、そして短めの文章題といった構成だ。

 小テストと言う割にそこそこのボリュームがあり、早速やる気が削がれるが、仕方なく最初の問に手を付ける。

 まずは分かるものをスラスラと書き、あと少しで分かりそうなものは、浮かぶイメージや言葉の意味などから類推して、書いては消してを繰り返す。それでもわからなかったものは放置した。

 一問目を一通り解き終え、二問目に取り掛かろうとしたところで教室の扉が開いた。

 「あら、和泉さんもここで勉強していたのね」

 一ノ瀬さんが現れた。

 「隣座ってもいい?」

 「他のとこ空いてるでしょ?なんでわざわざ」

 「別にいいじゃない。どこに座ろうと私の勝手よ」

 じゃあなぜ聞いたのだ。

 分かりやすくため息をつくが、それすらも折り込み済みらしくクスクスと笑っている。

 できるだけ隣に座られたことを意識しないように、テストを再開した。

 「それ何してるの?」

 「こないだ授業サボったときのテスト」

 「ふーん、サボった?」

 しまった。一ノ瀬さんには保健室に行っていたことになっていることをすっかり忘れていた。

 「いや、それは言葉の綾でして、この間の現代文休んだでしょ。その日の確認テストをやれって松本先生に渡されてしぶしぶ解いてるわけ」

 「テスト?」

 「そう、こんなのやらなかった?」

 解答途中の答案用紙を横にスライドさせ一ノ瀬さんに見せる。

 「うーん、知らないわね。それを松本先生が?」

 「そうだよ。やっぱり私だけじゃないか」

 「そう、なるほどね」

 何がなるほどだ。

 「他に何か先生は言ってたの?」

 「え?そうだな、わからなかったら委員長に聞けとか、後はこの場所を勧めてくれたくらいかな」

 「そう、あなたはなんとも思わなかったの?」

 「何かおかしな事言ったか?」

 「まあわからなかったのならいいわ。あなた意外と鈍感なのね」

 「なんだよ。何か気づいたのなら教えてくれよ」

 「お友達になってくれるなら教えてあげてもいいわよ」

 「なら別にいいや」

 「もう、意地悪ね」

 友達なんてそもそも口約束みたいな手続きが必要なものでもないだろう。一緒にいたら楽しいとか心地いいとか、そういった事を互いに感じあえるようになり、自然とそれと認識するものではなかろうか。

 まあこの定義で当てはめて考えるのであれば、そういった楽さを感じることができないので、一ノ瀬さんとは友人とは呼べないのだろうが。

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