第10話 負債
五月も終盤に差し掛かり、定期テストの時期が近づいてきたこの頃。高校生になってから初めてのテストで妙な緊張感が高まり、教室でもそれに関する話題が尽きない日はないと言うほど誰しもが浮足立っていた。
そんな中私はと言うと。
「和泉、どうしてこの間の私の授業をサボったんだ?」
担任の松本先生に呼び出されていた。
「いえ、そのですね。外でお昼ご飯を食べていたら眠くなってしまいまして・・・・・・」
ナチュラルに嘘をつき、それとなく申し訳なさそうに見せかける。
「まあ今回は一回目だし許してやると言いたいとこだが、タイミング悪くその日は確認のための小テストをしたんだ。テスト対策でスケジュール管理とかしていたのならすまないが、それだけ受けて帰ってくれ」
「そんなものありましたっけ?」
少なくとも一ノ瀬さんからそんな話は聞いていない。ノートを見た感じでも、あれだけの容量の授業を行いながら、テストを受けるだけの時間があったとは思えない。
「多分あったんだよ。いいからほら、やっておいて損はないから」
今多分って言ったぞ。これは絶対なかったときのやつだ。
そうは思いつつも言い返すことができず、渋々それを受け取った。
「じゃあ、待ってるからそれ終わったらまた持ってこい。わからないとこがあったら、委員長にでも聞け」
呼び出したくせに、今度はあしらうように手を降る。
何らかの意図は感じられるが、隠す気もないような素振りからどこまで本気なのかがわからない。
入学したばかりの頃は、何て先生だと思ったが、いざ授業になると、丁寧で分かりやすく生徒への理解もある。皆が徐々に先生の評価を替えだした頃、唐突に「今日の授業は休憩。人間休むことも大事だ」何て言いながらその日は自習になり、教卓で居眠りし出したこともあり、今はただ単にだらしない人という印象だ。
真面目な生徒にはとんだ災害であり、そうでない者にとってはオアシス。
無論私にとっても後者であったが気まぐれの火種がこちに向くとは想定外。
しぶしぶ職員室を出ようとしたところで、教頭先生に睨まれ、荒々しい鼻を一つ鳴らされた所で察しがついた。
大方、入学早々授業をサボった生徒に釘を刺すために、松本先生が絡まれたといったところだろうか。
大人たちの面倒なしがらみに巻き込まれないように、さっさと退散した。
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