第2話

 俺の名前は田中暢幸(たなか のぶゆき)。


 25歳。


 身長172センチ。体重60キロ。


 会社員。


 俺が働いている企業は中小企業である。大手とか言われるような有名な企業ではない。そして、ブラック企業だ。上司に年中365日ずっと働かされ続けている。俺には休みがまったくない。


 どうして俺が中小企業に就職したのか。  


 それは俺が東都経済大学出身だからだ。つまりはFラン大学出身のためいい企業に就職することができずにこんな超ブラック企業に入ってしまった。


 ああ、もっとちゃんと勉強しておけばよかったと今になって思う。


 高校時代に遊びまくらないで勉強していればもっといい大学に進学することができていたのだろうか。そんなことを今でも思ってしまう。



 さて、そんな俺であるが現在頭が悪いことは十分自分でも理解していた。


 しかし、この現実を理解することは東大生でも無理だろうということだけは分かっていた。


 俺が今置かれている現実。


 それは何かというと。



 「ぎゃおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお」



 ……犬、犬だよね?


 俺の目の前では真っ黒な犬が吠えていた。


 犬……犬というには明らかにサイズは大きいし、叫び声も大きいし、何よりも顔が2つあるような気がするけど……ああ、これは犬だよね?


 俺の頭ではもう何も考えることができなくなっていた。


 現実逃避だ。


 こんなの受け入れることなんかできない。


 そもそもだ。


 ここはどこなんだ。


 俺は、東京の路地裏のバーにいたはずだ。仕事帰りだったはずだ。現に服装はスーツである。仕事をしていた時の服装だ。


 なのに、どうしてこんな森の中で俺は寝ていたのか。


 バーで寝てしまった気がするからこれは夢なのだろうか。と、なると。俺はここであいつに殺されることで夢から覚める。そういう展開なのだろうか。


 いや、でも、もしもだ。ここが現実だとしたら俺は死ぬことになる。一生眠り続ける。そんなことになるのは嫌だ。


 考えろ。考えるんだ。


 そう。Fラン大学を卒業したこの俺の頭で考えるんだ!



 「って、バカに何を考えたって何にもならないだろおおおおおおおおおおおおおおおおお」



 俺は叫んでひたすら逃げることをする。



 「って、追いかけてくるうううううううううううううううううう」



 俺は逃げるが、真っ暗な犬は俺めがけて全力で追いかけてくる。


 スピード的に考えても俺はいずれ追いつかれる。


 え? スピード的とか難しいことを言っているって。いや、それぐらい頭が良い悪いじゃなくて現状を見ればそうなるだろうぐらいわかるだろ。


 だ、誰か助けてくれええええええ。


 叫びたくなるもどうせこのあたりに人がいなそうなので無駄な気がする。


 でも、やはり叫んでしまう。



 「誰か助けてええええええええええええええええええええええええええええ」



 俺の叫び声だけがこのよく分からない世界に鳴り響いたのだった。



 (本当に助けが来なかったらどうすればいいのか)



 頭の悪い俺にはまったく分からないのであった。

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