弊害

 6限の授業は移動教室だったので、急いで授業の準備をして皆の後を追いかけた。別館にある教室だったので、昼休みに走った廊下をまた走っていく。教室にもうすぐ到着するというところで、後ろから声をかけられた。5限の授業中に「あの日の夢」をみていたせいか胸が高鳴った。


「ねぇ、ちょっといい。」

「ん?どうした?」


 後ろに振り返るとそこに居たのは、昼休みに洋介を囲んできた女子達だった。よく見ると、昼休みのときには居なかった女子が1人いた。確か隣のクラスの女子で、名前は田端由紀たばたゆきだったはずだ、と記憶の奥底から呼び覚ます。記憶をあさっていると、田端が話し出した。


「斉藤って今、付き合ってる人いないんでしょ?私、付き合ってあげてもいいけど。」

「いきなり何の話だよ?てか、その質問には俺答えてないだろ。」

「そうなの?私はいないって聞いたけど。」


 昼休みに洋介を取り囲んできた女子の1人が口を挟んでくる。


「何言ってんのよ、態度見れば分かるって!彼女いるやつは『いる』って言うけど、いない奴は隠すか、開き直って『いない』って言うんだから。」

「あのなぁ、確かにいないことは認めてやるよ。それはいいとして、えっと、田端さんだっけ?なんで田端さんはそんなに上から目線なわけ?」

「はぁ?私と付き合いたい奴なんて、いくらでもいるんだよ?そんな私から告られてるんだよ?てか、私から告らせてる時点で、上からにもなるでしょ。返事は聞かなくても分かるけどね。」


 確かに田端は、誰が見ても美人だと口を揃えるぐらいには美人だった。読者モデルとして働いているなんて噂もあって、男子達のなかでは密かにファンクラブができているらしい。しかし、洋介はファンクラブに入っていないし、田端のことを好きでもない。


「確かに答えるまでも無いな。」

「ま、当たり前だよね。じゃ、今度、デートに連れってね。ちなみに私、ファミレスとか絶対無理だから、フランス料理か、イタリアンかにしてね。」

「おいおい、何か勘違いしてないか?俺は断ったんだよ。デートにも連れて行かないからな。」

「はぁ?あんた自分が何言ってるか分かってんの?」


 今度は、先ほどとは違う田端の取り巻きの女子が口を挟んできた。他の取り巻き達も何か言いたそうに洋介を睨んでいた。


「分かってるよ。俺は、他人を尊重できない奴が一番嫌いなんだ。こんな風に告白されて、『よろしくお願いします。』なんて言うわけないだろ。」

「しっ知ってるんだからね!あんたが2年の女に惚れてること!絶対、由紀の方が可愛いに決まってるじゃん。」


取り巻き女子達は皆、口々に「何考えてるの?」とか、「絶対由紀の方が良い。」と言いたい放題に罵声ともとれるような言葉を洋介に浴びせてくる。


「そういうところがお前らの駄目なところだ。そこをなんとかしないことには俺は絶対お前らみたいな奴には惚れん。」


 洋介はそう言い残して、もうすぐ始まる6限の授業の教室に入って行った。洋介と取り巻き達とのやりとりの間、田端由紀は呆然と立ち尽くしていた。


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