——―――12月中旬、夕方――――—— 


 授業が終わって帰宅する時刻になると、日は暮れて辺りはもう暗くなっていた。丘の上高校は、その名の通り小高い丘の上にある。校門から出て坂を下って行くと踏切にぶつかる。踏切を渡ろうとすると、いつも通りの大きな音をたてて遮断桿が降りてきた。ガタンゴトン、ガタンゴトンと洋介の前を電車が通り過ぎていく。


「あの…、すみません。」


 遮断桿が上がるのを待っていると、後ろから消え入りそうな声が聞こえてきた。何だろうと思い後ろに振り返ると、丘の上高校の制服を着て目の高さぐらいまでマフラーを巻いた、身長150㎝ぐらいの女の子が立っていた。


「えっと、何か用ですか?」

「あ、あの、私っ綺麗っですか。」


 顔を真っ赤にしてプルプルと体を震わせながら、彼女は洋介にそう問いかけてきた。その姿を見た洋介は彼女を可愛いと思ってしまった。


「綺麗というより、どちらかというと可愛いですかね。」

「えっ、えっ、えと…。その言葉は初めてで…」

 

 洋介の言葉を聞いた彼女は、さらに顔を真っ赤にして慌てふためいていた。洋介が「寒いし、もう帰っていいかな。」と思いつつ待っていると数分後、彼女は意を決した様子でマフラーをほどき始めた。


「こ、これでもですか!」


 洋介はその姿を見て、一瞬心臓が止まったかのような感覚に陥った。彼女の口が大きく左右に裂けていたのだ。俗に言う「口裂け女」というやつだろう。その姿を醜悪だという人もいるだろう。しかし、その姿を見ても洋介は、彼女を可愛いと思ってしまった。


「う、うん、もちろんだよ。俺はとっても可愛いと思うよ。」

「ほ、本当ですか。よく見て下さい、私の顔を。」

「見てるよ、そのうえで可愛いと言ったんだから。」

「っバカ!バカ!バヵ~」


 そう言い残した彼女は慌てふためきながら猛ダッシュで何処かに走って行ってしまった。その場に取り残された洋介は、今しがた起こった不思議な出来事に混乱しながらも、重要なことに気がついた。


「あ!名前聞くの忘れちゃった!可愛かったなあの子、また会えるかな?同じ高校だよな。また、会えるかな。」


——キンコンカンコン、キンコンカンコン——


 授業終わりのチャイムに、洋介の意識は現実に呼び戻される。周りを見渡すとクラスの皆はすでに、次の授業の準備をしていた。


「はぁ、俺も授業の準備しないと。」


洋介は急いで次の授業の準備を始めた。

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