第22話 抜刀一閃
それに呼応して醜悪な笑みを浮かべていた他の
「じゅんくん……?どう、して━━」
「ごめんね、あいちゃん。駆けつけるのが遅くなって」
同時に恐怖で座り込んでしまっていた
そして
腰を落とし、僅かに半身になる。
普段は落ち着いた穏やかな雰囲気を纏っている背中に、深愛を掴んで離さなかった恐怖が解け消えていく。
と、少し余裕の出来た深愛の思考が一つの違和感を捉えた。
純一は
それは、純一が現れた直後に態勢を崩していた
しかし、今目の前に居る純一は刀を
もちろん、納刀した瞬間は見ていない。
刀は鞘に納められていた。
「じゅんくんはどうやって……?」
その答えは、すぐに示された。
「お前ら……あいちゃんを傷つけようとしたこと…………絶対に許さないっ!」
その言葉と同時に放たれた殺気に、堪らず一番近くにいた
その刹那━━
キンッ
「━━あ」
ついさっき感じたものと同じ優しい風が、深愛の頬を再び撫でた。
鈎爪を振り下ろそうとした姿勢で固まる
次の瞬間には、襲い掛かった筈の
それも鈎爪や翼、嘴だけでなく、
「伝承級を倒した?! 彼は一体、何者なんだ━━!?」
その光景を深愛の横で見ていた
彼にも深愛にも、純一が何をしたのかは見えなかった。
ただ、結果から推測することは出来た。
目にも止まらぬ速さで抜刀し、
言葉にすればただそれだけの事だ。
言葉にするのは簡単でも、それを可能にするには途方もない程の技量が要求される。
さらには、それを学生がやっているという事実に、二人はただ驚くことしか出来なかった。
「……あと、2体」
背後のそんな状況を把握しながらも、純一は鋭い視線を残った2体の
その更に向こう側では、瓦礫に埋もれた
再び太刀へ手をかけ、さらに身体を捩じる。
「時間はかけない。あいちゃんに害が出るなら、即刻排除する」
青白い『
ドッ!!
暴風が吹き荒れた。
地面に描かれた一条の線の先で、抜刀の余波を回転しながら逃がす純一。
残心を解いて納刀した純一は、未だ立ったままの
「じ、じゅんくん?! 危ないよっ!」
「ん? 大丈夫だよ、ほら」
深愛の叫びに、純一は近くにいた
「━━えっ?!」
ピシッ!
音を立てて
直後、『斬られた』事を認識したかのように崩れ落ちる。
2体の
「凄い……本当に、君は一体……?」
「僕は……まあ、隠すようなことじゃないか」
「ヤタガラス教導傭兵団所属、
そう言って『
「ヤタガラス……そうか、だからか……」
「あ、大丈夫ですか?!」
「大丈夫。緊張が解けて眠っただけだよ」
目の前の脅威が排除され、純一という強者が傍にいる安心感からか、緊張の糸が切れた
それを横目に純一は、深愛を支えながらゆっくりと立ち上がらせた。
「ありがとう、じゅんくん。折角会えたのに、もう死んじゃうかと思いました……」
そう言う深愛の身体は、恐怖を思い出したのか微かに震えていた。
ギュっと強く握られたことで出来た服のシワが、恐怖の大きさを示している。
「本当にごめんね。すぐに排除する予定だったんだけど……」
と、背後で足音が聞こえた。
「深愛から、離れろ! この、Fランクがっ!!」
投げかけられた罵声に振り向くと、息も絶え絶えに身体を引きずるようにして歩いてきた景之の姿があった。
「景之くん! 助けてもらったのにそんな言い方……」
「うるさいっ! うるさいうるさいうるさいッッ!!」
「ッ……!」
あまりの物言いに口を挟んだ深愛の言葉を、激しい言葉で遮る景之。
荒く繰り返される呼吸とボロボロの身体とは対照的に、純一に向けられる視線だけがギラギラと輝いていた。
「コイツはFランクなんだ! どうせ今回だって薬の力を使ったに決まっている。それも、俺が使ったものより更に上等なものをだ! でなければ、俺が苦戦してコイツが勝つなんてことがある筈ないんだっ!!」
「景之くん、いい加減に……」
「あいちゃん、待って」
再び口を開こうとした深愛を、今度は純一が止めた。
その視線は鋭く、犯罪者に向けるように険しい物だった。
「
「だから何だ? お前だって使っているじゃないか!」
「そんな妄言は聞いていない。お前、それをどこで手に入れた」
「な、なんだ……それがどうしたって言うんだ」
「答えろ」
「ヒッ……!」
そのとき景之に向けられたのは、先ほどまで
濃密な死の予感に、景之の心は一瞬で折れる。
「か、仮面の商人だ」
「仮面の……。やはり、こっちに来ていたか」
景之の解答にそれだけを呟くと、興味を失ったように背を向ける。
「あいちゃん。都市内はもう安全だけど、学園の方が安全だから移動するよ」
「え、あ、それはいいですけど、この人たちは? それに……」
言い辛そうにしながら、深愛は純一の後ろに視線を向ける。
「都市防衛軍の応援がもう少しで到着するから大丈夫だよ。一番重症だった人は、あいちゃんが治療してくれたから。後の人たちは軽傷だよ」
深愛の言葉に、優しい口調で答える純一。
「彼のことは……ごめん。あいちゃんを危険に晒した奴まで連れて行けるほど、僕は大人じゃないや」
「…………分かりました」
「深愛?!」
深愛までも見捨てるかのような発言に驚愕の声を上げる景之だったが、その姿を意にも留めず、『
「クソ……クソ…………クソォーーッ!!」
純一たちがその場を去った後、景之は瓦礫に拳を振り下ろしながら胸の内に燻る劣等感を吐き出していた。
「見下された。あのクソFランク……俺の事を見下していやがった!」
思い起こされるのは最後の光景。
深愛を傍に侍らせ、自分を見下してきた奴の姿。
そのことにもイラついていたが、その更にあと。
放たれた濃密な死の予感に、思わず怯み委縮してしまった。
そのことが、自分の事だけに我慢がならない。
認められない。
「認めるものか……あの卑怯者が俺より強いなど、認めるものかっ!!」
「おお、おお。これはこれは、期待以上の仕上がりですな」
そんな景之に近づく影があった。
景之に薬を渡した張本人。
夜を写したかのようなローブに全身を包み、顔の上半分を仮面で覆った商人。
「お前……!」
「ああ、これは何やらご立腹のご様子。
相変わらずの人を食ったような物言いの商人に、景之の心が逆撫でられる。
「何か、だと? お前、俺だけじゃなくアイツにも薬を売っていたな?!」
「はて?
「何だと?そんな筈は……」
商人の言葉に考え込み始める景之だったが、それを余所に商人は笑顔を浮かべていた。
「それはそうと、何か
「変わったことだと? そんなことは……」
ドクンッ!
そこまでを口にした時だった。
景之の胸の内で何かが大きく鼓動した。
「な、んだ……コレ、は?」
ドクン、ドクン
それは強く鼓動を続け、景之の胸を圧迫していく。
ドクン、ドクン、ドクンッ!
やがて、全身から響いているのではないかと、景之が錯覚するほどに鼓動が強くなったとき━━
「ストップ」
商人の一声で、さっきまでうるさかった鼓動が止んだ。
とたんに意識を失って崩れ落ちる景之。
「やれやれ。根付きはしましたが、まだまだ“餌”が足りませんか。これは少し、気の長い事になりそうですね」
そう呟きながら商人は、意識を失った景之を抱えると、いつかの夜と同じように空間に溶けるように消えていった。
後に残されたのは、凄惨な戦闘後と倒れた
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