第20話 独断専行
「純一、遅いね~」
「ふん、怖気づいて逃げ出したか。やはりFランクだったな」
「……出た」
そんな3人の間に割り込んできたのは、意地悪気な笑みを浮かべた
「景之くん、じゅんくんはトイレに行ってるだけで……」
「どうせ逃げ出すための方便だろう?アイツがトイレに行ったのはどれだけ前だ?」
「それは……でも、じゅんくんが逃げ出すなんて、そんな筈ないもん!」
「いい加減目を覚ませ! 奴は人間のクズでゴミなFランクなんだ!」
景之の叫びに、騒がしかった教室が静まり返る。
「景之くん……いくら景之くんでも、じゅんくんをそう言うなら怒るよ」
「なっ……」
今まで、どれだけ景之が純一の事を蔑もうが穏やかに諭すだけだった深愛だったが、今回は違った。
厳しい視線と強い口調で、景之と相対する。
「み、深愛?」
それは、景之にとって純一に負けた時よりも衝撃だった。
幼い頃から接してきた深愛は、穏やかで笑顔を絶やさず優しい少女だった。
決して今のように、敵意すら滲ませた視線を幼馴染に向けるような存在ではなかった。
「景之くん。今なら、じゅんくんに謝ってくれれば許すから……」
「うるさいっ!!」
大きな声で深愛の言葉を遮ると、そのまま教室から駆け出してしまう景之。
廊下に出た景之は一瞬、後ろを振り返るが期待していた姿は現れなかった。
その事実が、景之の胸中にある暗い思いを更に深くする。
「くそっ!」
景之は生まれ、容姿、才能のどれをとっても恵まれた人生を送ってきた。
欲しいものは必ず手に入るし、美しい幼馴染もいた。
いずれはその幼馴染と結婚し、家庭を築くのだと疑いもしなかった。
全ての歯車が崩れ始めたのは、アイツが現れたからだ。
自分の知らないもう一人の幼馴染。
“外”の世界から戻ってきたと
そんな見当違いの想いを抱きながら、衝動のままに校舎から飛び出す。
「アイツを倒せば…………いや、アイツが戦ったと嘯いた
いつしか景之は立ち止まっていた。
懐に手を入れ、一つの瓶を取り出す。
それは、いつかの夜に仮面の商人から景之が買い取ったものだった。
しばしの逡巡の後、瓶の蓋を外すと中身を一気に呷る。
変化はすぐに訪れた。
「ふ、ふふ……ははは! これは凄い! こんな物を使っていたのなら、俺が負けるわけだ!」
あふれ出る万能感に、気分が高揚していく。
そんな景之の姿を、ある人物が物陰から眺めていた。
「ふふ、ふふふ。使いましたね? 飲みましたね? あの薬を!」
そう言って狂気さを感じさせる笑みを浮かべていたのは、顔の上半分を仮面で隠した男、景之に薬を売りつけた商人だった。
「やはり、
舞台俳優のように両手を天に向けて広げた男に呼応して、大和に再びけたたましい警報音が鳴り響く。
ついで、都市全体を衝撃が襲った。
「さあさあ、ここからが始まりですよ。どうかどうか、
「な、なんだ!地震か?!」
突然の衝撃に景之は態勢を崩す。
地震のような衝撃だったが、揺れは既に収まっている。
と、
見上げると、都市上空に展開されている対
「な、なにが……?」
『緊急警報!緊急警報!現在、都市上空に
「
景之の胸中に浮かんだのは、自身の名誉を挽回する機会が来たとの想いだった。
今の自分の溢れ出る力であれば、たとえ戦ったことのない
あのいけ好かないFランクよりも、自分が上であると証明出来る。
「そうだ、それを間近で見れば深愛だって!」
幼馴染のあの美しい少女が戻ってくる。
その未来は、今の景之にとって甘美なものだった。
「は、はは、待っていろよ、深愛」
純一とは対照的に、眩いほどに輝く『
いつもであれば決して届かない高さ。
5階にある自分たちの教室にまで到達すると、景之は窓をぶち破り中に入った。
「きゃあああっ!」
「うわっ! 今度はなんだ?!」
騒がしい級友たちを無視し、一直線に目的の人物、深愛に近づく。
「景之くん?!」
「
「うるさい!」
「キャッ!」
様子の可笑しい景之の姿に、異変を感じた
「咲!八岐……ッ!」
「お前も邪魔だ」
「うっ……」
咲と同じように
「咲! 雫!」
「深愛、黙って俺について来い」
「いや! 離してッ!」
抵抗する深愛だったが、その左腕を掴む景之の腕は万力のようで、振り払う事は叶わなかった。
「俺の本当の実力を見せてやる。来いッ!」
そう言って無理やりに深愛を引き連れた景之は、
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