第19話 烏丸・真打
かつては人の営みに溢れ、背の高い建物が乱立していたそこは、
先発していた部隊は既に斥候の
「あれが━━報告にあった
そう言う視線の先には報告にあった通り、伝説級と思わしき
今回観測されたのは、大きな牙と四足が特徴の狼型伝奇級、人の背丈を越える巨体と銃撃や打撃への高い体制を持つスライム型伝承級。
そして、スライム型よりも巨大な背丈と強靭な体躯の伝説級と思わしき人型。
視界に入れただけで沸き上がる恐怖心を押し殺しながら、
「奴らはまだ此方に気付いていない。まず、ここから先制砲撃を行う。その後接近し、近接戦闘を開始する。伝説級と思わしき
「了解!」
「よし、構え!━━━━撃てッ!!」
ドン!と一斉に放たれた『
「グギャアアアアアアッッ!!」
直後、
「命中確認!総員、突撃!」
その姿を認めた
先行する狼型は所々に傷があるものの、その後ろからくるスライム型は無傷のように見える。
加えて、伝説級と思わしき
「じきに後続部隊が到着する。今は引き付ける事だけを考えて戦え!」
隊長の声が木霊するなかで、隊員たちは戦場に身を投じた。
先遣部隊が戦闘を開始したのを、
「あれが報告にあった伝説級……確かに、それだけの力はありそうだけど、成ったばかりと言ったところかな」
『
祖父やヤタガラスの団員と世界中を巡る中で、沢山の
それでも、数多くの人類の心を捕食した個体ではなく、伝説級に辛うじて足りるような力量であることも見抜いていた。
だからと言って、大和存亡の危機である事には変わりないのだが。
「これは、今借りている『
腰に吊るした太刀を一目見た純一は、『
滞空する途中で、目的の建物を探す。
「……あっちか」
重力に引っ張られるまま、迫ってくる地面。
それに構わず空中で器用に態勢を整えると、轟音と砂埃を立てながら着地した。
普通の人間であれば両足の粉砕骨折で済まない状況だが、『
「うわぁっ!な、なんだ?!」
「ひ、人!?……人が降ってきたぞ!」
そんな混乱を無視し目的地、心機工学科の工房棟へと猛スピードで走っていく。
途中で何人かの学生に驚かれながらも工房棟へ到着した純一は、入り口に設置された案内板から目的の部屋を探した。
「お、意外と近くだったな」
入り口を入って突き当りの工房。
表札に“村正”とつけられた扉をノックする。
「……誰や?今日は誰も
「
「なんやて?!」
驚く鈴香の声がしたかと思うと、何かをひっくり返したりぶつけたりする音が響き、一瞬の静寂を挟んで扉が開かれる。
「びっくりしたわ。急にどないしたんや?今、戦闘学科は教室待機してる筈やろ?」
扉を開けた鈴香は、簡素ながらも古風な和服に身を包み、動きやすいようにか袖をたすき掛けしていた。
「そうなんですが、ちょっと急ぎの事情がありまして」
「……なんや?」
「先輩、今すぐ『
「それは……構わへんけど。えらい急な話やな」
「ええ。でも、どうしても必要なんです。今お借りしている太刀も良いのですが、やはり自分用に少しでも調整された『
「……まあ、いいわ。詳しい話は中で聞こう。入り」
「ありがとうございます」
中に入ると、そこには様々な機械と素材が綺麗に整頓されて置かれていた。
一部、乱れているところはさっきの大きな音の原因だろう。
促されるままに椅子へ座った純一の前に、鈴香が腰を下ろす。
「それで、何があったんや」
「正直なところ、詳細を先輩にお話しすることは出来ません。それでも、確実に必要になると考えています」
「……いま
「コイツもいい一振りなのですが……」
そう言うと、腰に吊るしていた太刀を鈴香に差し出す。
「……なるほどな。確かに万全、とは言えへんな」
作り手である鈴香は差し出された太刀が、自分の作り上げた状態から僅かに変化していることに気付いた。
詳細は改めて調べなければならないが、原因は以前と同じだろう。
純一の力量に『
「なるべく消耗しないように気を付けたのですが……」
「かまへん。それでこそ刀の打ち甲斐があるってもんや」
「では?」
「純一の刀、打ったるわ。ウチはアンタの専属心機技師やからな」
「ありがとうございます!」
話が決まってからの鈴香の動きは早かった。
室内に設置されていた機械で純一の身体情報をスキャンする。
「うひゃ~!純一、アンタ相当鍛えてるのな」
「最近まで“外”で暮らしていましたから」
「噂は本当だったっちゅう訳や」
話しながらも手は物凄い勢いで動き、必要な情報を入力していく。
「今回は急いでるみたいだから、調整だけしか出来へんけど堪忍な!」
「十分です」
部屋の中にあった太刀をしばらく眺め、ある1本を取り出す。
それは、純一が最初に借りた太刀と似た姿をしていた。
「鈴香先輩、それは……?」
「コイツは“烏丸”、その真打や」
古来より刀匠は同等の刀を数本作製し、その中で一番出来の良いものを“真打”、それ以外の“影打”としている。
その習慣を鈴香も踏襲していたのだ。
「つまり、僕が以前使っていたのは……」
「正式に言うのなら“烏丸・影打”やね。勿論、こっちの“烏丸・真打”の方が良い出来やで」
「何故、影打のみを保管庫へ?」
「そりゃあ、どこの馬の骨とも知れんやつに、ウチの可愛い最高傑作を使わせるわけないやん」
当たり前の事のようにそう言い切った鈴香は、“烏丸・真打”を『
既に『
「よし、完了や!持っていき!」
「ありがとうございます、鈴香先輩!」
「ええって。今度は時間のある時に来てな、一からしっかりと打たせてもうからな」
「その時は、よろしくお願いします」
調整された“烏丸・真打”と元々持ってきていた太刀を腰に吊るす。
「ほーう。これまた、聞きたいことが出てきたわ。絶対、帰ってくるんやで」
「もちろんです」
鈴香にお辞儀をして礼を言った純一は工房棟を後にすると、再び校舎の屋上へと向かった。
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